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2021.01.21

言語学習はいまの自分に合った方法を選ぶ

言語学習はいまの自分に合った方法を選ぶ

論文タイトル:

Investigating Distribution of Practice Effects for the Learning of Foreign Language Verb Morphology in the Young Learner Classroom (2019)

子どもが教室環境で外国語の動詞形態を学習するときの練習量の配分効果に関する研究

 

著者:Rowena E. Kasprowicz, Emma Marsden, and Nick Sephton

ジャーナル:  The Modern Language Journal 103(3): 580-606

アクセス: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/modl.12586

 

要約:Paul Jacobs

翻訳:Yuri Sato

 

 

まとめ

●インプット量が限られた環境(教室)の中では、「意味のある練習」をすることで、子どもたちは難しい文法項目を学ぶことができる。

●個人の脳内での情報処理能力はそれぞれ異なるペースで発達するため、低年齢の子どもは直接的な指導を受けたほうがより効果的に学ぶことができる。

●コンピュータゲームを活用した言語学習は、文法学習に役立つ。

●子どもは成長に伴って認知能力が変化し、可能な指導方法や学習方法も変わってくる。

 

はじめに

インプットは、最初に学ぶ言語であれ、5番目に学ぶ言語であれ、どの言語を習得するためにも必要な要素です。子どもがどのようにインプットを内在化して活用できるかは、いくつかの要因によって大きく左右されます。

それらの要因としては、インプットの量(Cheung et al. 2019)、学習者のライフステージ(年齢または認知能力の発達段階)(Abrahamsson 2018)、言語コンテクスト(インプットの種類)(Castellano-Risco, Alejo-González, and Piquer-Píriz 2020)、子どもが文法や語彙、音韻のどれを学習しているか(Ellis 2002)などがあります。

インプットが効果的であるためには、学習者の状況に正しくマッチしていなければなりません。例えば、特に幼児にとっては、自然な環境からのインプットはとても効果的です。しかし、第二言語を学ぶ世界中の多くの子どもたちは、その言語にふれる量が比較的少ない教室という環境の中で最初に学ぶため、異なるアプローチが必要となります。

今回ご紹介する研究(Rowena E. Kasprowicz, Marsden, and Sephton 2019)は、イギリスに住む小学生(8歳~11歳)が外国語としてのフランス語を教室で学習する(週に約60分のインプット)、という状況を取り上げています。

この研究の対象となる子どもたちは、日本の英語学習者と状況が似ています。日本の子どもたちは、小学3年生から外国語の学習を義務づけられるようになりました。多くの家庭の子どもたちにとって、小学校の授業が唯一の英語環境であり、英語にふれる機会は限られています。

教授法の一つである「意味のある練習」は、上記のような教室環境での学習を促進するものであり、この研究の大きな特徴となっています。

 

意味のある練習

国語学習の研究者の多くは、教室環境では「意味のある練習」が重要であることを強調しています (Cornillie et al. 2017; DeKeyser 2007; VanPatten 2004)。「意味のある練習」とは、教室でのインプットを通じて、その言語の特徴に対して明示的に注意を向ける練習です。

その一例として、インプットをもとにしたやりとりの中で「思い出させる」という技法(Benjamin and Tullis 2010)の活用があります。学習者は、ある言語の形式を思い出すことで、その形式について以前に学んだことを記憶から取り出すことができ、学習者の脳内でそのアイテムに関する記憶を強く定着させることができます。学習したことを一定期間に渡って練習することで、学習内容に関連するさまざまなことを頭の中に思い浮かべ、長期記憶に入れ込むことができるようになります(Lightbown 2008)。これは、その言語で会話を聞いているときには見落としがちな文法の特徴を認識するのに特に有効です。

今回の研究(Rowena E. Kasprowicz, Marsden, and Sephton 2019)に参加した生徒については、フランス語の複数形と現在形/完了形が取り上げられましたが、これらは初級学習者にとって見落としがちな文法項目です(Ellis 2006)。

異なる時間的間隔で意図的に思い出させて学習目標となる文法に気づかせることは、「意味のある練習」において重要な要素の一つであり、情報の内在化に影響を与えます(Cepeda et al. 2006)。そこで、研究者らは参加者を三つのグループに分けました。

グループ1は3.5日に1回30分ずつ(計6回)、グループ2は7日に1回60分ずつ(計3回)、文法項目を練習しました。グループ3は、この実験における統制群であり、ほかの二つのグループが参加する練習には参加しません。これら三つのグループは、いずれも合計180分間、フランス語の文法にふれました。

 

文法学習

練習方法(インプット方法)としては、コンピュータゲームが活用されました。子どもたちは文法項目について短い説明を受けながら一連のミニゲームをこなしていったあと、「意味のある練習」を繰り返しました。各レッスンの最後には、その文法についてのテストが行われます。

ゲームのテーマは、生徒たちが秘密のスパイになってさまざまな謎を解かなければならない、という設定です。このような状況は、参加した生徒にとって意味のあるものであったことがわかりました。

この研究で扱われた文法項目は、一人称の単数/複数(私/私たち)と三人称の単数/複数(彼・彼女/彼たち・彼女たち)の場合の現在形/完了形、というフランス語の規則動詞の語形変化です。

例えば、ゲームのプレイヤーは、ロボットが(フランス語で)「私はバナナが好き」と言ったのか「私たちはバナナが好き」と言ったのかを動詞の語尾に基づいて判断し、すべてのロボットにバナナをあげるのか、一人のロボットだけにバナナをあげるのかを選択しなければなりません。文法項目について教えてもらったあとは、自然に使われる文章の文字を読んだり音声を聞き取ったりしながら文法的特徴に気づく必要があります。

このように、生徒たちは「言語の形式と意味」のアプローチに従って、文の仕組みとインプットされた意味の両方に注意を向けました。

 

研究の目的

研究者らは、この研究で3つの分野について検証することを目指しました。

一つ目は、 7日間隔のグループと3.5日間隔のグループのどちらが、42日後のテストのときまで学習内容を保持できるか。二つ目は、コンピュータゲームを使ったレッスン中の正確さによって、文法形式に関する記憶の保持を予測できるか。三つ目は、個々の参加者の言語分析能力(Language Analytic Ability / LAA)がこれらの文法項目の学習と記憶保持にどのように影響するか。LAAとは、文法のルールを理解し、そのルールを適切に応用するための内的な能力です(Skehan 1998)。このような能力は、子どもが成長するにつれて発達するものですが、一部の子どもは早い年齢でこの能力をもっています。

LAAテストは2つのパートで構成されています。第1パートでは、学習者の第一言語(L1)における文法用語や概念の知識に焦点を当て、メタ言語的知識(metalinguistic knowledge)と文法的感受性(grammatical sensitivity)を調べます。第2パートでは、学習者が新しい言語でパターンを発見し、文法的なルールを応用する能力に焦点を当てています。

 

研究結果

コンピュータゲームを使って21日間練習したあと、子どもたちはすぐに学習成果を確認するための事後テストを受けました。その後、42日間の間隔を空けて、学習内容を保持しているかどうかを確認するために再度テストが行われました。

子どもたちには、3種類のテストを実施しました。

1) 文章と絵のマッチングテスト(ある文章を読み、正しい文法知識に基づいて文章内容に一致する絵を選ぶ)、2) 文法的な文章を使った容認性判断テスト、3) 非文法的な文章を使った容認性判断テストです。2)と3)では、文章を聞いて、その文が文法的に正しいか正しくないかを判断します。

残念ながら、文章と絵のマッチングテストは、統計的にグループ間の違いや練習の有無との相関関係が弱く、この研究においては、練習の効果を調べる良い指標とはなりませんでした。

一方、容認性判断テストに関しては、3.5日に1回のペースで練習したグループがほかのグループよりも学習成果がわずかに大きかったことがわかりました。

●練習での正確さ

全体として練習での正確性はかなり高く、子どもたちがコンピュータゲームから学習対象の文法項目を身につけていたことを示しています。しかし、42日後に実施された事後テストのスコアは、長期的な定着は不十分だったことを示しました。

●言語分析能力(LAA)

グループにかかわらず、LAAが高いほどテストのスコアが高く、学習目標となっている文法知識をより保持していることがわかりました。

 

この研究論文に関する考察

まずは、教室環境での「意味のある練習」のペースについて考えます。この研究では、文法知識を長期的に保持できるという結果を出したほかの研究とは異なり、3.5日間隔で練習したグループがほかのグループよりも学習成果があったものの、その統計的な差はわずかでした。

例えば、この研究を行った同じ研究者らが同じ年齢層で同様のテストを行っていますが、5週間の総練習量(インプット)が今回の研究よりも多い(計250分)、という違いがありました。この研究では、より高い学習成果が見られました(R. Kasprowicz and Marsden 2018)。

Marsden(2006)の別の研究では、少し年齢の高い集団(11〜13歳)でテストされており、学習効果があったことが示されています。これは、年齢が高くなると、明示的または直接的な指導を処理する能力が高まるためであると考えられます。

7~11歳ごろの子どもたちは、言語分析能力(LAA)を急速に発達させますが(Philp, Mackey, and Oliver 2008)、学習した言語を内在化させるためには、より多くのインプットを必要としている可能性が高いと考えられます。発達段階にある内在化のプロセスには、ルールの説明を理解する能力、新しいインプットに対して新しいルールを適用する能力、パターンを発見する能力が含まれます

この研究では、練習が3.5 日間隔だったか 7 日間隔だったかにかかわらず、LAA の高い子どもたちのほうがテストのスコアが高く、学習内容を保持していることがわかりました。これは、特にインプットが少ない環境、つまり、数日ごとに練習を行うような状況では、個人差が学習内容を保持するうえで重要であることを示しています。一方、LAAは、1週間や数日ごとではなく、連日練習が行われた場合には、あまり学習成果への影響がありません(Suzuki and Dekeyser 2017)。

より多くのインプットや繰り返しは、LAAが低い子どもの学習を手助けすると言えるでしょう。また、LAAは私たち人間が時間をかけて発達させていくものであることにも注意が必要です。

最後に、この研究では、練習が3.5 日間隔だったグループの子どもたちは、7 日間隔だったグループよりも、文法学習のために取り組んだコンピュータゲームでわずかに優れた成績を収めていることがわかりました。これにより、レッスンの間隔が短いことは、今回の低年齢の学習者にとって有利であることが証明されています。それでも、両グループともにゲームで学習し、最後まで完了させたことから、ゲームを使った「言語の形式と意味」のアプローチによる練習方法は、学習が難しい文法項目を子どもたち(7~11歳)に教えるのに有効な方法であることが示されました。

子どもたちが低年齢であるため、インプット(練習)の機会がもっとあれば、学習したフランス語の文法がもっと強く定着した可能性はあります。

日本の英語の授業のような環境では、言語の形式(文法)と意味のつながりを強めたあとに、そのつながりを思い出させるような「意味のある練習」は、有効な学習メカニズムとなり得ます。しかし、この明示的な学習方法を最大限に活用するためには、子どもの年齢やインプット量を意識しなければなりません。

また、この方法は学校の教室だけに限られるものではありません。この研究が示すように、コンピュータゲームは学習の促進に役立ちます。子どもが文法や言語のほかの要素に気づくのを助けるプログラムやゲームなどがあれば、幼い子どもへのインプット量を増やし、有意義な学習方法になるでしょう。それは、学校の授業だけに頼らず、子どもにより良い学習環境を提供することにもなります。

 

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参考文献

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Castellano-Risco, Irene, Rafael Alejo-González, and Ana M. Piquer-Píriz. 2020. “The Development of Receptive Vocabulary in CLIL vs EFL: Is the Learning Context the Main Variable?” System 91 (July): 102263.
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Philp, Jenefer, Alison Mackey, and Rhonda Oliver. 2008. “Child’s Play? Second Language Acquisition and the Younger Learner in Context.” In Second Language Acquisition and the Younger Learner: Child’s Play?, 3–23. Language Learning & Language Teaching. Amsterdam, Netherlands: John Benjamins Publishing Company.
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Skehan, Peter. 1998. A Cognitive Approach to Language Learning. Oxford Applied Linguistics. Oxford, New York: Oxford University Press.

 

Suzuki, Yuichi, and Robert Dekeyser. 2017. “Exploratory Research on Second Language Practice Distribution: An Aptitude × Treatment Interaction.” Applied Psycholinguistics 38 (1): 27–56.
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VanPatten, Bill, ed. 2004. Second Language Acquisition Research. Processing Instruction: Theory, Research, and Commentary. Mahwah, NJ, US: Lawrence Erlbaum Associates Publishers.

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