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2017.02.07

バイリンガルとモノリンガルの11カ月幼児における、音声聞き取り能力の違い – 脳磁図研究

バイリンガルとモノリンガルの11カ月幼児における、音声聞き取り能力の違い – 脳磁図研究

著者:ナジャ・フェルジャン・ラミレス、レイ・R・ラミレス、マギー・クラーク、サミュ・トール、パトリシア・K・クール
出典:Developmental Science (2016), pp 1-16.
要約:ポール・ジェイコブス
本論文へのアクセス: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/desc.12427/full

 

幼児には言語の種類に関係なく、どの音でも処理できる能力が生まれつき備わっている。しかしながら、生後11カ月を過ぎると、幼児の脳は母国語に特化し始めるので、非母国語の音の処理は難しくなる。

すなわち、幼児の脳は聞きなれた音に適応するようになり、聞きなれない音は次第に吸収しにくくなってしまうのである。このようにして子どもは母国語を学んでゆく。

例えば、幼児が生まれてから日本語のみを聞いていると、脳は日本語の音のみを認識するように適応するが、日本語と別の言語(たとえば英語)を絶えず聞いていると、脳は日本語と英語の両方の音を認識する神経回路を作るのである。

本論文では、11カ月幼児のモノリンガルとバイリンガルの頭全体の脳磁図(MEG)を調べ、幼児が英語とスペイン語の音を聞いたときの脳の活動を測定し、それぞれの聴覚中枢の部位をマッピングするなど、音の処理能力の違いを研究している。

 

研究

過去の研究は、幼児は11ヶ月までに“どの言語にでも将来処理できる能力” から、“母国語に特化して処理する能力” に変わってしまうことを示唆している。本研究では、これらの研究結果を再現するために、バイリンガルとモノリンガルの幼児の言語発達上の違いを比較・評価している。

バイリンガル16名、モノリンガル17名(全員11カ月幼児)が、ワシントン大学で行われた今回の研究に参加した。バイリンガルは、日常生活で英語とスペイン語を同程度聞いている子どものみを選び、一方モノリンガルは、英語以外の言語には日常的に触れていないことを条件とした。

子どもの脳をそれぞれMEG装置に接続して、“da / ta”など絶え間なく流れる音を18分間聞かせた。音の一部は、スペイン語に特有の音と英語に特有の音で、その他の音は両言語に共通の音であった*。MEG装置で、各子どもの脳のそれぞれの聴覚中枢の部位をマッピングして、反応時間を測定した。

イメージ|脳を測定してもらっている赤ちゃん

 

結果

モノリンガルの幼児は英語の音のみに反応した。一方、バイリンガルの幼児は2言語に反応し、スペイン語と英語の音を認識した。

この結果は、どのような言語が子どもの環境に存在していたとしても、11カ月までに幼児の神経処理は“どの言語でも将来処理できる能力” から、“母国語に特化して処理する能力”に変わっているという、過去の研究結果と一致している。

また、モノリンガルは“どの言語でも処理できる能力” から、“母国語に特化して処理する能力”の変更に早く適応するが、バイリンガルは遅いことも本研究の結果は示している。

これはつまり、モノリンガルの子どもは、バイリンガルの子どもよりも早く話し始める可能性があるということである。この違いは、バイリンガルの子どもが複数の言語を処理する時に、余分な時間がかかっていることに起因すると著者は考えている。

しかしながら、言葉を話し始めるのが多少遅れたとしても、バイリンガルの子どもがモノリンガルの子どもに比べて、発達が遅れているわけではないと著者らは指摘している。それよりも、著者らはバイリンガルの子どもは“どの音でも処理できる能力”の段階に長くとどまるので、神経回路の反応に非常に高い適応性ができ、また全体的に、認知発達に明白な利点があるのだと言う。

バイリンガルの子どもが持つと思われる利点の一つに、実行機能能力※1の発達がある。MEG 結果を見ると、バイリンガル幼児の脳活動は、前頭前野※2及び眼窩前頭皮質※3に及んでおり、本論文は実行機能の能力向上結果の例を掲載している。

例えば、順応性があることは音声構造を学ぶときに役立つ。メタ言語課題※4、切り替え課題※5、問題解決、心の理論課題※6における優位性は、すべて実行機能能力に関連している。また、認知症やアルツハイマー病のような加齢に関連した認知力低下に対して効果があることも示している。

 

結論

今回の研究は、幼児の心と言語習得の始まりに知見をもたらすものである。子どもの脳は、1歳になる前に母国語形成のための神経回路を作り始めている。

早くから家庭で2言語に同様に触れていれば、子どもは自然にバイリンガルになる十分な可能性がある。幼児の脳はその2言語を処理し、11カ月ごろに2言語を区別するようになる。

これが話すプロセスの始まりである。脳スキャンでわかるように、言語切り替え神経プロセスが強化されると、前頭前野及び眼窩前頭皮質が活性化し、実行機能能力が高くなる。今回の研究は、子どもの発達における単一時点に基づいている。

したがって、バイリンガルとモノリンガルの子どもが、どのように言語学習を発達させるかの方法を経年的に研究することは、さらなる研究のために極めて有益である。

* テスト方法の画像は以下のリンク参照
https://www.youtube.com/watch?v=N7Gn_ImK4_Y

 

※1 実行機能能力
複雑な課題の遂行に際し、課題ルールの維持やスイッチング、情報の更新などを行うことで、思考や行動を制御する認知システム、あるいはそれら認知制御機能の総称。

 

※2 前頭前野
ワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を担っている脳領域。また、高次な情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程も担っている。さらに社会的行動、葛藤の解決や報酬に基づく選択など、多様な機能に関係している。

 

※3 眼窩前頭皮質
視覚、聴覚、体性感覚とともに味覚、嗅覚情報も担っている脳領域。この脳部位は報酬や嫌悪刺激の価値の評価に関わるとともに、それらの予測、期待にも関係している。またこの脳部位は情動・動機づけに基づく意思決定に重要な役割を果たしている。

 

※4 メタ言語課題
言語そのものの性質を考える能力。

 

※5 切り替え課題
あるものからより重要なものへ、迅速に注意を切り替えることができるかどうかをみる課題のこと。

 

※6 心の理論課題
簡単なストーリーを演じたり語ったりして示し、登場人物の考えを当てるテスト課題で、他人の考えや感情を理解する能力があるかどうかをみる課題。

 

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