日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2025.01.21
文部科学省の調査によると、2023(令和5)年5月1日現在の外国人留学生数は279,274人でした。また、日本へ留学する学生たちの目的も様々であり、卒業後も日本の企業や研究機関、学校などに就職を希望する留学生も多いのが現状です。
近年では、留学生を単なる一時的な滞在者としてではなく、社会のコミュニティの一員として捉える動きが盛んになり、大学内や地域コミュニティ内での交流会やイベントなどへの参加が積極的に行われています。
そこでこのコラムでは、日本国内で異文化交流体験を提供する大学や地域のコミュニティの実践例を紹介し、留学生との国際交流を行うことが日本人の英語学習者のその後の学習や異文化理解に対してどのような影響があるかを明らかにしていきます。
日本学生支援機構が実施している「外国人留学生在籍状況調査」の結果によると、2023年時点での外国人留学生数は279,274人です。その中でも留学生数の多いとされる国や地域は、中国(115,493人)、ネパール(37,878人)、ベトナム(36,339人)でした。
2022年3月以降の水際対策の段階的緩和や同年10月からの入国者数の制限撤廃などによって留学生の入国が進み、コロナ禍以降初めて留学生の数が上昇しました。それに応じて、日本国内の日本語教育機関の数も過去最高となっています。
日本を留学先として選択して来る外国人たちが日本語を学び始めたきっかけはさまざまです。日本語や日本に興味を持ったきっかけとして顕著なのが、日本のアニメ、ゲーム、漫画、映画などのエンターテイメント・娯楽に興味を持った人が多いことが特徴として挙げられます。
それに伴い、日本への留学目的も多様化してきています。卒業後に日本の企業に就職を希望する学生が増え、日本の社会において留学生を新しい人材として活用する動きがここ数年で広がっています(神谷&中川, 2007)。
さらに、留学生を多く受け入れている大学や専門学校、地域社会では留学生を一時的な滞在者にするのではなく、その土地や地域の子供達、学生たちと交流を行うなどの地域活動が積極的に行われています。急速なグローバル化により世界へと視野や価値観を広げることが求められる日本の子供達・学生たちにとって絶好の異文化体験の機会が与えられます。
そこでこのコラムでは、実際に海外からの留学生を多く受け入れている日本の大学が行なっている留学生と日本人学生との交流活動や国際交流イベントを紹介していきます。
また交流活動を通して、文化的・歴史的・社会的・宗教的などさまざまなバックグラウンドを持った留学生と交流した日本人の学生たちと留学生の双方にどのような変化が見られたのかを紹介していきます。
日本への留学生の増加に伴い、留学生と受け入れ側である日本人のホスト住民や学生たちとの交流に焦点を充てた研究が蓄積されています(小松, 2015)。
それらの研究の中で、留学生がホスト国である日本の国民との友好な関係を保つことの重要性や、留学先の学校や大学で日常的に接する日本人学生との関係性の構築が重要だと報告されています。
例えば、高木(2007)は日本人学生同士の友人や教員へ自分らしく接することや、本当の自分をさらすことができるかどうか(自己開示の程度)が孤独感にどのように影響するかについて研究をしています。高木(2007)は、この自己開示の程度が低い学生ほど学生生活で孤独感を感じやすいと述べています。この結果は日本人大学生と同様に、同じ年齢期にある留学生においても同じことが言えるのではないでしょうか。
留学生は異文化環境に身を置き、友人がいなければ日本人学生よりもさらに孤立した状態に陥る可能性が高いです。日本に滞在中、日本人学生や他の留学生との良好な関係づくりを行うことがとても重要と言えます。
さらに、日本人学生の異文化交流の重要性も、多くの研究で指摘されています。日本国内にいても異文化交流的活動に積極的に参加することで、国際的視野を持ち、自己成長を促す際に有効でしょう。
しかし実際には、大学や専門学校における異文化交流の機会は多くなく、自国の友人との交流の方が多いということが報告されています。また、日本人学生の方に異文化を受け入れ留学生との異文化交流をする準備ができていないことが問題とされています。
留学生と日本人学生の双方が個別な友人関係を築いたり相互理解を深めるためには、学生の集まる大学や専門学校などの教育機関、地域の施設などを利用した国際交流イベント、交流プログラムなどの異文化接触場面を設定することが重要です。そこでここからは、留学生と日本人学生の交流を促進するために行われた国際交流イベント・交流会の事例を紹介していきたいと思います。
これらは、留学生が日本に決められた期間ただ滞在して期限が来たら自分の国に帰国するという淡白な留学生活ではなく、自分が所属している学校や住んでいる地域の日本人と積極的に関わる機会を増やすことのできる非常にいい機会です。
神谷&中川(2007)の研究では、留学生と日本人の大学生が協働的活動を通して双方にどのような影響を与え合っているのかが調査されました。この協働的活動とは、留学生と日本人学生が対等な立場で、対人関係を築き上げながら課題を遂行していく活動です。
留学生は自分たちが育ってきた国や地域の文化的価値を、日本人学生たちは日本の文化的価値を提供しあいながら、日本語レベルの差によって生じる学生同士の葛藤やそれに対する対処方法を学び、留学生と日本人学生の相互理解をすることの大切さを実感したようです。この過程を経て得られた「学び」を紹介していきます。
この研究では、留学生と日本人学生の交流の価値を明らかにしています。留学生と日本人大学生が共に行った協働的活動を研究者が観察し、参加した留学生、学生たちへのインタビュー、協働的活動についての感想や記述から分析を行いました。
<研究目的と方法>
留学生と日本人学生との協働的活動の実践者である本人たちの相互作用による「学び」を捉えることがこの研究の目的です。具体的には、留学生や日本人学生たちが活動中に感じた葛藤、自分たちで見つけた葛藤に対する対処法、留学生と日本人大学生の相互理解、協働活動を行った上で学んだことの4点を分析の対象としました。
この研究で行われたのは、札幌市にあるH大学の日本人学生サークル活動と留学生会の協働的活動です。日本人学生と留学生が活動の中でどのような過程を経て協働でタスクを遂行するのか、その活動の進め方と、参加者たちの心理的変化を捉えて、異文化交流の文化的影響を明らかにしていきます。
<調査概要>
調査1:H大学の日本人学生と留学生の協働的活動の過程を観察し、活動のリーダーと参加者にインタビューを行いました。活動に参加したのは、日本人学生計8名と留学生計8名です。
インタビューの内容は、①「留学生の日本語力や文化の違いによるコミュニケーションにおける葛藤場面とその時の気持ち」②「葛藤場面の対処方法」③「相互理解のために必要と思ったこと」④「活動からの学び」⑤「自分が影響を受けた人」であり、これらについてについて自由に記述してもらいました。
<協働的活動の流れと内容>
H大学の日本人学生たちは、留学生との異文化交流活動や文化を学び合いながら、自分たちの文化も発信しようと試みるサークルを行なっています。また、留学生の学習・生活支援をはじめとした留学生活に関するサポートの役割も果たしています。
一方、留学生会は、留学生間での情報交換や相互補助、学習を目的としながらも学内外に向けた文化発信の目的も持っています。下記にある図1には、日本人学生たちと留学生会がどのように出会い、交流を深め、どのような流れで協働的活動を行なったかが示されています。この協働的活動は約1年をかけて行われました。
図1:協働的活動の段階的進展と活動の参加者(神谷&中川、2007 P6)
I 接触開始
・留学生のためのオリエンテーションやキャンパスツアーが行われる。
・学業、生活面のサポートを行なってくれるチューターと出会う。
Ⅱ 接触初期
・新入生歓迎コンパが開かれ、日本人と留学生がであう初めての公式の場となる。
・毎年恒例の行事としてお花見をする・
・留学生の支援を行うチューター制度が開始され、留学生に対する日本語支援、生活支援、学習サポートなどを行う留学生と日本人学生との大学内交流がはじまる・
・留学生による語学教室が開かれ、日本人学生は中国語、韓国語をネイティブたちから学ぶ機会を得られる。
Ⅲ 接触中期
・シンポジウムの企画運営会議が行われる。留学生会、日本人学生による異文化サークルが協働で行うシンポジウムがあり、毎年テーマを決めてプログラムが組まれる。この交流会では、学内だけでなく地域の人たちと日本・留学生、大学関係者が関わることができる。地域を巻き込んだ交流活動になるため、留学生と日本人学生の間に言語力の差やコミュニケーション方法の違いにより、お互いに伝えたいことが伝わらないような葛藤場面が多く見られる。
・シンポジウム準備として、役割分担がされ、それに従い準備を行う。この段階で留学生と日本人の双方が仕事の進め方について大きな文化的違いを感じることが多くなる。 多くの留学生にとって日本的な仕事の進め方は好意的に捉えられたものの、役割分担を細かく決めて仕事を進める日本方式の仕事スタイルに違和感を覚える留学生もいた。
・顧問教師が相談に乗ったりアドバイスを出すことで双方の仲介役として機能し、教育的援助が必要となる。
・シンポジウム実践当日、大学関係者、地域の人たちが参加。プレゼンテーションと交流会の二部方式をとっている。日本人学生と留学生が力を合わせて協働することの重要さを理解し、相互理解のための対処法を考えて行動できていた。
・反省会では、「打ち上げパーティー」と報告書による記録作りがされた。打ち上げパーティーでは達成感や仲間の絆を確かめ合い、強め合った。報告書では、感想や活動への提案、意見などがたくさん出されて次年度への参考になった。
Ⅳ 接触発展機
双方が一つの大きなプロジェクトを乗り越えたことで、自発的な活動が生まれてくるようになる。例えば自主ゼミや討論会、地域の人たちとのスポーツ大会などが留学生と日本人学生たちの企画により開催されるようになった。
このような流れで、留学生たちと日本人学生たちとの接触から協働的学習を達成しましたが、協働的活動を可能にするためには双方の対等な関係と信頼関係の構築が不可欠であることがわかります。
またその上で、課題を一緒に解決していくことが双方によって意義のある経験となることもわかります。
<参加者へのインタビューの結果>
活動の中心スタッフである日本人学生8名と、留学生8名にインタビューを実施しました。上記で解説した通り、①「留学生の日本語力や文化の違いによるコミュニケーションの葛藤場面」、②「①の対処方法」、③「相互理解に必要なこと」、④「活動から学んだこと」について調査しました。
①「留学生の日本語力や文化の違いによるコミュニケーションの葛藤場面」に関する回答として、コミュニケーションと対人関係に関連した回答が多かったようです。会議、討論、プレゼンテーション、シンポジウムの進行などのフォーマルな場面では、日本人と留学生それぞれが持つ特有のコミュニケーション方法が顕著に表れ、時にはぶつかり合うこともあったといいます。意見の相違に関する意識の違いや留学生の日本語力不足への不安も双方に見られたようです。
留学生のインタビューからは、このような意見が見受けられました。
・ 日本人学生が話す日本語の不明瞭さ、みんな同じ意見を言うので一人一人の意図が掴めないし、自分とは異なる意見への不寛容さが見られる。
・ 日本語力不足への配慮が足りないと感じる。
・ 日本人大学生の仕事の進め方が細かすぎたり、臨機応変さがないと感じる。
・ 会議の時間が長いと感じる。
・ 先輩後輩の関係の理解が難しい。教員への尊敬の念が薄いと感じる。
・ お礼と挨拶が過剰だと感じる。
一方、日本人大学生からはこんな意見が出されました。
・ 留学生たちは空気を読むのが難しそうである。
・ 直接的に表現する。
・ 留学生の日本語の理解度がわからないので会話が難しい。
・ ルールに従ってくれないし、計画性がないと感じる。
・ 時間を守ってくれないし、時間配分をするのが難しい。
・ お礼の表現が不十分に感じるし、年齢を無視した態度が見られる。
②「留学生と日本人大学生間のコミュニケーションに関する葛藤への対処方法」、③「相互理解に必要なこと」に関する回答では、「相手の意図を十分理解できなかったことに対して、もっと聞く耳を持つべきだったと思う。」という声や、「相手の文化を理解した上で自分の文化の方法で接するべきだったと思う。」という対処方法を考えた学生もいました。
②と③に関する留学生へのインタビューの結果、以下のような意見が出ました。
・ 相手の意図を理解する力をつけたい。
・ 相手に説明したり説得する努力をしたい。
・ 日本の社会的ルールについての知識を持ちたい。
・ 文化の違いを認める寛容性を持ちたい。
・ 議論の進め方をあらかじめ相談したい。
日本人大学生からも、異文化間のコミュニケーションで起こる葛藤の対処において必要な力や能力について聞くことができました。
・ 日本語能力不足の相手に対して説明する努力をしたい。
・ 相手の意図をよく聞きたい。
・ 異なる意見に対する寛容性をもっと持ちたい。
④「活動から学んだこと」の回答からは、異文化の人との付き合い方、接し方、相手への配慮と理解しようとする努力などの異文化間での関係の築き方が育成されていることがわかりました。
留学生が協同活動を経て学んだことは以下になります。
・ 言語(日本語)を使ったコミュニケーション以外の方法での会話の重要性に気づいた。
・ 日本語コミュニケーション能力が向上した。
・ 日本の文化の深さ、文化的差異に関して学ぶことができた。
・ 友人関係の構築の方法について学ぶことができた。
・ 寛容な態度の育成方法について考えることができた。
日本人大学生のインタビュー結果からも、以下のような「学び」に関する意見が出ています。
・ 異なる文化の学生と接することで、物事に対する発想力が広がった。
・ 交渉能力を工夫したことで、その能力が向上したように思う。
・ 会話を諦めない気持ちを持つことが大切だと思った。
今回このコラムでは、日本へ訪れる海外留学生数の推移と彼らの現状を把握したのち、留学生が「一時的な滞在者」ではなく日本人学生や地域社会と交流をすることで「意味のある留学生活」を送ってもらう取り組みについて特集してきました。
さらに、さまざまな文化的・社会的・歴史的・宗教的バックグラウンドを持つ留学生と直接交流をする機会を増やすことは、今後の日本人学生たちの異文化理解、国際理解にとって重要な役割を果たしていると言えるでしょう。
今回の協働的活動の中で留学生と日本人学生たちが実際に感じた文化の差、言語の壁などによる葛藤やその対処方法、相手を理解しようとする姿勢を育むことの大切さがより多くの教育関係者、子育てをする保護者の方、外国人と共生する地域の方々に知り渡ることを願います。
■関連記事
参考文献
神谷順子, & 中川かず子. (2007). 異文化接触による相互の意識変容に関する研究: 留学生・日本人学生の協働的活動がもたらす双方向的効果.
http://hokuga.hgu.jp/dspace/bitstream/123456789/1143/1/GAKUEN-134-1.pdf
文部科学省 「外国人留学生在世区状況調査」及び「日本人の海外留学数」等について
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1412692_00003.htm
文部科学省「愛国人留学生在籍状況調査」および「日本人nの海外留学数」等について
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1412692_00003.htm#:~:text=%EF%BC%88%E7%8B%AC%EF%BC%89%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%AD%A6%E7%94%9F%E6%94%AF%E6%8F%B4%E6%A9%9F%E6%A7%8B%E3%81%8C%E5%AE%9F%E6%96%BD%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B,%EF%BC%85%EF%BC%89%E5%A2%97%EF%BC%89%E3%81%A7%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82
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