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2019.10.29

英語の上達には即興力を鍛えることが重要?- 全国学力・学習状況調査でわかった課題

英語の上達には即興力を鍛えることが重要?- 全国学力・学習状況調査でわかった課題

2019年4月に文部科学省が実施した全国学力・学習状況調査。

中学3年生は初めて英語4技能が調査対象に加わり、特に注目が集まった「話すこと」に関する調査結果によると、「即興力」が課題であることがわかりました。

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【目次】

 

英語を「話すこと」に関する全国学力調査

全国学力・学習状況調査とは、全国の小学6年生と中学3年生を対象に文部科学省が2007年から毎年実施している調査。

対象教科は、国語と算数/数学の2教科に、2012年度から理科が加わり、さらに2019年度から中学生のみ英語が追加になりました(*)(文部科学省, 2009)。

英語の追加は、文部科学省による英語教育改革の計画の一つとして2015年度に決定して以来、専門家によって実施方法が検討されてきましたが、特にメディアからも注目が集まった点が「話すこと」に関する調査です。

英語を「話すこと」に関する全国規模の調査は、2005年に初めて実施されていますが、無作為に選ばれた中学校の3年生わずか1,000人程度を対象にした調査でした(国立教育政策研究所, 2007)。

一方、今回の調査は、全国の国・公・私立中学校第3学年に在籍するすべての生徒(PC環境や聴覚障がいなどの事情で実施を見送った学校や生徒を除く)が対象であり、実施生徒数は917,978人(国立教育政策研究所, 2019)。

どちらの調査も、生徒一人ひとりに対してコンピューターとヘッドセットを使ってイラストや音声で出題し、生徒の発話を録音するという同様の調査方法ですが、最新の音声認識技術を用いて大規模に日本人の英語スピーキング力を調べることは国内初の試みなのです。

(*)理科・英語は3年に1度程度実施。

 

表:英語を「話すこと」に関する全国規模の調査

出典:国立教育政策研究所(2007); 国立教育政策研究所(2019)

※IBS表作成

 

また、今回の学力調査は、全教科において、知識を「活用」する力を調べている点も大きな特徴です。

2005年度に実施された英語を「話すこと」に関する調査では、例えば、「この果物はなんでしょう?」と日本語で聞かれて英語で答える、“We are students.” と聞いたあとに繰り返して言う、というように、あまり日常会話では経験しないような状況で語彙や発音、文法の知識がやや直接的に問われています(国立教育政策研究所, 2007)。

一方、今回の調査では、例えば、2人の人物の会話に加わって会話が続くような応答・質問をする、海外のテレビ局からインタビューされて将来の夢について話すなど、実際に英語を使いそうな状況を想像しながら英語の知識を総動員して適切に活用する力が問われています(国立教育政策研究所, 2019)。

 

「即興でのやり取り」が苦手

国立教育政策研究所(2019)による調査結果によると、最も多くの生徒が英語で話すことができたものは、将来の夢とその実現のためにやっていることを聞かれて答えること(以下グラフ・表の問題5)でした。

45.8%の生徒が正しい内容と相手に伝わる英語で話すことができ、将来の夢だけであれば、約6割の生徒が伝えられていました。

さらに、何も答えなかった生徒はわずか4.6%であり、今回の「話すこと」の問題では最も少なかったことから、同様のテーマ(自分の夢について話す)を扱っていた小学校外国語活動の効果や「なんとか伝えようとする」意欲が見られ、小学生のうちから英語に触れる経験が役立った可能性が示されました。

一方、最も多くの生徒が英語で話すことができなかったものは、会話の内容や流れを理解して、会話を継続させるための応答・質問をすること(以下グラフ・表の問題4)でした。

正しい内容と伝わる英語で話すことができた生徒はわずか1割程度であり、まったく解答できなかった生徒もほかの出題と比べると多数です。

 

そして、今回の調査結果では、情報や考えなどを即興でやり取りすることが難しいという課題が特に強調されました(国立教育政策研究所, 2019)。

 

グラフ:中学3年生 英語「話すこと」調査結果(2019年)

 

表:中学3年生 英語「話すこと」出題内容

出典:国立教育政策研究所(2019)

※IBSグラフ・表作成

 

小・中学校の新学習指導要領でも「即興」が目標

実は、即興でのやり取りが課題であることは、今回の調査結果で初めてわかったことではなく、すでに小学校や中学校の新学習指導要領で明確に目標として設定されています。

英語4技能のうち「話すこと」という技能は、「やり取り」と「発表」という二つの領域に分けられています。

小学3・4年生の外国語活動の「話すこと(やり取り)」の指導においては、「機械的なやり取り」ではなく「意味のあるやり取り」になるように、挨拶や感謝、簡単な指示・依頼をしたり、誰に、どうして、何を伝えたいのかを意識しながら質問したり答えたりすることが重要であると考えられています(文部科学省, 2017)。

 

例えば、日本人の大人は、“How are you?”と聞かれた場合、多くの人が “I’m fine, thank you.” と返します。

これは、英語の授業で繰り返し口に出してきたことの成果ではありますが、“How are you?” が実際にどのような場面でどのような意味で聞かれるのかを知らない人や、本来伝えたい情報や気持ちとは関係なく“I’m fine, thank you.” と機械的に返事をする人が多いはずです。そして、授業中に生徒全員で一斉に口に出すだけのこのやり取りを「大切だ」、「楽しい」と感じていた人は少ないでしょう。

そのため、いざ実践の場になると、“fine” ではない場合はどう伝えてよいのかわからず不自然な間ができてしまう場合や、機械的にしか答えられないことで会話を続けられない場合があるのです。

小学5・6年生の外国語科の「話すこと(やり取り)」の指導においては、例えば、“Do you like〜?” などと質問したいことを自分で考えて質問したり、質問に対して自分で考えて答えたりするなど、「その場で」自分の考えや気持ちを伝え合う力を育てることが重視されています。

この「その場で」は、以下のように定義されており、即興で話すことに繋がると考えられています(文部科学省, 2017)。

“「その場で」というのは、相手とのやり取りの際、それまでの学習や経験で蓄積した英語での話す力・聞く力を駆使して、自分の力で質問したり、答えたりすることができるようになることを指している。”

出典:文部科学省(2017)

さらに、中学校の英語指導においては、相手に関する質問をする、自分に関する質問に答える、といった単純なやり取りから一歩進み、「即興で事実や意見、感情等を伝え合いながら、会話を継続・発展させる活動」をすることが求められています。

ここでも「即興」という側面が重視されており、事前に準備や暗記をせずにその場で理解して考えて伝えること、相手への聞き返しや確認、相づち、共感や同意をしながら会話を続けることが目標です(文部科学省, 2017b)。

 

このように、2017年に告示された小学校や中学校の新学習指導要領で「即興でやり取り」する力を育てることがすでに重視されており、今回の学力・学習状況調査内容もそれを踏まえたものでした(国立教育政策研究所, 2019)。

そして、大規模な調査結果により、即興力が「話すこと」における最も大きな課題であることが実証されたため、今後はますます注目が高まると推測されます。

 

「即興力」が育つには

近年は、各地の小学校や中学校の外国語活動や英語の授業で、即興でやり取りする力を育てる取り組みが試行されています。

例えば、ある小学校では、「即興性を試す場面を設定することは、動機づけの意味からも有効であるのではないか」という見解のもと、5・6年生を対象に、自分が選んだ絵本の場面を英語で伝えてみる、という活動が行われています。

このときに経験する「言いたくても表現できないもどかしさ」が、「次は言えるようになりたい」という学習意欲や「こう言えばいいのだ」という学習での気づきに繋がっていることが報告されています(市原, 2017)。

 

また、ある中学校では、1年生の英語の授業から、毎回、生徒同士がペアになって与えられたテーマについて2分間会話し続ける、ペアの片方が写真の内容を英語で説明してもう1人が写真内容を推測して当てる、というような流暢さや即興力を日常的に育てる活動を試験的に行っています。

同学校では生徒1〜3年生(計419名)の意識調査も行われ、2〜3年生は、即興力に自信がある(英語で話されたことに対して英語ですぐに反応できる)生徒ほど英語の成績(中間試験または期末試験の成績)が良いことがわかりました。

特に、最も即興で英語を話す活動を多く行っていた2年生は、試験の「表現」に関する成績が良く、日々の活動の積み重ねによって英語で表現することに慣れていた可能性が示されました(上原 et al., 2018)。

2005年度の英語を「話すこと」に関する調査では、「話すこと」は「構文や単語などを処理する速度との関係が強いと考えられることから、文法や語彙などの定着を図ることが必要である」と結論付けらました(国立教育政策研究所, 2007)。

そのため、「即興力」と英語の成績に相関性があるということは、語彙や文法などの知識が定着しているから即興力に自信がもてるということなのかもしれません。

しかしながら、逆に、即興力が試される経験をしたことにより、学習意欲や知識の定着に繋がったと考えることもできます。

 

日本の英語教育では「4技能」が重視され始めたことにより、従来のコミュニケーション重視の授業に疑問が生じていますが、「知識」か「実用」、「読み・書き」か「聞く・話す」、といった二者択一の問題ではなく、すべての知識・技能、活用力が密接に関わっているのです。

 

即興でのやり取りを経験することによって学びたくなる、学んで知識が身につく、知識が身につくことで即興力が高まる。このように、知識・技能と活用力それぞれが相乗効果を得られるように学ぶこと、そして、早い段階からそのような経験と学習を積み重ねることが重要なのではないでしょうか。

 

参考文献

市原佐知(2017).「教科としての小学校英語の指導に関する実践報告:評価に焦点をあてて」.『鳴門教育大学小学校英語教育センター紀要』, 7: 41-50.

http://doi.org/10.24727/00025834

 

上原景子, 山田敏幸, Hoogenboom, R.M. 遠藤直哉, 岩﨑秀平, 宮崎洋人, 林尚子(2018).「英語教育における流暢さと即興力の育成:中学生の話すことにおける意識の一考察」.『群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編』, 67: 177-196.

http://hdl.handle.net/10087/11774

 

国立教育政策研究所(2007).「特定の課題に関する調査(英語:「話すこと」)調査結果(中学校)」. Retrieved October 21, 2019 from

https://www.nier.go.jp/kaihatsu/tokutei_eigo/index.htm

 

国立教育政策研究所(2019).「平成31年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査 報告書 【中学校/英語】」. Retrieved October 21, 2019 from

http://www.nier.go.jp/19chousakekkahoukoku/report/19middle/19meng/

 

文部科学省(2009).「全国学力・学習状況調査の概要」. Retrieved October 21, 2019 from

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/zenkoku/1344101.htm

 

文部科学省(2017a).「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編」. Retrieved October 22, 2019 from

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_011.pdf

 

文部科学省(2017b).「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語編」. Retrieved October 22, 2019 from

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387018_010.pdf

 

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