日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2018.10.04

英語教育の学校・地域格差と日本の英語教育

英語教育の学校・地域格差と日本の英語教育

市内の中学3年生の英語力が全国平均を大幅に上回った、とのニュースを2018年春に発表した大阪府箕面市。このように、ほかの都道府県や市町村よりも英語力が高い地域もあれば、そうではない地域もあります。
なぜ、このように全国で英語力のばらつきが起きるのでしょうか?

 

【目次】

 

 

全国で差が生じた中学3年生の英語力

文部科学省(2018)が2017年末に実施した調査によると、全国の中学3年生のうち、英検3級以上レベルの英語力をもっていると思われる生徒の割合は40.7%。

都道府県別に見ると、第1位の福井県(62.8%)と最下位の島根県(30.5%)では倍以上の差があります。

大阪府は39.5%とほぼ平均的ですが、府内の箕面市は70.8%と極めて高い割合であり、箕面市教育委員会は「他の自治体と比較しても突出」していると報告しました。

グラフ 都道府県別 英検3級以上相当の英語力があると推定される生徒の割合

 

文部科学省は、2013年に教育振興基本計画を閣議決定し、5年間で達成するべき「国際共通語としての英語力の向上」の成果目標として、中学校卒業段階で英検3級程度以上、高校卒業段階で英検準2級〜2級程度以上の英語力をもった中高生の割合を50%以上にすることを掲げました(文部科学省, 2013)。

この成果目標と照らし合わせると、2017年末で全国平均40.7%という結果は目標達成に至っていません。一方、大阪府箕面市は70%を超えているため、全国平均のみならず、政府が決定した成果目標も大幅に上回ったことになります。

 

 

大阪府箕面市の英語教育

大阪府の北部に位置する箕面市は、都市圏へのアクセスの良さや豊かな自然、働きながら育児をする保護者のための支援などから「子育てしやすさ日本一」を掲げるベッドタウン。

市立のすべての小中学校において、小・中一貫カリキュラムやデジタル教材の導入、食育など、子どもたちの教育に関するさまざまな取り組みが行われています。

英語教育はそのうちの一つであり、2015年度より、箕面市の公立小・中学校では全学年で英語の授業が毎日実施されてきました。2017年度からは、保育園や幼稚園でも、ALTと一緒に英語にふれて楽しむ活動が月2回程度実施されるようになり、国に先駆けて英語教育の早期化も進めていると言えます(箕面市教育委員会, 2018)。

 

地図 大阪府箕面市

Map data©2018 Google, ZENRIN

 

表 大阪府箕面市における英語教育の取り組みの推移

箕面市(2018)によると、市立中学校の全学年において生徒の70%以上が「英語が楽しい」と感じています。

全国の国公立中学3年生を対象とした文部科学省(2018)の調査では、「英語学習が好き/どちらかといえば好き」と回答した生徒は54.6%です。

また、箕面市は、1クラスを少人数のグループに分けてALTを一人ずつ配置したり、休み時間や給食などの授業以外の場面でALTと会話できる環境をつくったりするなど、ALTを独自に増員して積極的に活用しています。

全国のALT活用人数は、各都道府県で平均すると160人程度(文部科学省, 2018)。箕面市のALT人数は60人(2018年8月時点)であるため(箕面市教育委員会, 2018)、市町村という小さな単位の自治体としては多いと言えるのではないでしょうか。

よって、箕面市の中学生は、小学生のころから外国人と日常的に会話する機会があることで「英語が楽しい」という気持ちが根づき、全国平均よりも高い英語力に繋がっていると考えられます。

 

 

英語教育は、各学校や市町村に委ねられている

大阪府箕面市に限らず、10年以上前である2006年に小学1年生から英語科を設けた東京都品川区など、全国に先駆けた英語教育の取り組みを行う市町村は各地にあります。

同じ日本に住んでいても、同じ都道府県に住んでいても、地域によって英語力の差が開いていく可能性のある子どもたち。なぜ、このような状況が生まれるのでしょうか?

文部科学省(2013)によると、教育における国の役割は目標を示すことであり、その実施は学校や市町村に委ねられています。その理由は、2013年に閣議決定された「第2期教育振興基本計画」にて以下のように記されています。

 

「教育行政を推進するに当たっては、全国的な教育の機会均等や教育水準の維持向上などを図りつつ、各地域において異なる実情やニーズに応じて最適な対応がなされるよう、教育現場における主体性を引き出し、創意工夫を一層促すための環境を整備することが重要である」

出典:文部科学省(2013)

 

国が責任を負うのは教育の機会均等と教育水準の維持向上であり、国が定める計画や目標はあくまで基準です。それらを達成する方法を考えて工夫する権限は教育現場である各学校や市町村にあり、また、その責任を負うべきであると考えられているのです。

文部科学省は、今後一層、国ではなく、学校や市町村が主体的に教育への取り組みを行うことを推進しようとしています。

欧米をはじめ、世界各国が教育現場に多くの権限を委ねており、主要産業や必要な人材、伝統文化や特色が地域によって異なることからも、このような方針は自然であると考えられます。

また、大阪府箕面市のように、充実した英語教育が住民誘致のためのアピールポイントとなる場合があり、学校や自治体に教育が委ねられることは地域の活性化に繋がります。

しかしながら、教育内容や授業時間数に差が生じることが問題視されていることも事実です。例えば、日本では2011年に全国の小学校で外国語活動が必修化されましたが、その背景の一つには、学校によって「総合的な学習の時間」としての英語活動の内容や時間数に「相当のばらつき」が生じていたことがあります。

そして、小学5・6年生の英語必修化により、1〜4年生の英語への取り組み内容はさらに地域差が大きくなったと報告する研究結果もあります(鈴木, 2012)。

文部科学省は、児童・生徒の英語に対する意識や英語力、教師の英語力などについて各都道府県の状況を比較するような調査は行っていますが、そのくわしい状況や原因に関する調査・分析までには及んでいません。

国は、子どもたちが英語教育を受ける機会を均等に与え、その教育レベルを維持・向上させる責任があります。

しかしながら、一方で各地域の状況やニーズに合った教育を行い、また、地域を活性化させるために、教育現場での創意工夫を推奨しています。

学校や地域によって、その規模や社会経済的状況、確保できる人材などが異なるのですから、英語教育の開始年齢や授業内容、カリキュラム、ひいては英語力にまでばらつきが生じてしまうのは当然とも言えます。

 

 

英語教育を学校まかせにしない

義務教育である小・中学校については、通常は住んでいる地域で通う学校が決められているからか、公立であればどの学校も地域も同じような教育であると考えている人は多いかもしれません。

しかしながら、「どこも同じ」と考えてしまうことは、学校や教育への無関心に繋がるのではないでしょうか。実際、文部科学省の調査によると、原則公開とされている教育委員会会議を傍聴する住民は、市町村単位で年間平均3.6人と極めて少なく、年間の傍聴者が0人である教育委員会は全体の7割です(文部科学省, 2017)。

各地方自治体の教育委員会は、専門家のみでなく地域住民の意向を教育に反映させるために設置されているという側面があるにもかかわらず、その意義は果たされておらず、教育委員会の役割や活動について知らない住民も多いのです(小山, 2008)。

文部科学省(2013)の教育振興基本計画に明記されているように、子どもたちの教育は、国や都道府県、市町村、学校のみの責任ではなく、親や地域住民の責任でもあるのです。

 

「国・地方公共団体のみならず、学校、保護者、地域住民、企業など社会の構成員全てが教育の当事者であり、それぞれの立場において連携・協力し、社会全体の教育力を強化するための環境を整備することが必要である」

出典:文部科学省(2013)

 

特に英語教育は、学習指導要領の改訂により、各地でさまざまな試みが行われ、学校差・地域差が広がると予測されます。

学習指導要領の改訂は2016年に行われましたが、全国のすべての学校ですぐ一斉に実施されるわけではありません。例えば、小学校における外国語教育に関しては、まずは「拠点校」や「英語教育強化地域」と呼ばれる一部の学校や地域で教材やカリキュラムの開発、英語教育の早期化・教科化などが先行実施され、効果検証や改善が行われていきます(文部科学省, 2016)。

すべての小学校で全面実施されるのは2020年であり、地域や学校によっては4年もの差が生じます。だからこそ、子どもたちの英語教育に対して親や地域住民が当事者意識をもつことが必要なのです。

「小学校で英語が始まるから、小さいころから習わせなければ」、「学校で4技能が重視されるらしいから、小さいころから読み書きもやらなければ」などと、日本では学校を中心に子どもの教育を考える傾向にあるのではないでしょうか。

一方、アメリカでは、学校での教育の質や環境に疑問をもち、ホームスクーリング(親などが自宅で子どもを教育する)を選択する親もいます(Redford, 2017)。

極端な対比例ではありますが、学習指導要領がいくら変わっても、結局は学校や地域によって実施の時期も内容も異なるという実情を考えると、何のために英語を身につけるのか、どのように身につけるのか、ということについて、家庭など学校外での英語環境づくりも含め、親が積極的に考えて関わっていくことは子どもたちの将来の英語力に影響を与える重要な要素だと考えられます。

 

 

参考文献

Redford, J., Battle, D., Bielick, S. (2017). Homeschooling in the United States: 2012. National Center for Education Statistics (NCES).

https://nces.ed.gov/pubsearch/pubsinfo.asp?pubid=2016096rev

 

 

大阪府箕面市(2018).「箕面に住む? 〜仕事も子育ても充実した生活」.

https://www.city.minoh.lg.jp/brand/index.html

 

 

小山永樹(2008).「日本の教育行政と自治体の役割」.『分野別自治制度及びその運用に関する説明資料 No.9』. 自治体国際化協会(CLAIR)・政策研究大学院大学 比較地方自治研究センター(COSLOG).

http://www.clair.or.jp/j/forum/honyaku/hikaku/pdf/BunyabetsuNo9jp.pdf

 

 

鈴木尚子(2012).「英語活動における「ばらつき」 −取り組みと条件整備における学校差・地域差は解消されたのか−」.『ARCLE REVIEW No.6(研究紀要第6号)』. 8-21. Action Research Center for Language Education (ARCLE).

http://www.arcle.jp/research/books/

 

 

箕面市教育委員会(2014).「(報道資料)小学1年生から英語教育を実施します」.

https://www.city.minoh.lg.jp/edu-center/houdou/documents/20140206eigokyouiku.pdf

 

 

箕面市教育委員会(2018).「(報道資料)箕面市の中学3年生の英語力 英検3級相当以上の割合が70%超え!」.

https://www.city.minoh.lg.jp/edugakkou/eigoryoku_over70percent.html

 

 

文部科学省(2013).「第2期教育振興基本計画」.

http://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/detail/1336379.htm

 

 

文部科学省(2016).「教育課程部会 小学校部会(第4回)配布資料5:小学校における外国語教育の充実に向けた取組(カリキュラム、教材、指導体制の強化)」.

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/074/siryo/1368720.htm

 

 

文部科学省(2017).「教育委員会の現状に関する調査(平成28年度間)」.

http://www.mext.go.jp/a_menu/chihou/1399757.htm

 

 

文部科学省(2018).「平成29年度英語教育改善のための英語力調査 事業報告」.

http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1403470.htm

 

 

文部科学省(2018).「平成29年度「英語教育実施状況調査」の結果について」.

http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1403468.htm

 

 

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