日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2022.06.03

第1回メディア向けセミナー「VRやAIを活用した最先端の英語学習法」を開催しました

第1回メディア向けセミナー「VRやAIを活用した最先端の英語学習法」を開催しました

2022年5月23日、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(以下、IBS)は、初の試みとなるメディア向けセミナーを開催しました。テーマは、「VRやAIを活用した最先端の英語学習法」。外国語教育やEdTech(Education & Technology)にご興味のあるメディア12社にご参加いただき、各分野の研究者を招いての講演やパネルディスカッション、VR・AIの体験会などを実施しました。

当日のセミナー概要をご紹介します。

写真は左から順にワールド・ファミリー株式会社代表取締役筆頭副社長 松原浩一氏、株式会社イマース・ジャパン代表取締役 澤田和信氏、中央大学国際情報学部准教授 斎藤裕紀恵氏、IBS主任研究員 Paul Jacobs氏、早稲田大学教育・総合科学学術院教授 原田哲男氏、早稲田大学GCS研究機構知覚情報システム研究所主任研究員 松山 洋一氏、同研究所次席研究員 鈴木駿吾氏。

 

実施の背景

テクノロジーを活用して外国語教育や外国語学習の効果を高めたり、課題を解決したりしようとする試みは、何十年にもわたって行われてきました。近年は、特にVR(仮想現実)やAI(人工知能)の活用に関する研究が世界各国で増えてきており、IBSも2022年5月にそれらの先行研究について概説・考察したレビュー論文をIBSウェブサイトで公表しています。日本の英語教育において実に多くの可能性を秘めていることから、メディアの方々に情報提供をするべく、今回のセミナー開催に至りました。

 

主なトピック

・VRやAIは、どのように外国語教育や外国語学習に活用できるのか?

・その効果について、現状、どのような研究結果が報告されているのか?

・子どもの英語教育や英語学習に役立てることができるのか?

 

講演「VRを活用した英語教育の可能性」

中央大学 国際情報学部 斎藤 裕紀恵 准教授

中央大学 斎藤裕紀恵准教授が講演する様子

斎藤准教授は、アメリカ・カリフォルニア州のEdTechベンチャー企業であるImmerse社と共同で、VRを活用した英語教育の研究プロジェクトを実施。

国内外での教育現場におけるVR活用の動向、VRを活用した授業例とともに、貴重な授業映像も紹介されました。

例えば、学生たちはヘッドマウントディスプレイ(VRゴーグル)を頭に装着し、空港やレストランなどの仮想空間に入って、その場面に合った会話を練習します。

斎藤准教授によると、「英語を話すことへの不安が軽減され、英語を話すことに自信が持てるようになったことが示された」とのこと。また、実際にTOEICスピーキングテストのスコアが向上した学生もいました。

そのほか、学生がVR空間での英語授業を設計して教師役を担うプロジェクトや、VR空間でICTに関するディスカッションやディベート、発表を練習するプロジェクトもあり、最先端のIT技術について学んでいる学生たちが自らVR活用の効果や課題について検証しているとのこと。

ヘッドマウントディスプレイの重さやVR酔いなど、課題はあるものの、アバターを使うことによる外国語不安の低減など、VRにはさまざまな効果が期待され、さまざまな目的・方法でVRを英語教育に活用できる可能性があることがわかりました。

 

講演「人と共に成長するオンライン語学学習支援AIシステム InteLLA」

早稲田大学 GCS研究機構 知覚情報システム研究所

松山 洋一 主任研究員(研究院 准教授)& 鈴木 駿吾 次席研究員(研究院 講師)

早稲田大学GCS研究機構知覚情報システム研究所 松山 洋一主任研究員と同研究所の鈴木駿吾次席研究員が講演する様子

社会的会話AIエージェントの開発に携わってきた松山研究員からは、「InteLLA」(Intelligent Language Leaning Assistant)について紹介されました。

InteLLAは、会話AI技術を使って英語でインタビューをしたり、スピーキング能力を判定したりするシステム。松山研究員によると、来年度から早稲田大学で導入予定など、社会実装のフェーズに入っているとのこと。さらに、学習者がAIエージェントを相手にさまざまなシチュエーションやタスクでの英会話を練習できる自己学習を可能にすることが目指されています。

講演中には、実際に会場のスクリーンにAIエージェントが登場し、自然な会話の間を取りながら鈴木研究員の発言に合わせてうなずいたり質問したりする様子が実演されました。

第二言語習得を専門とする鈴木研究員によると、InteLLAは、ことばだけではなく、顔の表情などの画像情報も捉えながら、適切な難易度の質問を選択することで効率的に能力を判定できます。学習者は、発音は良いが文法が弱いなど、自分の強みや弱みもわかるため、英語力を上げるために何から取り組めばいいかもわかるとのこと。

「AIは人ができることを効率よくできるだけであって、我々人間ができないことをAIができるという可能性は非常に低い」、「外国語教育では、英語がうまくなればいいというわけではないため、思いやりなどの人格形成や思考力の育成など、人間にしか教えられないものに学校の先生が集中できる環境をつくりたい」と話した鈴木研究員。

人間とAIが協働して、より良い外国語教育の環境をつくれる未来に期待が高まる講演でした。

 

講演「VRなどの仮想環境を用いた外国語学習」

IBS主任研究員 Paul Jacobs

IBS主因研究員 Paul Jacobs氏が講演する様子

IBS主任研究員のJacobsは、自身が執筆したレビュー論文の概要を紹介しました。同論文は、VRなどの三次元、またはコンピュータ・ゲームなどの二次元の没入型技術を使った外国語学習に関する海外の先行研究を調べたもの。

良い学習成果が出たことを報告している研究が多いことから、第二言語習得や外国語学習の理論に基づき、その理由についての考察が発表されました。

仮想環境での外国語学習が効果的になるための要素は「周りの人や環境と関わり合う」、「モチベーションが高まる」、「さまざまな感覚を使う」の三つ、とのこと。

小学生を対象とした研究では各要素がVRやゲームにどのように含まれていたか、この分野の研究ではどのような課題があるか、日本の英語教育ではどのような価値があるか、などについて話しました。

 

パネルディスカッション「VR/AIによる学習と日本の英語教育の未来」

講演者がパネルディスカッションをする様子

各種教育機関や研究者とともにVRを活用した英語教育の研究プロジェクトに携わる澤田 和信氏(株式会社イマース・ジャパン)、原田哲男教授(早稲田大学/IBS学術アドバイザー)、そして講演者4名によるパネルディスカッションを行いました。

テーマは、VRやAIなどの最先端技術をどのように小・中学生、高校生の外国語学習に適用できるか、どのような効果が期待できるか、どのような課題があるか。

この分野の研究は、大学生を対象としたものが多いことがテーマ設定の背景です。
VR/AI技術、会話データ、第二言語習得の理論、外国語教育のあり方、授業での実践、子どもの発達など、さまざまな観点から議論が交わされました。

ファシリテーターを務めた原田教授は、「例えばLL教室など、テクノロジーと外国語教育の関係は失望の連続でした。でも、もしかしたら今回のテクノロジーはうまくいく可能性があるのではないかと思いました。なぜなら、外国語教育を成功させるために重要なことが含まれているからです。」と話し、AIやVRなどの最新技術に大きな期待を寄せました。

 

VR・AIの体験会

最後に、ご参加いただいたメディアの方がVR英語授業や会話AI「InteLLA」を実際に体験できる時間を設けました。

VR体験では「没入感という意味がわかりました」、AI体験では「会話の相手がAIだということを忘れますね」などといった声が聞かれ、それぞれの登壇者に個別にさまざまなご質問をいただきました。

メディアの方が「immerse」を使った英語授業を体験する様子

VRプラットフォーム「immerse」を使った英語授業の体験

 

メディアの方が「InteLLA」による英語インタビューと能力判定を体験する様子

会話AI「InteLLA」による英語インタビューと能力判定の体験

 

おわりに

今回のセミナーは、異なる分野の専門家、そして、メディアの方々の間で極めて有意義な情報交換や意見交換が行われ、日本の英語教育の未来を考えるうえで貴重な機会となりました。

残念ながら、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、今回は参加人数を制限させていただきましたが、ご興味を示していただいていたメディアのみなさまには、順次、当日の録画映像の一部を共有させていただく予定です。

また、ご登壇いただいた斎藤 裕紀恵 准教授(中央大学)、松山 洋一 主任研究員・鈴木 駿吾 次席研究員(早稲田大学)のくわしい研究内容・活動については、IBS研究員による取材記事を当ウェブサイトに今後掲載する予定です。そちらもぜひご覧ください。

本セミナーに関するお問い合わせ先:contact@bilingualscience.com

 

<登壇者プロフィール>

■中央大学 国際情報学部 斎藤 裕紀恵 准教授

中央大学 国際情報学部 斎藤 裕紀恵 准教授のお写真

専門は、言語学、英語学、外国語教育。言語教育政策や第二言語習得理論、語用論、EdTech(Education & Technology)を研究テーマとしている。中央大学の斎藤裕紀恵ゼミの学生を対象に、VR英語教育・学習プラットフォーム「immerse」を使って、CEFR(外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠)に沿ったVR英語授業の効果を検証中。Immerse社のStrategic Advisor(戦略アドバイザー)を務め、Facebook(現Meta)社の「XRプログラム・研究基金」からも研究支援を受けている。コロンビア大学ティーチャーズカレッジで修士号(英語教授法)、テンプル大学で博士号(応用言語学)を取得。早稲田大学や明治大学、獨協大学での講師などを経て現職。

 

■早稲田大学 GCS研究機構 知覚情報システム研究所 松山 洋一 主任研究員(研究院 准教授)

早稲田大学 松山先生のお写真

研究ミッションは「社会的知能を有する会話AIメディアの実現」。早稲田大学 基幹理工学研究科 情報理工学専攻 博士後期課程にて博士号(工学)を取得。イタリア工科大学 認知ロボティクス研究室客員研究員、米国カーネギーメロン大学ヒューマン・コンピュータ・インタラクション研究所および言語技術研究所 博士研究員を経て、2019年より現職。さまざまな会話AI産学連携プロジェクトを主導してきた経験を持つ。国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」に採択された「人と共に成長するオンライン語学学習支援AIシステムの開発」の研究代表。2022年5月2日には、同研究チームを中心に早稲田大学発スタートアップ「株式会社エキュメノポリス」が創業され、代表取締役を務める。

 

■早稲田大学 GCS研究機構 知覚情報システム研究所 鈴木 駿吾 次席研究員(研究院 講師)

早稲田大学 鈴木駿吾先生のお写真

専門は、外国語教育、第二言語習得。質の高い発話とは何か、第二言語での発話はタスクの難易度や性質に応じてどのように変わるか、第二言語学習者が流暢に話せるようになるためにはどのような言語知識が必要か、といったテーマで研究を行う。英国ランカスター大学にて博士号(言語学)を取得し、2021年より現職。ランカスター大学 言語学部 客員講師、早稲田大学 文学学術院 非常勤講師も務める。早稲田大学 GCS研究機構の語学学習支援プロジェクト「人と共に成長するオンライン語学学習支援AIシステムの開発」にて、能力判定システムの研究開発チームを率いる。同研究チームが開発した「InteLLA」は2021年に世界最大の教育コンテスト「the QS-Wharton Reimagine Education Award」で表彰されている。早稲田大学発スタートアップ「株式会社エキュメノポリス」のリサーチ・サイエンティスト。

 

■株式会社イマース・ジャパン 澤田 和信氏

VR英語教育・学習プラットフォーム「immerse」を開発・提供するImmerse社(アメリカ・カリフォルニア州)の日本支社、株式会社イマース・ジャパンの代表取締役。学習の目的やレベルに合わせたVRレッスンを自由につくることができるimmerseは、日本国内でもいくつかの教育機関や語学スクールなどで導入され、各分野の研究者と連携してさまざまな研究プロジェクトが進んでいる。

 

早稲田大学教育学部・総合学術院 原田 哲男 教授(IBS学術アドバイザー)

IBS主任研究員 Paul Jacobs

 

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