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2017.02.23

歌は言語習得に役立つのか?

歌は言語習得に役立つのか?

著者:Dション、I ペレツ、M ベソン、M ボアイエ、R コリンスキー、S モレノ(2008)
出典:Cognition 106 (2008) 975–983
要約:ポール・ジェイコブス

 

私は音楽を聞くのが大好きだ。
素晴らしい歌は私を感動させてくれるし、時には笑顔にもしてくれる。その他にも、歌は何かを覚えたい時、教えたい時、一緒に遊びたい時など様々な目的に使われるが「歌は第二言語習得に役立つのか?」という極めてシンプルな問いに対する研究・考察をまとめたのが、ションらによる本論文である。

一般的に、第二言語を流暢に話すには、新しい単語を覚える、文法を理解する、発音を学ぶなど、いくつものプロセスが必要である。その中でも、最初に学ばなければならないことの一つは、「文章を単語にわけること」だ。

新しい言語を初めて聞いた時には、どこで一つの単語が終わり、どこから次の単語が始まるのかを判別することはたいへん難しい。例えば、“Can you hear me now?”と書かれた文章を見れば各単語がわかるが、初めて聞いた時は“Canyouhearmenow?”というように、単語の間に途切れがないように聞こえてしまうからだ。では、我々人間はどのようにして、この問題を解決しているのだろうか?

人間の脳には「統計的構造学習」という学習プロセスが備わっている。
例えば、我々は言葉を聞く時「この音節は常に一緒に使われている」、「この音節は比較的まれにしか使われない」といった経験を積み重ねることで、だんだんそれらは二つの異なる言葉の一部なのだと学習することができる。乳幼児も、ママやパパの言葉を繰り返し聞く過程で「統計的構造学習」を行い、同じ言葉を話し始めるのである。

本論文では、上述した「文章を単語にわける」というプロセスに注目し、歌がどのように言語習得に作用しているのかを仮説・検証している。

■ 仮説

① 歌は人を集中させやすいので、学習能力が向上するのではないか?
② 歌は音節間で音のトーン(調子)、ピッチ(高さ)の変化が顕著になるので、異なる単語に気づきやすくなるのではないか?
③ 歌は言葉のインプットと、メロディーのインプットに一貫性があるので、「統計的構造学習」を効果的に行えるのではないか?

 

■ 検証

① 話し言葉を聞いて、新しい単語をいくつ覚えることができたか。
② 歌を聞いて、新しい単語をいくつ覚えることができたか。
③ 歌を聞いて、新しい単語をいくつ覚えることができたか。ただし、各音節のトーンを一貫にせず、ランダムに割り当てた場合。

 

「歌は第二言語習得に役立つのか?」という問いに対するションらの答えは”Yes”である。

特に、言葉を覚える初期段階において、歌が言語学習に大いに役立つことが示されている。歌を取り入れた言語習得には大きな可能性があると言えるだろう。
以下、本研究の詳細である。

 

検証の詳細:

実験 1:

実験に参加したのは、フランス語を母国語とする23歳前後の26名。
認識できない単語(実験の為に作った世の中に存在しない単語)を7分間聞き、その後、次から次へと単語を聞く中で、覚えた単語を聞いた時だけ正確にボタンが押せるかを測定する、というのが実験1の内容である。

ただし、測定中に参加者が聞く単語の中には、パートワードと呼ばれる、注意をそらす為の単語も交ぜているので、一つの単語がどこで終わり、次の単語がどこから始まるかを判別することは難しくなっている。

覚える単語(実験の為に作った世の中に存在しない単語)
gimysy, minosi, pogysi, pymiso, sipygy, sysipi.

パートワード (注意をそらす為に作った世の中に存在しない単語)
gysimi, mosigi, pisipy, pygymi, sogimy, sypogy.

 

実験1で正しく答えることができたのは、全体のわずか48%のみであった。
以前の研究結果(Saffran, Aslin, & Newport, 1996a, 1996b)では、幼児は実験の為に作った単語を21分間聞いた後で、同様のテストに成功したとなっているが、今回のテストで行った7分間では、覚えるべき単語とパートワードを判別することは十分できなかった。

 

実験2:

実験2では、新たに26名のフランス語話者を参加者とし、実験1と同様の単語を各音節に特有のトーンを与えた歌で聞いた。歌を7分間聞いた後、参加者は同じテストをしたが、正しく答えることができたのは、全体の64% という結果になった。
この結果から、音楽を加えることで、参加者は覚えるべき単語と、パートワードを判別しやすくなったと言うことができるだろう。

 

実験3:

実験3では、再度新たに26名のフランス語話者をこの実験の参加者とした。
一連の音節を歌で7分間聞かせ、同様のテストを行ったが、実験2と異なる点は、歌のトーンをランダムに割り当て、一貫して同様にはしなかった点である。
正解したのは全体の56%で、実験1の結果よりは高く、実験2よりは低い結果となった。

この結果から、同じ「歌で単語を覚える」という条件下においても、言語インプットとメロディー・インプットの間に一貫性があるのとないのとでは、一貫性があるほうがより有利に単語を覚えることができるということができる。

 

 

参考文献

Saffran, J. R., Aslin, R. N., & Newport, E. L. (1996a). Statistical learning by 8-month-old infants(8カ月幼児の統計的学習). Science, 274, 1926–1928.

Saffran, J. R., Newport, E. L., & Aslin, R. N. (1996b). Word segmentation: The role of distributional cues(単語に分割:分割のヒントになるものの役割). Journal of Memory and Language, 35, 606–621.

 

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