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2022.04.27

英語学習をやり抜く脳は、スモールステップによる達成感で育つ 〜東北大学 細田千尋准教授インタビュー(後編)〜

英語学習をやり抜く脳は、スモールステップによる達成感で育つ 〜東北大学 細田千尋准教授インタビュー(後編)〜

東北大学 細田千尋准教授への取材記事後編です。

【目次】

 

 

脳の特徴によって学習をやり抜く力を予測できる

―脳は英語を学習することによって変化することがわかりました。先生は、非認知能力(※7)についても研究されていらっしゃいますが、これは英語学習に関する研究とも関連しているのでしょうか?

非認知能力に興味を持って学習全般に関する研究を始めたきっかけは、先ほどご紹介した、英語のトレーニングをしたら脳が変化するかを調べた研究です。

事前にインタビューをして、英語学習に対するやる気がかなり高い参加者ばかりを集めて謝礼を用意したにもかかわらず、英語のトレーニングを始めてみたら、最初の10日間くらいで半数くらいは参加をやめてしまったんです。

そこで、これが英語学習だから起きたことなのか、それ以外の学習でも同じことが起きるのかを解明することは学習を成功させるうえでの鍵だと思いました。

何かを学ぼうとしたら、必ず努力が必要ですよね。英語学習の場合は、すぐには成果が見えづらいですし、特に青年期以降は強い動機付けがないまま学習しなければならないこともあります。

ですから、目標に向かってやらなければいけないことを長期間継続できる能力が学習全般の下地になっていると考えました。このような理由で、非認知能力の一つである継続力について検証することにしました。

 

ー英語学習に成功するためには、継続する力が必要だろうということですね。学習を継続できた人とできなかった人では、脳に何か違いがあったのでしょうか?

英語のトレーニング中に脱落してしまった人たちと最後までちゃんとやり切った人たちは、英語力やIQ、性格特性には大きな違いが見られませんでした。でも、トレーニング開始前に撮った脳画像を比較したところ、違いが見られました。

最後までやり切った人たちのほうが、おでこのすぐ後ろに位置する脳の「前頭極(ぜんとうきょく)」と呼ばれる場所がトレーニングを開始する時点で発達していたんです。

そして、これが英語学習に特有のことなのかどうかを調べるために、実験参加者の人数を増やし、いろいろなタスクをやってもらいました。

一つは、遂行能力を見る「ハノイの塔」ですね。3本の杭のうち、一番左の杭に7枚の円盤(中央に穴が開いていて、それぞれ大きさが異なる)が積まれていて、最終的にそれらをすべて一番右の杭に移動させるタスクです。1回につき1枚ずつ移動させることができますが、小さい円盤の上に大きい円盤を乗せることはできません。最短で円盤を127回動かせば完了するのですが、大抵の人はもっと回数が必要です。

結果、事前にルールを説明したうえでやる気がある人だけを集めても、やはり半数くらいは「できないので、やめます」と途中で脱落してしまいました。このような現象は、運動学習でも見られました。

そこで、いろいろな学習で最後までやり切った人とそうでない人の脳を比較したところ、英語学習のときと同じように、学習開始時点で前頭極の発達に違いがあったんです。

前頭極の発達を見れば、90%くらいの確率で、その人が最後までやり切れる人なのか、途中で脱落してしまうのかを予測できることがわかりました(※8)。

前頭極の発達と人間の資質の相関をしめす図

 

画像提供:細田千尋氏

Hosoda et al. (2020)

 

 

スモールステップ学習で「やり抜ける脳」に変化する

―脳の特徴によって、継続力があるかどうかがわかるのですね。では、前頭極があまり発達していない人(継続力が低い人)が英語を学習するとき、どのようなことに気をつける必要がありますか?

前頭極は、メタ認知に関連しています。自分のことを正しく理解する力ですね。

特に英語学習者は、できるようになるために必要だと思っている学習期間が短い傾向にあります。

例えば、「3カ月これをやっていれば話せるようになる」と信じていると、そんなことは実際起こらないので、自分ができない現実と理想との間にギャップが生じて、やる気がなくなってしまいます。結果、やらなければならない学習を継続できなくなります。

ダイエットなどにも同じことが言えますが、自分の努力を正しく評価して、その結果を正しく予想していれば、予想が裏切られないので、モチベーションが下がらないんです。

ですから、メタ認知が低い学習者にとって重要なことは、夢や希望を与えることではなく、「今のあなたは、これくらい学習すれば、このレベルまでできるようになります」ということを、現実に沿った形でちゃんと提示してあげることです。

 

―具体的には、どのような学習方法が効果的でしょうか?

前頭極が小さくて途中で投げ出しやすい人は、特に、スモールステップをたくさん用意して、ステップごとに達成したことを認めていってあげると、学習を継続しやすいです。

教える側は、「これはできて当たり前」と思わずに、小さなことでも一つひとつ達成感を与えることが大事ですね。

また、学習を開始する時点での初期値(英語力)によって、どのようなステップを与えるかは変わってきますから、そこはパーソナライズする必要があります。

 

―達成感を与えるには、どのような方法があるでしょうか?

効果的なフィードバックの与え方は、人によって異なります。

ほめるという方法、「あなたはいま何位ですよ」と他者と比較する方法、「前回から〜ポイント上がりましたよ」と変化を数値で見せる方法などがありますが、それぞれ、性格特性として向いている人、向いていない人がいます。

ですから、事前に一人ひとりの学習者の特性を知ったうえで、達成感を与える方法を考えたほうがいいと思いますね。

 

―英語学習を続けるためには、努力した分だけ能力が高まっているのを実感しやすくすることが重要なのですね。そのような学習方法によって、脳の前頭極が発達し、継続力が高くなることはあるのでしょうか?

はい。すべての参加者の課題内容や進捗度合いをまったく同じにしたうえで、スモールステップを用意してたくさん達成感を与えるグループとそうではないグループに分けました。

結果、20歳を超えていても、それまで継続できなかった人たちがスモールステップで学習すると、学習を継続できるようになることがわかりました。当然、英語力も上がります。さらには、非認知能力のやり抜く力に関わっている前頭極も大きくなっていました(※8)。

この人たちは、長期間に渡ってがんばってやり抜く力がついて、前頭極も大きくなっているので、その後、再度MRIで脳画像を撮ったときに「やり切る人」と予測されて、実際にやり切る人になっている可能性が高いです。

 

スモールステップ学習が脳に変化を起こすことを示す図

 

 

子どもの「やり抜く力」のために親ができること

―やり抜く力に関わっている前頭極は、何歳ごろから発達していくのでしょうか?

脳の前頭葉が13歳くらいに発達のピークを迎えている人たちは、20歳になったときのIQが高いということがわかっています。逆に、早い時期に発達のピークを迎えた人たちは、IQがあまり高くないんです。

つまり、前頭葉に関しては、2、3歳のときから10代前半にかけてゆっくりとダイナミックに発達していくことが大切ということですね。

ですから、「小さいうちに前頭葉を鍛えましょう」という考え方には賛同できません。

ただ、非認知能力は習慣のようなもので、成人になってから身につけることは難しいので、何かをやり抜くことは小さいころから習慣としてできるようになっていたほうがよいと思います。

小さいときから無理やりやらせるということではなく、発達段階に応じて、必要なやり抜く力を育ててあげることが大事ですね。

 

―やり抜く力があまりない子どもに対して、親が何かできることはあるのでしょうか?

最近、親子を対象とした実験をしているのですが、子どもの非認知能力は親の非認知能力から予測できます。

その要因が遺伝なのか環境なのかはまだわかりませんが、特に母親の非認知能力と相関していました(※9)。

ですから、親は、子どもにばかり「やり抜きなさい」と言うのではなく、普段の生活を省みて、自分自身も変容していく必要があると思います。子どもは、親が思っている以上に、親の中に規範を見つけて、無意識に真似するからです。

そこで、いま、子どもに直接トレーニングしなくても、親だけにトレーニングすることによって、子どもの行動に影響が出るかどうかを調べる実験(*)を準備しています。

アメリカでは、発達障害の子どもの親がどのようなマインドセットを持つべきかを学ぶ「ペアレント・トレーニング」がよく行われているのですが、このトレーニングを健常児の親向けに一部変更して実験しようとしているところです。

[*細田准教授のプロフィール部分(本記事の下部)をご覧ください]

 

―この実験で子どもへの影響が明らかになれば、子どもの行動を変えるには親がまず変わることが効果的だとわかりますね。やり抜く力を育てるために、ほかに何か大切なことはありますか?

実験であれば、いろいろな側面を測って、この人はこういうタイプということがわかったうえで学習させることができますが、通常はできません。ですから、親が子どものことをよく見て、どのようなタイプか気づいてあげることが大切だと思います。

周りが良いと言っているものをそのまま自分の子どもに当てはめることは、決して良いことではありません。

特に発達段階にある幼児期は、何はともあれ愛着形成が大切だと言われていますので、そこをメインに考えることも重要です。

 

―幼児期を過ぎた子どもについては、いかがでしょうか?

親が承認してあげることですね。

子どもは、小学生や中学生になると、成績などで外的な評価がされるようになっていき、そこで自己効力感(※10)が完全になくなってしまうといろいろなことがうまくできなくなってしまいます。

ですから、親が認めてあげることで、そうならないようにケアしてあげる必要があります。ペアレント・トレーニングでも、ネガティブな現象にもポジティブな面を見つけて、良いところと悪いところの両方を子どもに見せてあげる、という指導があります。

子どもは、マインドを自分でコントロールできませんよね。悪い評価がついたときには必ず良い面も付随しているはずなので、そこに気づかせてあげて、「こういうふうに考えればいいんだよ」というマインドを教えてあげるのは、やはり家庭でしかできないことです。

先ほどお話しした通り、20歳を過ぎてもやり抜く力を伸ばすことはできますが、思春期の手前ごろまでに、しっかりと愛着形成をして、親から言われなくても自己効力感を保てるように習慣化してあげれば、その後のやり抜く力の土台になると思います。

 

おわりに:英語習得のカギは、一人ひとりの「やり抜く力」に合った学習方法にすること

今回の取材では、脳がいかに経験に応じて変化するか、ということがわかりました。

まず、右の前頭前野は、英語力の高さと関係しています。英語力が高い人ほど、日本語と英語を切り替えるときにたくさん活動し、また、その体積も大きいのです。

そこで疑問になる点は、右の前頭前野の大きさは、生まれた時点で決まってしまい、その後変わることはないのか、ということです。もしそうであれば、英語力が高い人は語学が得意な脳を生まれつき持っていて、生まれた時点で持っていない人は英語習得が難しい、ということになります。

細田先生の研究結果によれば、そのような考え方は否定できます。英語力が低かった人たちは、英語を学習したことによって、英語力が高くなっただけではなく、英語力が高い人の脳構造に近づいていた(右の前頭前野が大きくなっていた)のです。

ここで、そもそも英語力を高めるために必要な努力を続けられない人もいるという英語学習者の問題点が浮かび上がりますが、学習を継続できなかった人は、目標を細かく分けて小さな達成感をたくさん与えていくスモールステップ式の学習方法によって継続できるようになり、「やり抜く力」が高い人の脳構造に近づく(前頭極が大きくなる)ことも発見されました。

細田先生のお話から、親が子どもの英語学習について心がけるべきポイントが二つあると考えられます。

一つは、子どものやり抜く力に合わせて学習方法を工夫することです。やり抜く力があまりない子どもには、目標を細かく分けて「これをやれば、これくらいできるようになる」というふうに自分の努力とその結果をわかりやすく見せること、小さな達成感をたくさん与えることで、やり抜く力を育てることができ、引いては英語力の向上につながる可能性が高まります。

もう一つは、特に幼児期は、「やり抜く力を育てなければ」と焦って子どもに何かを強制しないことです。やり抜く力に関わる脳部位は、思春期の手前までにかけてゆっくりと発達していきます。また、細田先生の研究結果が平均年齢20歳代の成人を対象とした実験から得られているため、大人になってからであっても、経験によって脳もやり抜く力も変化することは明らかです。さらには、子どものやり抜く力は親のやり抜く力と相関しています。

子どもに「最後までやりなさい」と言い聞かせようとするよりも、まずは親が何かをやり抜く姿を見せ、さまざまな体験や声かけを通じて「自分は目標のために努力できる」という自信を少しずつつけさせてあげるほうが、英語学習を続けられる子どもに育てることにつながるのではないでしょうか。

 

※7:一般的に、認知能力(学力やIQなど)以外の能力を指す。自己認識、他者の感情や思考の理解、人間関係など、さまざまな行動・態度・心理的特質を含め、「社会情緒的コンピテンス」とも呼ばれる(国立教育政策研究所, 2017)。

 

※8:Hosoda, C., Tsujimoto, S., Tatekawa, M., Honda, M., Osu, R., & Hanakawa, T. (2020). Plastic frontal pole cortex structure related to individual persistence for goal achievement. Communications Biology, 3, 194.

https://doi.org/10.1038/s42003-020-0930-4

 

※9:Imafuku, M., Saito, A., Hosokawa, K., Okanoya, K., & Hosoda, C. (2021). Importance of maternal persistence in young children’s persistence. Frontiers in Psychology, 12.

https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.726583

 

※10:目標に向かって行動する力が自らにあると認識できること(国立教育政策研究所, 2017)。例えば、「自分は、英語を話せるようになるために、1年間、毎日5時間勉強できる」という期待や確信。

 

【取材協力】

細田千尋氏(東北大学大学院情報科学研究科 准教授)

東北大学細田准教授のお写真

<プロフィール>

医学博士。東北大学大学院情報科学研究科 准教授/東京大学大学院総合文化研究科 生命環境科学系・認知行動科学科 特任研究員/JST創発的研究支援事業研究代表。研究分野は、1)認知能力(英語力・プログラミング能力・論理的思考・メタ認知など)の個人差を産む神経基盤解明と脳可塑性を誘導する効果的な学習法解明、2)非認知能力(やり抜く力Grit・意志力・メタ認知)の個人差の定量的予測指標の解明、3)IoT技術と心理効果、行動経済学の理論を利用することで、脳可塑性を促進し、個人の能力を拡張・最大化できる教育・支援法を開発し生涯学習をサポート。

 

<実験にご協力いただける方を募集中>

細田先生の研究では現在、子どもに直接トレーニングしなくても、親だけにトレーニングすることによって、子どもの行動に影響が出るかどうかを調べる実験にご協力いただける方を募集しています。親子で実験にご協力いただける方がいらっしゃいましたら<以下のURL>からお申し込みください。

https://gritbrain.wixsite.com/experiment2022-04

 

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参考文献

国立教育政策研究所(2017).「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法について研究に関する報告書」. https://www.nier.go.jp/05_kenkyu_seika/pdf_seika/h28a/syocyu-2-1_a.pdf

 

 

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