日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2019.07.31
論文タイトル:
Skype me! Socially contingent interactions help toddlers learn language
Skypeしよう!
社会的随伴性のある他者とのやりとりが幼児の言語学習を手助けする
著者:
Sarah Roseberry, Kathy Hirsh-Pasek, and Roberta Michnick Golinkoff (2014)
サラ・ローズベリー、キャシー・ハーシュ=パセック、ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ(2014)
ジャーナル:Child Development 85(3): 956-970
アクセス: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/cdev.12166
要約:Paul Jacobs
翻訳:佐藤有里
子どもの言語学習は、バイリンガルの親や養育者など、実際の社会的相互作用(他者とのやりとり)を通じて学ぶことが最も効果的であると言われています。しかしながら、すぐ近くで目標言語の母語話者または熟達した話者と接する機会があまりない日本では、ほとんどの家庭がそのような選択肢をもっていません。
Skype(スカイプ)やFaceTime(フェイスタイム)などのビデオチャット技術によって、世界中どこからでも目標言語の母語話者または熟達した話者と接することが可能になり、相手と視覚的なやりとりをしながら会話することができます。このような社会的要素は、幼い子どもの言語学習を十分に促進するのでしょうか?
それとも、二次元の画面であることにより、幼い子どもは、画面越しの相手との関わりを十分に理解することができないのでしょうか?
以下に要約したRoseberryら(2014)の研究は、幼児に新しい単語(動詞)を学ばせようとする試みにより、このような考え方を検証したものです。生後24カ月の子どもたちに対面、ビデオチャット(Skype)、録画映像、の3種類の方法で指導した結果、Skypeでのやりとりであっても、実際の対面でのやりとりと同等に学習することができたのです。
研究者らは、ビデオチャットと録画映像では何が違うのか、そして、対面とビデオチャットそれぞれによる学習結果は何によって関連づけられたのかを考察しています。親は、子どもの言語学習にとって最も手助けとなる基本的概念を理解することにより、就学前の早期から言語学習を促進する家庭環境づくりにおいて創意工夫することができます。
そのため、この研究チームは、他者とのやりとりを構成する主要な要素である「視線」と「社会的随伴性」がSkypeによる言語学習を促進させる可能性のある因子であることを明らかにします。視線は、子どもがどのように親の目を注視しているかということに関連し、その子どもがどこに注意を向けているかがわかり、学習を促進させます(Brooks and Meltzoff 2005)。
大人と子どもの間における社会的随伴性は、子どもの行為や発語への応答として、それらと一致する反応を大人がすぐに示したときに生じます(例:子どもが “Hello.” と言ったら大人が “Hello.” と返答する、子どもがある方向を指差したら大人がその方向を見る、などの相互作用の流れ)。
視線と社会的随伴性という二つの要素のうち、どちらが子どもの単語学習により大きな影響を及ぼすか、そして、子どもがビデオチャットを通じて学習することができるかどうかを確認するため、生後24〜30カ月の子ども36人に、無作為に割り当てた3種類の学習環境のいずれかで4つの新しい単語(動詞)を教えました。子どもたちはそれぞれ、以下の条件のいずれかで教えられたあとに、それらを学んだかどうかがテストされました。
3種類の学習条件
1. 対面による学習:
子どもは、実際に同じ部屋の中にいる講師から単語を教えられる。
(社会的要素:[社会的随伴性] あり、[視線] はっきりとわかる)
2. ビデオチャットによる学習:
子どもは、親の膝の上に座り、Skypeを通じて講師とやりとりをする。
(社会的要素:[社会的随伴性] あり、[視線] はっきりとわからない)
3. 録画映像による学習:
子どもは、講師が別の子どもに教えている場面を録画した映像を見る。
(社会的要素:[社会的随伴性] なし、[視線] はっきりとわからない)
例えば、子どもたちに教えた新しい動詞の一つには「meeping」という単語があり、この研究においては、ある物体のつまみを回す動作を意味します。講師は、子どもの名前を呼んだり、応答的に子どもと関わったりすることによって、社会的随伴性を生じさせることから始めます。
それぞれの子どもは、3分間の学習を2段階で行い、各段階で二つずつ新しい単語に触れます。各単語は、その単語が意味する動作を見せられながら12回繰り返し言われます。
テストの段階では、先ほど学習した新しい単語が意味する動作、そして、その単語の意味とは関係ない動作の2種類を映像で見ます。もし新しい単語が意味する動作に視線を向けて反応し、新しい単語の意味と一致しない動作のときには視線を向けなければ、その子どもは新しい単語を学習したということになります。
これらの全過程は、およそ計10分間続きます。
実験中は、子どもの視線計測データがとられ、3種類の学習環境それぞれで、子どもたちがどの程度の注意を講師の目に向けていたかを調べるために分析されました。もし、講師の目に向けていた注意が同程度であるにも関わらず学習結果が異なった場合は、社会的随伴性が単語学習を促進させる共通要因だということになります。
Roseberryら(2014)は、ビデオチャットで学習した子どもたちと対面で学習した子どもたちが新しい動詞を同等によく学んでいたことを明らかにしました。録画映像で学習した子どもたちは、新しい動詞を学びませんでした。
録画映像で学習中の子どもたちとビデオチャットで学習中の子どもの視線を比較すると、講師の目を注視していた時間には違いが見られず、よって、社会的随伴性が単語学習を促進させる主な要因でした。
この研究結果により、新しい動詞の学習に影響を与える主要因子は、視線など他の社会的手がかりではなく、社会的随伴性であることが示されました。これは、子どもが講師を注視する時間の長さにおいて、学習条件による差がなかったという発見に基づいています。
もし、視線が主な要因であれば、ビデオチャットで学習した子どもたちと録画映像で学習した子どもたちは、まさに講師の目を注視していた時間量が同じであったことにより、新しい動詞を同等によく学べたはずです。
このような社会的随伴性のある他者とのやりとりが言語学習を手助けする方法として有効である理由の一つは、講師と子どもの間に築かれた信頼関係に起因すると考えられます。講師は、新しい単語を紹介する前のウォームアップ時間で子どもとの関係性を深めるためにあらかじめ決められた台本に従っていました。
ビデオチャット指導と対面指導においては、子どもの名前を使うことと子どもに対して社会的随伴性のある反応を示しながらやりとりを行うことができますが、録画映像による指導においては、子どもの名前を呼ぶこともできませんし、子どもの反応に応じて会話のペースを合わせることもできません。このように社会的随伴性のある反応をしない講師は、子どもの目には信頼できない相手として映り(Scofield and Behrend 2008)、そのような場合には、子どもは学習に参加しないのかもしれません。
この研究結果は、第二言語のインプットの質と量が限られる家庭にとっては、極めて有益なものです。幼児が動詞を学ぶ際に社会的随伴性が重要であることのみならず、言語学習を促進させる他者との相互作用を二次元である画面を通じて受けられることも示しています。
そして、注目に値する点は、一つの新しい動詞につき、わずか3分という短い学習時間であったにも関わらず、子どもたちがSkypeを通じて見知らぬ講師から新しい単語を学べたということです。実際、幼い子どもは集中力が持続する時間が限られており、身体的なやりとりがなければ、それ以上の時間は集中し続けることができないでしょう。
よって、幼い学習者にとっては、ビデオチャットを使ったレッスンは短時間で行ったほうが良い学習結果を生む可能性があります。
子どもたちは、社会的随伴性のある学習方法(対面とビデオチャット)では難易度の高い新しい単語を学ぶことができましたが、録画映像では学びませんでした。しかしながら、これは、録画映像が言語学習を促進できないことを意味しているのではありません。
学習媒体によって、子どもが学習できる成功率に差が生じることを示しているのです。録画映像による言語インプットは、対面やビデオチャットとは異なる活用方法によって、より効果的になる可能性があります。
例えば、O’Dohertyら(2011)の研究で示されたように[IBS論文要約参照]、この研究録画映像によって対面学習やビデオチャット学習でのやりとりを再現しようとするよりも、映像に登場するキャラクター同士における社会的随伴性のあるやりとりを画面上で見せるほうが有効である可能性についてRoseberryら(2014)の研究論文でも言及されています。
教える題材をどのように映像で伝えるかという方法について研究することは有益となるでしょう。また、録画映像で言語に触れる時間のほうが対面のやりとりで触れる時間よりも長い場合の学習効果(Barr et al. 2007)、つまり、繰り返しによる学習効果も、今後研究されるべき分野です。
Barr, Rachel, Paul Muentener, Amaya Garcia, Melissa Fujimoto, and Verónica Chávez. 2007. “The Effect of Repetition on Imitation from Television during Infancy.” Developmental Psychobiology 49 (2): 196–207.
https://doi.org/10.1002/dev.20208
Brooks, Rechele, and Andrew N Meltzoff. 2005. “The Development of Gaze Following and Its Relation to Language.” Developmental Science 8 (6): 535–43.
https://doi.org/10.1111/j.1467-7687.2005.00445.x
O’Doherty, Katherine D, Georgene L Troseth, Priya M Shimpi, Elizabeth Goldenberg, Nameera Akhtar, and Megan M Saylor. 2011. “Third-Party Social Interaction and Word Learning from Video.” Journal of Child Development 82 (3): 902–15.
https://doi.org/10.1111/j.1467-8624.2011.01579.x
Scofield, Jason, and Douglas A. Behrend. 2008. “Learning Words from Reliable and Unreliable Speakers.” Cognitive Development 23 (2): 278–90.
https://doi.org/10.1016/j.cogdev.2008.01.003