日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2023.07.06

公立小学校における国際教室のあり方 〜外国籍または外国にルーツを持つ児童が安心して学べる環境づくり〜

公立小学校における国際教室のあり方 〜外国籍または外国にルーツを持つ児童が安心して学べる環境づくり〜

日本の公立小学校には、外国籍または外国にルーツを持つ児童が日本語を母語とする児童たちと一緒に在籍しています。外国籍または外国にルーツを持つ児童たちの中には、日本語をうまく使用できないことを理由に学校生活に支障があり、友達との関係がうまくいかない、授業についていけない、自分のアイデンティティが分からなくなってしまうなどの悩みを抱えている子も少なくないと言います。

そこでこの記事では、実際に日本の公立小学校に勤務する教員や日本語指導員たちの児童らとの関わり方、具体的な支援の方法について考察していき、外国籍、また外国にルーツを持つ児童たちが安心して学校生活を送れるためのヒントを提案していきます。

【目次】

 

公立小学校における外国籍または外国にルーツを持つ児童の割合と現状

近年、日本の公立小学校には外国籍または外国にルーツを持つ児童や母語が日本語ではない児童など、日本語の支援が必要な児童が急増しています。平成26年に文部科学省によって行われた「公立学校に在籍する日本語指導が必要な外国人生徒数」に関する調査によると、公立学校に在籍する外国籍または外国にルーツを持つ児童のうち4割が日本語の指導を必要としていることがわかります。また、その数は増加傾向にあるということです(川田& 横溝, 2023)。

グラフ|公立小学校における日本語指導が必要な児童生徒の現状 (文部科学省, 2016)

表1 公立小学校における日本語指導が必要な児童生徒の現状(文部科学省, 2016)

 

全国の公立小学校の中でも外国籍を持つ、または外国にルーツを持つ児童の割合が多い地域がいくつかあり、首都圏では神奈川県横浜市が挙げられます。特に横浜市の中でも中区、鶴見区がその割合が多いことで知られています(2023年1月末時点で14,047人)。また、愛知県、東京都も割合が高いようです。

 

 

外国籍または外国にルーツを持つ児童が抱えている問題

外国籍または外国にルーツを持つ児童が多く通う公立小学校では、日本語の指導や支援が必要であることに加え、取り組むべきさまざまな課題が報告されています。

ここからは各課題について詳しく説明し、その上で課題の解決に向けて公立小学校が実際に取り組んでいる取り組みについて紹介いたします。各学校の具体的な取り組みを参考に、今後も増加が見込まれている外国籍または外国にルーツを持つ児童たち、そして全ての児童、教員が安心して楽しく一緒に学校生活を送るためのヒントを考察したいと思います。

 

課題その① :学習支援の不足

安達(2023)によると、外国籍または外国にルーツを持つ児童の課題として日本語の学習支援不足が挙げられると言います。一人一人の特性や個性に合わせた指導計画を教員が作成することで日本語の学習の効果は高くなりますが、文科省の調査によるとその個別指導を受けられている児童の割合は日本国籍の児童では57.3%、外国籍の児童は60.8%にとどまっているようです。愛知県の公立小学校では2018年の時点で、日本語の支援が必要な児童約9,000人に対して日本語教育適応学級担当の教員の数は約600人程度しかいない状況だと言います。

また、日本語の支援が必要な児童が10人未満である自治体の場合、日本語支援担当の教員が配置されにくい状態であることも課題の1つです。

横浜のある市立小学校においては支援が必要な児童が100名以上いるにも関わらず支援教員が非常に少ないのが現状であり、要日本語指導児童数が157人であるのに対し加配教員数は5人程度に止まっており、担当教員一人当たりの児童数は約31.4人となっています。これは平成28年度の時点の文部科学省による調査報告であるため、現時点ではより多くの要日本語指導児童が公立学校に在籍していると思われます(文部科学省, 2016)。

 

課題その② :中学・高校進学への道

また、安達(2023)によると学校生活を送るために必要な日本語力だけでなく、将来中学校や高校へ進学するために各教科についても十分理解する必要があると言います。文部科学省の調査によると、全中学生の高校への進学率は99.2%であるのに対し、日本語指導が必要な中学生等の進学率は89.9% となっています。

また、日本語支援が必要な高校生の中退の割合は9.6%であり、これは全高校生の中退率である1.3% の約8倍という高い数値を示しています。

 

公立小学校での日本語支援の取り組み紹介

以上の課題を踏まえ、ここでは公立の小学校で実際に行っている外国籍または外国にルーツを持つ日本語支援を必要としている児童たちへの取り組みを紹介していきたいと思います。

 

取り組みその① :横浜市金沢区のA小学校の取り組み(川田&横溝, 2023)

外国籍または外国にルーツを持つ児童の中でも日本語支援を必要とする児童の割合が高い横浜市では現在、5人以上 の日本語指導を必要とする児童に対し、日本語指導・教科指導を行う教員を1人配置する取り組みが始まっています。

A小学校では、全校生徒358人に対して日本語指導を必要とする児童の数は30人ですが、ほとんどの児童が日本生まれということもあり日常生活で使う日本語には不自由がないそうです。ただし、学級での授業となると一斉指導では学習内容を理解することが難しいと言います。

そこでA小学校の国際教室では、国語や算数などの教科内容と日本語の統合学習を進めてきました。毎年、年度始めに在籍学級の時間割に合わせて国際教室の時間割を調整し、在籍学級が国語を行なっている時間は国際学級でも国語を取り扱うことで、在籍学級と同じ進度になるよう心がけながらも、児童一人一人の日本語力に応じて課題の設定を行うよう意識しています。単元のまとめの日には、在籍学級の児童らと交流し、徐々に一緒に学習ができるように工夫をしています。

また、A小学校の日本語支援を必要とする児童らに対し、桜美林大学の日本語教育学を専攻する大学生たちが支援を行う「日本語学習支援サービスラーニング(以後SL)」という取り組みも行われてきました。当初は対面での交流になる予定でしたが、新型コロナウイルスの影響でオンラインでの日本語支援を2019年より続けています。

表|小学校・大学連携日本語学習支援SLの参加者・学習形態・活動内容 (川田 & 横溝, 2023)

表2 小学校・大学連携日本語学習支援SLの参加者・学習形態・活動内容(川田 & 横溝, 2023)

 

高学年の児童はオンラインでの指導に適していたようですが、低学年の児童の指導の際には2021年以降はできるだけ対面での指導を心がけたようです。主に国語や算数の教科内容を大学生が行いました。

通常学級での一斉指導では日本語に自信がなく普段は発言をためらうことの多い児童も、大学生との対話を毎回楽しみにしており、このSL活動の中では大学生に対してわからないことを気軽に質問できたり休み時間中には自分のことを積極的に話したり、徐々に心を開いていく様子も見られたそうです。

 

取り組みその② :大阪府八尾市にあるB小学校の取り組み(西村, 2009)

全校生徒1200人を超える大規模校であるB小学校は、さまざまな国にルーツを持つ児童が年々増加傾向にあります。外国にルーツを持つ児童は2008年の時点で38人いましたが、そのうち外国籍の児童は25人だったそうです。このB小学校の日本語指導を必要とする児童の特徴として、家庭では両親またはどちらかの親が母語で会話をしているという点です。

そのため、日本語以外の言語を母語として日常的に使用している彼らにとってその言語はアイデンティティの一部となっています。

しかし、2つの言語環境を持つ児童たちは、2言語が得意になるのではなくどちらも不得意な状況に陥ることもあると言います。日本で母語を指導される機会がほとんどないまま学校生活を送ることで母語力が低下していくのです。

日本語、母語のどちらの能力もかけてしまうと、学校生活に支障が出てきます。例えば、教員や友達と思うようにコミュニケーションが取れなくなったり、勉強についていけなくなるということが起こります。そうなると、学校生活に楽しさを見出せなくなり、さらには家庭においても親子間で会話が成立しにくくなることも予想されます。日本語がある程度身についた子供と日本語力が極端に低い親との間に亀裂が生じるのです。

そこでB小学校の教員は、日本語と教科内容の指導のみにフォーカスすることが児童たちの母語の喪失に繋がってしまってはいけないと、「母語で日本語を指導する時間」を作り、普段から2言語を使用する児童たちのアイデンティティの保護を試みました。

この試みは2001年から始まり、国際学級の教員で運営されています。この母語指導は、国語や総合的な学習の時間の抽出授業(通常学級とは別の教室を借りて行う授業)という形で行われ、学年や母語のレベルを考慮して1コマ2〜4名ほどの少人数クラスで運営されています。

この母語指導に参加していた中国にルーツのある児童は入学当初、中国語そのものに否定的な姿勢を示していたと言います。教員が中国語で質問しても、黙ってしまったり、あえて日本語で答えることが多かったと言います。また、この児童は家庭で中国語を話す両親に対しても否定的な態度を見せていたようです。さらに、小学校に入学したばかりで環境に適応するのが難しい中、日本語で行われる通常学級に加え国際学級で中国語を学ばなければいけないことへの戸惑いからか、ひらがなの習得も遅かったようです。

しかしそんな児童にも変化が訪れます。国際学級での学習を進めるにつれ、同じように現学級の授業を抜けて母語である中国語を学ぶ友達や、毎回国際学級へと送り出してくれる担任の先生や友達の存在に気づき、国際学級の教員からの質問に中国語で答えるようになったと言います。また、同じ中国のルーツを持つ友達と楽しんで学習に励むようになったようです。

このことは、B小学校では国際学級で中国語を学ぶことが「当たり前のこと」と認識されているからこその結果だと言えます。

日本語担当教員や国際教室で一緒に学習する仲間の存在だけでなく、国際教室以外の教師や友達など学校全体からの日本語の指導が必要な児童への共感、理解が外国にルーツのある児童たちのアイデンティ形成にいい影響を与えています。

 

考察〜全ての児童が安心して楽しく学校生活を送るために〜

今回のコラムでは、公立小学校における外国籍または外国にルーツを持ち、日本語の支援を必要としている児童の現状を紹介し、その割合が特に多い地域が抱えている課題について考えました。日本語支援教員の数が足りていない現状や、支援不足による中学・高校への進学率の低下が課題とされる中、横浜市の小学校では日本語教育学を学ぶ大学生が学習支援を行い児童らの日本語・教科内容の理解を助けています。

また、大阪府の小学校では日本語支援を必要とする児童らの母語も保護しながら日本語・教科内容の指導を行うことで、彼らの言語的・文化的アイデンティティの喪失を防いでいることがわかりました。

全ての公立小学校で、ここで紹介した事例と同じ取り組みを行うのはむずかしいかもしれませんが、この記事で紹介した事例は、日本語支援教員の不足という問題を解決するヒントや、今後ますます人種的多様性に溢れていく日本の公立小学校において、児童一人一人のアイデンティティの保護に繋がる取り組みの参考になるのではないでしょうか。今後も公立学校において引き続き外国または外国にルーツのある子供達が安心して学ぶことのできる学校環境を提供するためには、今回紹介した事例を含むさまざまな工夫が必要です。

 

IBSサイトのバナー

 

■関連記事

アメリカで実践されている日本語イマージョン教育~UCLA林(高倉)あさこ講師インタビュー(前編)~

「セミリンガル」という差別用語

 

 

参考文献

安達理恵. (2023). 外国籍児童と異文化間教育-愛知県を中心に. 地域政策学ジャーナル, 12, 37-46.

 

平林照世. (2008). 外国籍等児童に対する教科学習支援と発話による自己表現の研究: ある児童の観察を中心に. 信大国語教育, 18, 46-57.

 

川田麻記, & 横溝亮. (2023). 社会変容のための Service Learning の取組を目指して―横浜市内の公立小学校における外国につながる児童への支援体制づくりの実践と課題―. サービスラーニングの実践と研究, (4), 18-35.

 

近藤美苗. (2000). 外国籍児童受け入れに関する小学校教員の意識一愛知県公立小学校におけるアンケート調査よりー. 愛知教育大学教育実践総合センター紀要, (3), 49-56.

 

文部科学省(2022a)「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和3年度)結果の概要」(2023年6月取得) https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/09/1421569_00003.htm

 

西村佑理. (2009). 外国にルーツをもつ子どものアイデンテイティ形成に寄与する母語教育一公立小学校における取り組みを中心とした実証的研究一.

 

文部科学省. (2016). 日本語能力が十分でない子供たちへの教育について. 第 35 回教育再生実行委員会配付資料, 22.

 

 

PAGE TOP