日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2020.05.08
論文タイトル:
Co-Viewing Supports Toddlers’ Word Learning from Contingent and Non-Contingent Video (2018)
共同視聴が幼児の映像による語彙学習を支援
―映像における社会的随伴性の有無にかかわらず有効―
著者:
Garielle A. Strouse, Georgene L. Troseth, Katherine D. O’Doherty, and Megan M. Saylor
ジャーナル: Journal of Experimental Child Psychology; 166: 310-326
アクセス: https://doi.org/10.1016/j.jecp.2017.09.005
要約:Paul Jacobs
翻訳:佐藤有里
・親が子どもと一緒に教育映像を見ることは、子どもの学習を支援する。
・社会的随伴性(子どもとの応答的なやりとり)がある映像内容は、子どもの関心を高めることに役立つ。
・子どもは、他者との相互作用によって、映像からも学習することができる。
映像(テレビやタブレット端末など)で言語を学ぶことは、乳幼児期の子どもにとっては難しい場合があります。ことばをまだ話し始めていない乳幼児が学習しているのかどうか、親は判断することができません。
学習に役立つことを期待して映像教育プログラムを子どもに見せる親もいれば、そのような映像を一切見せずに他者から対面で教われるようになるまで待とうとする親もいます。
他者との相互作用が乳幼児の学習を促進させることは複数の研究により実証されてきており、特に子どもにとって意味のあるやりとりになっているときに有効です。乳幼児にとっての「社会的有意味性」のある関係性は、家族のような信頼できる他者との間に築かれます(Krcmar 2010)。
親による映像の共同視聴(例:親が子どもと一緒に映像を見る)は、このような他者との関係性を学習の場に応用する方法の一つです(Strouse, O’Doherty, and Troseth 2013)。また、子どもの学習を促進させると考えられている社会的相互作用はほかにもあります。
子どもに対して応答的な反応を示しながら働きかけるやりとりであり、「社会的随伴性」と呼ばれます(Roseberry, Hirsh-Pasek, and Golinkoff 2014)。
以下に紹介する研究が明らかにしようとした疑問点は、「共同視聴と社会的随伴性のあるやりとりは、両方とも幼児の映像による語彙学習を手助けするのか?」ということです。
この研究は、子どもの言語学習を促進させる手段として音声・映像メディアを活用しようとする親にとって、それらによる学習効果を最大限に引き出すために役立つかもしれません。親は、子どもの関心を映像内容に向けさせて学習を促すうえで重要な役割を果たすことができます。
この研究の対象者は、生後28.2カ月〜32.3カ月の子ども88人です。子どもがテレビ画面から知らない語彙を学習する際、社会的随伴性のあるやりとり(肯定的な応答や子どもの誤りを修正する応答)と共同視聴(共同注意)が学習成果に与える効果を調査しました。
乳幼児は、全員、親が隣に座っている状態で、画面上に映し出されている女性から指導を受けながら語彙を教わります。親は、実験者から二通りの指示を受けました。
ある親たちは、子どもの手本になるように映像の指示に従って画面を見たり、視線を合わせたり、動きを真似たりするように言われます(共同視聴)。別の親たちは、子どもの隣で書類への記入作業に集中するように言われました。
子どもは、Skypeのようなライブ・ビデオ通話(映像の随伴性あり)、または事前に録画された映像(映像の随伴性なし)、いずれかの方法で学びます。画面上の女性は、子どものどのような反応にも使える汎用的な応答(例:「よくできました」、「すごいね」)、または、子どもの反応に合わせたリアルタイムな応答(社会的随伴性)のいずれかを行いました。
これらの異なる学習条件により、子どもたちは4つのグループに分かれました。
グループ1:親との共同視聴あり+映像の社会的随伴性あり
グループ2:親との共同視聴あり+映像の社会的随伴性なし
グループ3:親との共同視聴なし+映像の社会的随伴性あり
グループ4:親との共同視聴なし+映像の社会的随伴性なし
子どもたちは、全員、はじめに学習環境に慣れるためのウォーミングアップの時間があり、慣れ親しんだもの、そして、見知らぬもの(これから語彙を学ぶ対象物)を使って遊びました。
この段階では、学習対象物の名称(語彙)は明らかにされず、子どもたちはそれが何と呼ばれるものかを知らない状態です。
その後、子どもたちは上記の4つのグループに分かれ、テレビ画面の前に座ります。まず、画面上の映像に慣れるための練習時間があり、次に、ウォーミングアップの時間に遊んだ学習対象物の名称を教わります。
画面上の女性は、二つのものを机の上に置き、そのうち一つを「modi」と呼んで子どもに名称を教えました。
そして、画面上の女性とは別の人物によって、子どもが語彙を学習したかどうかをテストしました。 子どもは、二つのものを差し出され、「どちらがmodiですか?」と聞かれます。もし正しいほう(学習対象物)を手に取れば、語彙を学習したことの表れと判断されました。
親が積極的に映像学習に参加したグループ1・2の子どもたちは、新しい語彙を学習しました。しかし、親が手本を示さなかったグループ3・4の子どもたちは、応答的なやりとりがある映像であっても、比較的、正確に学ぶことができませんでした。
英語力に自信はないが映像などのメディアを活用して子どもに英語を学ばせたい親にとって、この研究結果は心強いものです。
子どもは、親が手本を見せること(共同視聴)で生まれた学習における社会的な意味によって、画面上の情報を学ぶべきものとして認知したと考えられます。親による効果的な共同視聴の方法は、子どもと画面との間で視線を行き来させる(画面に関心を向ける)、画面上に映し出された動きや聞こえたせりふを真似る、などです。
ほかの先行研究では、親がテレビ映像を見ながら語彙をリピートして言うことの効果について言及されていますが、この研究においては、親は語彙を口に出さず、映像に対する反応は身体的・視覚的なものがほとんどでした。このような学習状況も効果的であることを示した一例であり、子どもに学ばせたい言語を話せない親も活用できます。
この研究では直接的に調査されていませんが、画面外で生じる社会的有意味性は共同視聴のほかにもあることが結果から推察されます。
それは、おもちゃや学習対象物を映像で見せる前から、それらに子どもを慣れ親しませておくことです(Butler and Markman 2014; Sage and Baldwin 2011)。この研究における子どもたちは、語彙を学習する前に、対象物を手に取って遊ぶ時間がありました。
これが画面上で起きている出来事を現実世界に当てはめて理解することの難しさを克服することに役立ちました(’Doherty et al. 2011)。子どもは、実際に持っているおもちゃなどが登場する学習映像であれば、映像を見る前、見ている最中、そして見終わったあともそのおもちゃで遊んで慣れ親しむことができ、学習が促進される可能性があります。
今回紹介した研究結果によると、おもちゃに慣れ親しんでおくことは子どもが映像の世界を現実世界と結びつけるうえで役立ったかもしれませんが、映像を見る際に親の関与がなければ学習効果が低くなります。
この研究における実験においては、親が手本を示すこと、そして、映像が子どもに対して応答的な反応を示す内容であること、この二つを組み合わせることが乳幼児の映像学習を促進させることが示されました。
■関連記事
Butler, Lucas P., and Ellen M. Markman. 2014. “Preschoolers Use Pedagogical Cues to Guide Radical Reorganization of Category Knowledge.” Cognition 130 (1): 116–27.
https://doi.org/10.1016/j.cognition.2013.10.002
Grossmann, Tobias, and Mark H. Johnson. 2007. “The Development of the Social Brain in Human Infancy.” The European Journal of Neuroscience 25 (4): 909–19.
https://doi.org/10.1111/j.1460-9568.2007.05379.x
Krcmar, Marina. 2010. “Can Social Meaningfulness and Repeat Exposure Help Infants and Toddlers Overcome the Video Deficit?” Media Psychology 13 (1): 31–53.
https://doi.org/10.1080/15213260903562917
Kuhl, Patricia K., Feng-Ming Tsao, and Huei-Mei Liu. 2003. “Foreign-Language Experience in Infancy: Effects of Short-Term Exposure and Social Interaction on Phonetic Learning.” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 100 (15): 9096–9101.
https://doi.org/10.1073/pnas.1532872100
O’Doherty, Katherine, Georgene L. Troseth, Priya M. Shimpi, Elizabeth Goldenberg, Nameera Akhtar, and Megan M. Saylor. 2011. “Third-Party Social Interaction and Word Learning from Video.” Child Development 82 (3): 902–15.
https://doi.org/10.1111/j.1467-8624.2011.01579.x
Roseberry, Sarah, Kathy Hirsh-Pasek, and Roberta Michnick Golinkoff. 2014. “Skype Me! Socially Contingent Interactions Help Toddlers Learn Language.” Child Development 85 (3): 956–70.
https://doi.org/10.1111/cdev.12166
Sage, Kara D., and Dare Baldwin. 2011. “Disentangling the Social and the Pedagogical in Infants’ Learning about Tool‐use.” Social Development 20 (4): 825–44.
https://doi.org/10.1111/j.1467-9507.2011.00624.x
Strouse, Gabrielle A., Katherine O’Doherty, and Georgene L. Troseth. 2013. “Effective Coviewing: Preschoolers’ Learning from Video after a Dialogic Questioning Intervention.” Developmental Psychology 49 (12): 2368–82.
https://doi.org/10.1037/a0032463