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2020.05.15

乳幼児の社会的発達と第二言語習得の関係

乳幼児の社会的発達と第二言語習得の関係

論文タイトル:
The Development of Social Brain Functions in Infancy (2015)
乳幼児の脳における社会的機能の発達

著者:
Tobias Grossmann

ジャーナル:Psychological Bulletin 141(6): 1266 – 1287
アクセス: https://psycnet.apa.org/doi/10.1037/bul0000002

要約:Paul Jacobs
翻訳:佐藤有里


 

まとめ

乳幼児が生後1年間で発達させる脳の社会的機能には6つの特性がある。

1)自己との関連づけ、2)共同的な関わり、3)予測、4)カテゴリー化、5)識別、6)統合

これらの特性は、言語発達においても重要である。

 

 

はじめに

言語発達と社会的発達の関係

いかに言語学習が社会的相互作用と関係しているかという点について議論したKuhl(2007)の論文は、言語発達の研究に大きな影響を与えました。この論文では、乳幼児の脳が一つまたは複数の言語を処理して学習しやすくなるうえで、他者との関わりが極めて重要な要素の一つであることが示されています。

したがって、乳幼児が生後間もない時期から他者と関わり合いながらやりとりすることを好むようになることは、驚くことではありません。Grossmann(2015)は、ほかの研究者たちによる神経学的研究と行動学的研究から得た知見を融合させ、以下に要約する、乳幼児の社会的発達における6つの特性を明らかにしました。

乳幼児が生後1年間で発達させる社会的能力を理解することにより、言語を習得するうえでどのような社会的相互作用が必要か、ということを知ることができます。

 

 

研究結果

脳の社会的機能における発達の特性

Grossmannによると、脳の社会的機能は生後1年間で発達し、その発達は6つの特性によって特徴づけられます。6つの原則とは、以下になります。

1)自己との関連づけ
2)共同的な関わり
3)予測
4)カテゴリー化
5)識別
6)統合

1)〜3)の特性は乳幼児期の前半(生後6カ月以前)から、4)〜6)の特性は後半(生後6カ月以降)から現れます。

Grossmann(2015)による説明の多くは、脳の神経ネットワークについて深く掘り下げて考察したものです。しかし、今回の要約では、この側面については直接議論せず、脳の社会的機能の発達における6つの特性を完結にまとめて説明し、言語習得との関係性を示すことに焦点を当てています。

乳幼児期における社会的情報処理の神経基盤については、Grossmann(2015)を参照してください。

 

1)自己との関連づけ

乳幼児は、他者が自分に関わろうとするときのあらゆる合図を感じ取るようになります。相手が自分に対して視線を合わせること、話しかけること、応答的に反応すること(社会的随伴性)(※1)に気づくと、その他者とのやりとりが自分に「関係がある」ことだと理解しやすくなります。

そして、「関係がある」と認識したものに関心を向けます。このような考え方は、例えば、母親が赤ちゃん向けの話し方(単純な文章でゆっくりと高い声で話す)で絵本を読み聞かせたときと、大人向けの話し方(普段通りに話す)で読み聞かせたときの乳幼児の反応を比較した研究で明確に示されています(Saito et al. 2007)。

子どもは、赤ちゃん向けの話し方など、母親の発話に「自己への関連づけ」の手がかりがあるときのほうがよく話に聞き入っていました。乳幼児は、生後間もない(生後6カ月以前)時期からこのような社会的な手がかりを感じ取り、重要な情報(信頼できる相手からの言語インプット)を処理するために活用するのです。

(※1) 「随伴性」は、他者同士のやりとりにおいて、一人がもう一人の行動や発言に反応を示すときに生じます。例えば、乳幼児が母親の注意を引こうとして笑顔を見せたときに、もし母親が微笑み返したら、そのやりとりは随伴性のある相互作用となります。または、幼児が椅子を指差して「イス」と言ったときに、父親がその椅子のほうを見ながら「そうだね、イスだね。よくできました。」と言って反応する、というやりとりにも随伴性が生じています。

 

2)共同的な関わり

共同的な関わりは、乳幼児が自分を取り巻く「外界の」事物を他者と共有し、その共有事物についてのやりとりやコミュニケーションに反応するときに観察されます。子どもは、視覚的、聴覚的、身体的な手がかり(他者の視線や声、体の向きや姿勢)をもとに、この共同的な関わりに気づきます。

このような手がかりは、親が注意を向けているものに対して子どもの注意を向けさせるときに見られます。

例えば、ある親子がSkypeなどのビデオ通話で祖父母と会話しているとします。このとき、親は、視線や体の向きを使って子どもの注意を画面に向けさせようとするでしょう。

他者と共同で何かを行うことは多くの人間が経験することですが、このような共同的な「関わり」は、そのような行動の始まりであると考えられています。共同的な関わりにおいて、視線は、乳幼児の注意を方向づける重要な役割を果たします。

子どもと一緒に教育用の映像や音声を見聞きする親は、映像・音声内容が子どもの年齢や状況に適切であることを考慮すれば、学習効果を感じやすいことが報告されています(Strouse et al. 2018)。

 

3)予測

乳幼児は、次に起こる出来事や行動の結果を予測するための情報の特徴に気づくようになり、すでに知っていること、それが起こる確率、より具体的な体の動き、などといったことが手がかりになります。もし親が毎晩寝る前に同じ歌を歌っていたら、赤ちゃんはこの歌を聞いたときに次に起こること、つまり、これから寝るのだということを予測するでしょう。

乳幼児は、このように一貫して繰り返されることに気づくようになり、言語学習とも関係があります。低年齢の子どもが映像や音声教材を使って言語を学習するにあたり、視聴の繰り返しが学習を手助けする、という研究結果が報告されています(Barr et al. 2007; Krcmar 2010)。

視聴の繰り返しによって次に何が起こるかを「予測」できることが、映像メディアなどからの学習に役立っているのかもしれません。子どもは「予測」することで「まとまりの表現」としてことばを覚えます(Lightbown and Spada 2013)。英語であれば、「Could you please〜?」と聞いたとき、例えば、「say」、「hear」、「read」など、そのあとに来る動詞を思い浮かべるのです。

 

4)カテゴリー化

カテゴリー化は、乳幼児が他者や事物を分類するための手がかりと関連しています。つまり、子どもは、カテゴリー化ができるようになると、対象物がどの「グループ」に属するのかということを理解できるようになります。

カテゴリー化の手がかりになるものは、主に顔の表情や声、身体の特徴などであり、それらによって種属や人種、性別に基づく分類が生まれます。一般的な情報に基づいて素早く判断し決断できるようになるため、「カテゴリー化」の発達は重要です。

乳幼児は、生後3カ月で、自分の世話をしてくれる主な人物と同じ性別の人を好むようになります(Quinn et al. 2008)。もし、主に母親が世話をしている乳幼児であれば、母親と同じように聞こえる声やテレビ画面上の女性に関心をもちやすいかもしれません。

このようなカテゴリー化された情報を活用することで、学習内容を子どもの好みに合わせることができます。言語に関するカテゴリー化は、異なる音声をそれぞれ分類する能力について考えると理解しやすいでしょう。

英語のL(/l/)とR(/r/)は、英語環境で育つ人は異なる音として分類するようになりますが、日本語環境で育つ人は同じ音として分類するようになります。

 

5)識別

識別は、主に、うれしい、悲しいなどの他者の感情を判断する手がかりを読み取る能力に対応します。感情という明らかに変わりやすい情報の特徴に基づいて何ができるのか、ということにも関係します。

乳幼児の感情発達を手助けする手がかりには、他者の表情や声の変化、動きや態度の変化などがあります。変わりやすい性質をもつ感情を識別することは、性別や人種といった永続的な特徴に基づいて分類する「カテゴリー化」とは異なります。

例えば、乳幼児がイヌを見たとき、その生きものを動物または犬の「カテゴリー」に入れます。しかし、さらに、そのイヌが吠えるか吠えないかによって、自分に好意的かどうかを「識別」することができます。

このような社会性が発達するにつれて、親の顔の表情から手がかりを得られるようになります。母親が英語学習の映像を笑顔で見ている様子を目にした子どもは、その映像内容を注目すべきものとして解釈します。

一方、映像を再生しているときに母親がいつも怒っていたりイライラしていたりしたら、子どもはその映像内容を拒否すべきものとして解釈する可能性があります(Scofield and Behrend 2008)。

信頼できる他者からの感情判断の手がかりは、事物に関心を向けて学習するための動機になり得ます。言語に関する識別は、子どもが二つの異なる音声を理解するときに観察されます。

例えば、英語環境で育つ子どもは英語のL(/l/)とR(/r/)の音の違いを説明できるようになりますが、日本語環境で育つ子どもはこれら二つの音の違いを識別することが困難になります。

 

6)統合

統合は、異なる処理経路(視覚、聴覚など)から伝わってくる知覚情報と合致させることができるような動作や情報を感じ取る能力を発達させる過程です。

例えば、目で見たものを耳で聞いた音声と合わせて理解したり、見た目と動きを合わせて理解したりします。

例えば、ある研究では、乳幼児が視覚情報と音声を「統合」できるかどうかが検証されました。生後4カ月または8カ月の乳幼児は、サルが鳴く様子と人間がサルの鳴き声を真似る様子を音声つきの映像で見ます。

映像は、画面にはサルが映っているが音声は人間の音声、という組み合わせの映像とも入れ替わるように操作されました。結果、生後4カ月の子どもはこれらすべての映像に反応しましたが、生後8カ月の子どもは人間と人間の音声、という組み合わせにのみ反応しました (Grossmann et al. 2012)。

簡潔に言えば、生後4カ月の子どもはまだ人間の音声を人間の特徴のみと「統合」して理解できるようになっていませんでしたが、生後8カ月の子どもはこのような視覚情報と聴覚情報を結びつけて「統合」する能力を発達させていた、ということです。

子どもは、言語に関する情報を統合することもできます。乳幼児は、口の動きを見るだけで、相手がどの言語を話しているかがわかります(Costa 2020)。

画面の前に座らせた子どもたちに無音声の映像を見せ、音声がなくても人物の口の動きと言語を結びつけることができるかを調べた研究があります。モノリンガルの子どもは、自分が話す言語のみ正しく判断できましたが、バイリンガルの子どもは、両方の言語を口の動きで区別することができました。

視覚的な手がかりを言語と統合して理解することは、脳における社会的機能であり、言語的機能でもあります。生後1年間で継続的に言語に接触することで、言語と社会的情報の処理を結びつけることができるようになります。

 

 

終わりに

乳幼児の発達初期とこの時期の経験は、自己発達の基礎になると考えられています(Reddy 2003)。人間は、他者との関わりを通じて、社会的な生きものとして成長します。

他者との関わりがなければ、言語を習得することはとても困難です。子どもを乳幼児期から第二言語に触れさせたいと望む親にとって、これらの社会的発達の原則や特徴は、乳幼児が反応しやすい言語接触とはどのようなものであるかを知る良いヒントになります。

1)〜3)の特性は、生後6カ月以内に発達し始めます。

この段階では、親の役割がとても重要です。乳幼児は、信頼できる他者を通じて、外界の情報に対して「自己との関連づけ」や「共同的な関わり」を行うことができるからです。

例えば、英語の歌を聞いているとき、子どもと視線を合わせたり、一緒に歌ったり、映像や音声を一緒に見聞きしながら子どもの関心をそれらに向けさせましょう。

「予測」は、一貫性を通じて発達します。よって、毎日英語に触れる時間帯を決めたり、繰り返し視聴できる英語教材を活用したりすることで、親が無作為ではなく戦略的に行動すれば、この発達特性を言語学習に応用できます。

例えば、子どもにとって、日常的に特定の英語表現を耳にすることは、言語学習における予測能力を発達させるために必要な経験になります。

 

4)〜6)の特性は、生後6カ月以降に発達します。

それらの社会的手がかりを活用するには、より成熟した情報処理能力が必要だからです。乳幼児は、より多くの社会的状況や他者に接触するにつれて、情報を「カテゴリー化」し、「識別」し、「統合」できるようになります。

これらの社会的発達によって、自分の好みに合う対象物や人物に関心を向けられるようになります。前述した言語に関する例の通り、子どもは言語の音声を分類して識別できるようになっていき、バイリンガルはより多くの音声をそのように処理して理解する必要があります。

言語は、情報を統合しながら発達していきます。耳から聞こえる音声に頼るだけではなく、目から入ってくる視覚情報も重要なのです。英語で聞き、英語で見て、英語でやりとりをしましょう。(※2)

これらの社会的特性は、生後間もなくから現れますが、大人になるまで発達していきます。一つひとつの発達の積み重ねが大人になってから他者とやりとりする能力となり、言語の発達にもつながります。

よって、社会的発達は乳幼児期から促進されるべきなのです。

(※2)言語処理においても知覚情報の統合が行われることがわかる例としては、「McGurk Effect」などがあります。

 

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参考文献

Barr, Rachel, Paul Muentener, Amaya Garcia, Melissa Fujimoto, and Verónica Chávez. 2007. “The Effect of Repetition on Imitation from Television during Infancy.” Developmental Psychobiology 49 (2): 196–207.

https://doi.org/10.1002/dev.20208

 

Costa, Albert. 2020. The Bilingual Brain: And What It Tells Us about the Science of Language. Penguin. /books/313150/the-bilingual-brain/9780241391518

 

Grossmann, Tobias. 2015. “The Development of Social Brain Functions in Infancy.” Psychological Bulletin 141 (6): 1266–87.

https://doi.org/10.1037/bul0000002

 

Grossmann, Tobias, Manuela Missana, Angela D. Friederici, and Asif A. Ghazanfar. 2012.

“Neural Correlates of Perceptual Narrowing in Cross-Species Face-Voice Matching.”

Developmental Science 15 (6): 830–39.

https://doi.org/10.1111/j.1467- 7687.2012.01179.x

 

Krcmar, Marina. 2010. “Can Social Meaningfulness and Repeat Exposure Help Infants and Toddlers Overcome the Video Deficit?” Media Psychology 13 (1): 31–53.

https://doi.org/10.1080/15213260903562917

 

Kuhl, Patricia K. 2007. “Is Speech Learning ‘Gated’ by the Social Brain?” Developmental Science 10 (1): 110–20.

https://doi.org/10.1111/j.1467-7687.2007.00572.x

 

Lightbown, Patsy M., and Nina Spada. 2013. How Languages Are Learned 4th Edition – Oxford Handbooks for Language Teachers. Oxford University Press.

 

Quinn, Paul C., Lesley Uttley, Kang Lee, Alan Gibson, Michael Smith, Alan M. Slater, and Olivier Pascalis. 2008. “Infant Preference for Female Faces Occurs for Same- but Not Other-Race Faces.” Journal of Neuropsychology 2 (1): 15–26.

https://doi.org/10.1348/174866407×231029

 

Reddy, Vasudevi. 2003. “On Being the Object of Attention: Implications for Self-Other Consciousness.” Trends in Cognitive Sciences 7 (9): 397–402.

https://doi.org/10.1016/s1364-6613(03)00191-8

 

Saito, Y, S Aoyama, T Kondo, R Fukumoto, N Konishi, K Nakamura, M Kobayashi, and T Toshima. 2007. “Frontal Cerebral Blood Flow Change Associated with Infant‐directed Speech.” Archives of Disease in Childhood. Fetal and Neonatal Edition 92 (2): F113–16.

https://doi.org/10.1136/adc.2006.097949

 

Scofield, Jason, and Douglas A. Behrend. 2008. “Learning Words from Reliable and Unreliable Speakers.” Cognitive Development 23 (2): 278–90.

https://doi.org/10.1016/j.cogdev.2008.01.003

 

Strouse, Gabrielle A., Georgene L. Troseth, Katherine D. O’Doherty, and Megan M. Saylor. 2018. “Co-Viewing Supports Toddlers’ Word Learning from Contingent and Noncontingent Video.” Journal of Experimental Child Psychology 166 (February): 310–26.

https://doi.org/10.1016/j.jecp.2017.09.005

 

 

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