ワールドファミリーバイリンガルサイエンス研究所

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2021.04.13

バイリンガル環境で子どもを育てると、子どもの言語発達が遅れる原因になりますか?~①初期の言語発達について

バイリンガル環境で子どもを育てると、子どもの言語発達が遅れる原因になりますか?~①初期の言語発達について

■今回の悩み・疑問

バイリンガル環境で子どもを育てると、子どもの言語発達が遅れる原因になりますか?

■回答

二つの言語にふれる環境が言語発達遅滞の原因になることはありません (Baker & Wright, 2021, p. 96)。ただし、それぞれの言語にふれる量などから影響を受けて、一方の言語がモノリンガル環境で育つ子どもよりもゆっくりとしたペースで発達しているように見える時期を経験する子どももいます。この場合は、言語発達の遅れや言語障害と結びつけられるべきではありません。

先行研究の概要紹介 〜第1回:初期の言語発達について〜

【目次】

 

子どもの能力に対する考え方の変化

生後間もないころから二つの言語を学ばせることは、子どもの言語発達にとって負担になると考える人がいるかもしれません。子どもの脳は風船のようなもので、すでに一つの言語情報で膨らんでいる風船の中にもう一つの言語情報が入ってしまうと、処理能力の限界を超えて風船が破裂してしまう、というような考え方です。

一方で、子どもの脳はコンピュータのようなもので、もともと膨大な情報を処理する能力(ハードウェア)が備わっており、発達が進むにつれて必要に応じた情報処理プログラム(ソフトウェア)が追加され、複雑な処理が可能になる、という考え方もあります(Paradis et al., 2011)。

つまり、子どもは、生まれつき複数の言語を習得する能力がある、ということです。

この後者の考え方を支持する研究結果は数多く報告されており、近年は、二言語環境は言語発達に悪影響を及ぼさない、という見解がさまざまな論文や書籍で発表されています。例えば、2011年に出版されたカナダの研究チームによる著書「Dual Language Development & Disorders」(「二言語発達と言語障害」※IBS訳)は、バイリンガルの子どもに関わる人々(親や教育関係者、言語聴覚士、医師など)に向けて、そのような見解を学術的根拠とともに明確に示しています。

そこで、本記事では、この文献に基づき、「二つの言語にふれる環境は言語発達遅滞の原因にならない」という回答の根拠となる先行研究を計5回ほどに渡っていくつか紹介していきます。

今回は、バイリンガルの子どもの初期の言語発達がモノリンガルの子どもと同様であることを示した先行研究についてです。

 

音声の知覚について

子どもは、生後数カ月のうちに、発話のリズムや抑揚などの音声的特徴(韻律)によって、親が話す言語の音声(母語)とそれ以外の言語の音声(外国語)を聞き分けられるようになります(Mehler et al., 1988)。では、両親がそれぞれ別々の言語を話す場合は、子どもにとって負担となり、異なる言語を聞き分ける能力の発達が遅れるのでしょうか?

スペインでは、この考え方を否定する研究結果が報告されています。

この研究(Bosch & Sebastian, 2001)では、スペイン語とカタルーニャ語(※1)にふれて育っているバイリンガル児(生後4カ月 28人)を対象に、スペイン語の発話とカタルーニャ語の発話を聞かせる実験が行われました。結果、二つの言語は音声的特徴が似ていて聞き分けが比較的難しいにもかかわらず、同月齢のスペイン語モノリンガル児、カタルーニャ語モノリンガル児と同じくらい正確に、それぞれの言語を識別できることが示されました(※2)

また、カナダには、英語・フランス語のバイリンガル児について調査した研究(Burns et al., 2007)があります。生後6〜8カ月、10〜12カ月、14〜20カ月のグループ(バイリンガル児・モノリンガル児それぞれ約10〜20人)のうち、どのグループが音声を識別できるか(例:英語/フランス語の子音が[b]から[p]に変わったときに気づけるか)を調べたところ、両言語とも生後10〜12カ月までにできるようになることがわかりました。

これは、英語モノリンガル児が英語の音声を識別できるようになる時期と同じでした。

さらに、イギリスでは、英語・ウェールズ語のバイリンガル児は、英語モノリンガル児と同時期(およそ生後11カ月)に、知っている語彙と知らない語彙の音声を両言語で識別できた、という報告もあります(Vihman et al., 2007)。

これらの先行研究から、二つの言語にふれる環境が原因で音声を聞き分ける能力の発達が遅れることはない、と考えられます。

 

喃語について

子どもの初期の言語発達には、喃語の出現があります。アメリカでは、英語のみにふれて育ったモノリンガル児(計44人)と、英語とスペイン語にふれながら育ったバイリンガル児(計29人)の喃語発達(生後0歳4カ月から1歳6カ月まで)を比較した研究が行われています(Oller, Eilers, Urbano, & Cobo-Lewis, 1997)。

結果、モノリンガル児とバイリンガル児は、規準喃語(※3)が出現する時期に差が見られず、そのような喃語の量(全体の発声における割合)も同等であったことがわかりました。

また、カナダでは、英語とフランス語にふれながら育ったバイリンガル児の喃語の特徴(生後10カ月から15カ月まで)を分析した研究があります(Maneva & Genesee, 2002)。結果、子音+母音の音節、閉鎖音(※4)+母音の音節、開音節(※5)が多いなど、モノリンガルと同様に、一般的な喃語の特徴が見られました。

さらに、英語話者である母親と一緒にいるときと、フランス語話者である父親と一緒にいるときでは、喃語の特徴が異なることもわかり、その違いは、英語とフランス語における音声特徴の違いと一致していました。そして、そのような特徴が現れる時期は、英語モノリンガル児、フランス語モノリンガル児と同じ月齢幅の範囲内でした。

このように、相手が話す言語に応じて、その言語の音声特徴が子どもの喃語に現れることは、英語・スペイン語にふれて育っている子どもを対象とした研究でも報告されています(Andruski et al., 2014; Sundara et al., 2020)。これは、単に子どもが相手の言語の音声をその場で真似している、というわけではありません。

Sundaraら(2020)の研究によると、スペイン語にふれたことがない英語モノリンガル児は、相手がスペイン語話者であっても喃語の特徴に変化がないことがわかりました。一方、短期間であってもスペイン語にふれた経験(※6)をもつ英語モノリンガル児は、バイリンガル児と同様に、相手がスペイン語話者であるときには、喃語にスペイン語の音声特徴が見られました。

 

つまり、バイリンガル児は、モノリンガル児と同様に喃語が発達し、さらに、ことばを話し始める前の段階から二つの言語を区別して各言語の音声を身につけられる、ということです。

 

■当研究所所長 大井静雄医学博士コメント

大井先生のお写真

「脳の段階的な言葉の発達を考えると、日本語を母語とするお子さんが、英語でも体験しようとすること、つまりニューロンのネットワークの拡大時期に、英語の体験をするということは、母語の習得の妨げになるのではなく、むしろ、日本語と英語の両方の脳のネットワークを作るうえで最も適した行動であると言えます。

脳の発達に伴い、英語と日本語を聞き分ける能力も芽生え始め、英語で話されたら英語で話すというような脳の回路ができてくるのですが、例えるなら「線路が2つできる」ということです。言語という大きなターミナル駅があって、そこから日本語、英語2つの路線ができるイメージですね。」

 

〜次回は、バイリンガル児の語彙発達について紹介します〜

 

(※1)スペイン東部のカタルーニャ州などで話されている言語。

(※2)ただし、カタルーニャ語特有の母音/e/と/ɛ/の違いを聞き分けられるかどうか、という実験を行った研究では、カタルーニャ語モノリンガル児のほうがスペイン語・カタルーニャ語のバイリンガル児よりも早い時期(生後8カ月)に聞き分けられた、という結果が出た。

しかし、母音/e/と/ɛ/の聞き分けは大人のスペイン語話者にとっても難しいこと、そして、バイリンガル児は生後4カ月のときには聞き分けができていて生後12カ月のときに再度聞き分けられるようになったことから、バイリンガル児は、類似する二つの音素の聞き分けに関しては、その言語のみを聞いて育つモノリンガルとは異なる処理プロセスを経て発達すると考えられている(Bosch & Sabastian-Galles, 2003)。

(※3)子音+母音の構造を含み、複数の音節から成る発声(例:mama/ママ)。どの言語環境で育った乳幼児にも共通して見られる発達段階であり、その後の言語発達と関係すると考えられている(Oller et al., 1998))。

(※4)唇や舌などを使って息の流れを止めたときの音声(例:p, b, t, dなど)。

(※5)母音で終わる音節。

(※6)スペイン語話者と一緒に遊ぶセッション(1回25分間)が4〜6週間に渡って計5時間行われた。

 

■関連記事

乳幼児期の英語使用は日本語の語彙発達を遅らせるか – 近年の先行研究からの考察

 

参考文献

Andruski, J. E., Casielles, E., & Nathan, G. (2014). Is bilingual babbling language-specific? Some evidence from a case study of Spanish-English dual acquisition. Bilingualism: Language and Cognition, 17(3). 660-672.

https://doi.org/10.1017/S1366728913000655

 

Baker, C., & Wright, W. E. (2021). Foundations of bilingual education and bilingualism (7th ed.). Multilingual Matters. Bristol, UK: Multilingual Matters.

 

Bosch, L. & Sebastian-Galles, N. (2001). Evidence of Early Language Discrimination Abilities in Infants From Bilingual Environments. Infancy, 2(1), 29-49.

https://doi.org/10.1207/S15327078IN0201_3

 

Bosch, L., & Sabastian-Galles, N. (2003). Simultaneous Bilingualism and the Perception of a Language-Specific Vowel Contrast in the First Year of Life. Language and Speech, 46(2-3), 217-243.

https://doi.org/10.1177%2F00238309030460020801

 

Burns, T. C., Yoshida, K. A., Hill, K., & Werker, J. (2007). The development of phonetic representation in bilingual and monolingual infants. Applied Psycholinguistics, 28, 455-474.

https://doi.org/10.1017.S0142716407070257

 

Maneva, B., & Genesee, F. (2002). Bilingual babbling: Evidence for language differentiation in dual language acquisition. In B. Skarabela, S. Fish, & A. H.-J. Do (Eds), Proceedings of the 26th Boston University Conference on Language Development (pp. 383-392). Somerville, MA: Cascadilla Press.

 

Mehler, J., Jusczyk, P., & Lanmertz, G. (1988). A precursor of language acquisition in young infants. Cognition, 29(2), 143-178.

https://doi.org/10.1016/0010-0277(88)90035-2

 

Oller, D.K., Eilers, R.E., Urbano, R., & Cobo-Lewis, A. B. (1997). Development of precursors to speech in infants exposed to two languages. Journal of Child Language, 24(2), 407-426.

https://doi.org/10.1017/S0305000997003097

 

Oller, D.K., Eilers, R. E., Neal, A. R., & Cobo-Lewis, A. (1998). Late Onset Canonical Babbling: A Possible Early Marker of Abnormal Development. American Journal of Mental Retardation, 193(3), 249-263.

https://doi.org/10.1352/0895-8017(1998)103%3C0249:LOCBAP%3E2.0.CO;2

 

Paradis J, Genesee J, Crago MB, Lenard LB. (2010). Dual Language Development & Disorders: A handbook on Bilingualism and Second Language Learning. Baltimore: Paul H. Brookes Publishing; 2010.

 

Sundara, M., Ward, N., Conboy, B., & Kuhl, P. K. (2020). Exposure to a second language in infancy alters speech production. Bilingualism: Language and Cognition, 23(5), 978-991.

https://doi.org/10.1017/S1366728919000853

 

Vihman, M. M., Thierry, G., Lum, J., Keren-Portnoy, T., & Martin, P. (2007). Onset of word form recognition in English, Welsh, and English-Welsh bilingual infants. Applied Psycholinguistics, 28, 475-493.

https://doi.org/10.1017.S0142716407070269

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