日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2019.04.25

幼保英検とは? – グローバル化に向けた幼保改革

幼保英検とは? – グローバル化に向けた幼保改革

2019年から「幼児教育・保育英語検定(幼保英検)」が始まりました。英語にふれる活動を行う幼稚園や保育所が増え、子どもたちが育つ家庭環境が多様化する中、英語力のある幼稚園教諭や保育士の需要が高まっています。

 

【目次】

 

2019年「幼保英検」スタート

2010年から始まった「保育英検」が2019年から「幼児教育・保育英語検定(幼保英検)」へ変更になり、4月1日からは初回開催となる春季検定の申し込み受け付けが開始されました。

運営元である幼児教育・保育英語検定協会(2019)によると、検定の目的は、大学などにおける幼稚園教諭・保育士の養成課程の学生たちに乳幼児・保護者との会話や園内での教育・保育に必要とされる実用的な英語力を習得させることにより、「国際的なグローバル化に対応できる幼稚園教諭・保育士」を養成すること。

今回の検定の名称・内容変更は、幼稚園教育要領の内容が保育所保育指針に適用されることになったこと、そして、外国人労働者向けの新たな在留資格ができることにより日本在住の外国人が増加する可能性が高いことを受けたものです。
幼保英検の試験内容は、以下の通り、幼稚園・保育所で想定される具体的な状況や場面での語彙やリスニング力、リーディング力などを測るものです。

大学中級程度とされている準1級以上は、英作文やスピーキングの試験もあり、各級の合格者には「幼保英語士資格証」(要申請・有料)が付与されます。

表 幼保英検の試験内容一覧出典:幼児教育・保育英語検定協会(2019)
表作成:IBS

英検を運営する日本英語検定協会(公益財団法人)は、1965年設立と歴史が長く、「日常の社会生活に必要な実用英語の習得及び普及向上に資するため、英語の能力を判定し、また様々な機会を通じてその能力を養成することにより、生涯学習の振興に寄与すること」を理念・目的としています(日本英語検定協会, 2019)。

それに対し、幼保英検を運営する幼児教育・保育英語検定協会(一般社団法人)は比較的新しく、国内外の乳幼児教育分野の発展に寄与する活動に取り組むことを目的としていることから、日本人の英語力向上というよりも、より国際的な視点によって日本の乳幼児教育現場の向上を目指している団体です。

これまで、子どもの英語教育に関連する資格としてはJ-SHINE(運営:特定非営利活動法人 小学校英語指導者認定協議会)がありましたが、小学校での英語教育を促進するための指導者養成を目的としています。

そのため、幼保英検は、小学校入学前の乳幼児への教育・保育に関わる国内初の英語資格となり、現在は認知度が低いものの、今後注目が集まることが予想されます。では、なぜこのような検定が新たにスタートしたのでしょうか。

 

英語活動を行う幼稚園・保育所が増加

以下のグラフが示す通り、英語にふれる活動を行う幼稚園や保育所は増加傾向にあります。特に私立の場合は、英語活動をしている園・施設の割合が公立よりも高く、英語活動を開始している年齢も低い傾向にあります。

例えば、3歳から英語活動を取り入れている幼稚園や保育所は、公立が約3割であるのに対し、私立は約4〜5割です。

尚、通常0歳から対象となる保育所の場合、公立・私立を問わず、2歳以前から英語活動を開始している施設も約1割あります(ベネッセ総合教育研究所, 2014)。

グラフ 英語活動を行う幼稚園・保育所の割合の経年変化出典:ベネッセ総合教育研究所(2014)
グラフ作成:IBS

このような背景の一つには、グローバル化を意識した学校教育の改革が本格化したことがあります。

2006年に教育基本法が約60年ぶりに改正され、国際社会を生きる日本人の育成、学校教育と家庭教育の連携、幼児期教育の重要性などが新たに法律として明文化されました(文部科学省, 2006;文部科学省, 2007)。

2008年には、厚生労働省により保育所保育指針も改訂され、学校教育法で定められている幼稚園での教育目標が保育所にも適用されることになり、幼稚園と保育所の連携が推し進められています。

さらに、近年は学習指導要領が次々と改訂され、その中でも、小学校の新学習指導要領は、英語教育の早期化を含む内容であったことから、大きな話題になりました。

幼稚園の新しい教育要領も2017年3月に公示、2018年4月に施行されており、以下のような指針が含まれています。

「文化や伝統に親しむ際には、正月や節句など我が国の伝統的な行事、国家、唱歌、わらべうたや我が国の伝統的な遊びに親しんだり、異なる文化に触れる活動に親しんだりすることを通じて、社会とのつながりの意識や国際理解の意識の芽生えなどが養われるようにすること」
出典:文部科学省(2018)

幼稚園教育要領や保育所保育指針では、小学校入学前に育ってほしい具体的な姿を明確化し、さらに教育内容を充実させることが目標として掲げられています。

英語教育に関する具体的な指針は示されていませんが、「異なる文化に触れる活動」、「国際理解の意識の芽生え」といった文言が含まれており、そのような指針に沿う活動内容として英語にふれる活動が選ばれやすいことは容易に想像できます。

また、ベネッセ教育総合研究所(2016)が調査した「幼児の生活アンケート」(対象:首都圏在住の1歳6カ月〜6歳就学前の乳幼児をもつ保護者)によると、2000年から2015年の間に最も大幅に増加している習いごとは「英会話などの語学教室」であり、英語にふれる機会が用意されている幼稚園や保育所は多くの保護者にとって大きな魅力であると推測できます。

教育・保育時間終了後に有料で英語活動(*1)を行っている幼稚園・保育所(認定こども園を含む)も多く、公立の場合は1%以下ですが、私立(主に幼稚園)の場合は約3〜4割であり、幼稚園・保育所で行われている課外活動としては、英語はスポーツクラブ・体操教室に次いで多い活動内容です(ベネッセ総合教育研究所, 2014)。

このような背景から、幼稚園や保育所が英語などの外国語にふれる活動を積極的に取り入れるようになり、英語力のある幼稚園教諭や保育士の価値が高まったのです。
(*1) 英語活動の形態は「外部講師を招いて園が主催」、「場所のみ提供」、「園外の習い事教室などへ送迎」のいずれか。

 

異なる言語を話す子どもたちのために

さらに、グローバル化や政府の移民政策の影響などにより、日本に住む外国人や海外に住む日本人が増え、日本語を母語としない子どもなど、多様な文化・言語的背景をもつ子どもたちが幼稚園・保育所に混在するようになりました。

2018年4月から施行されている新しい幼稚園教育要領には、以下のような総則が明記されています。

「海外から帰国した幼児や生活に必要な日本語の習得に困難のある幼児については、安心して自己を発揮できるよう配慮するなど個々の幼児の実態に応じ、指導内容や指導方法の工夫を組織的かつ計画的に行うものとする」
出典:文部科学省(2018)

文部科学省(2018)は、「国際化の進展に伴い、幼稚園においては海外から帰国した幼児や外国人幼児に加え、両親が国際結婚であるなどのいわゆる外国につながる幼児が在園することもある」と述べています。

子どもが安心して自己を発揮できるような信頼関係を築くための対応例として、教師がその子どもの母語(教師にとっては外国語)を使って挨拶や簡単な言葉掛けをすることを提案しています。

つまり、幼稚園教諭において、日本語を母語とする日本人の子どもたちに海外の文化や外国語を体験させるためだけではなく、日本語を母語としない子どもたちとの信頼関係づくりのためにも、外国語を話す力は歓迎されているのです。

なお、園や施設内での主要言語を英語としているプリスクールが日本でも増加していますが、そのような園・施設では、英語を話す子どもたちよりも英語を話さない子どもたちのほうが、教師からの語りかけに反応する、遊び相手に教師を選ぶ、など、「遊び」において教師と接触する傾向にある、という研究結果が2018年に海外で発表されました。

ほかの子どもたちと同レベルで英語を理解し話せない子どもたちにとっては、大人のほうが自分の言葉に耳を傾けてくれ、大人が話す言葉のほうが理解しやすく、ほかの子どもたちと遊ぶという社会的交流の場面において、大人が精神的な支えになるのです。

また、教師側も、英語を話さない子どもたちに対し、通訳や遊びの提案、遊びへの誘いなど、さまざまな方法で英語を話す子どもたちとの交流を手助けしようします。

このような教師の行動は、手助けをしすぎると逆に妨げる場合があるものの、子どもたち同士の交流を概ね成功させていることがわかりました(Dominquez et al, 2018)。

このように、主要言語を話す子どもと話さない子どもが入り混じる幼稚園や保育所、プリスクールなどでは、教師や保育士は、主要言語とそうでない言語(例えば、日本語と英語)を子どもや状況に応じて使い分けることで異なる言語を話す子どもたちの交流を手助けする、という重要な役割を担います。

今後、日本語が主要言語である幼稚園や保育所に入る外国籍の子どもや海外から帰国した子ども、英語が主要言語であるプリスクールへ入る日本人の子どもの増加に伴い、日本語と英語の両方を使い分けられる幼稚園教諭・保育士はますます重宝されるようになるでしょう。

 

幼稚園教諭や保育士を目指す学生は英語が苦手

このように、英語ができる幼稚園教諭や保育士への需要は年々高まっていますが、幼稚園教諭や保育士を目指す学生たちの多くは英語が苦手だと感じているようです。

例えば、奈良学園大学奈良文化女子短期大学部での研究によると、奈良県では、ほぼすべての私立幼稚園・保育園が外国語活動を実施しており、外部の講師に授業を委託している場合はあるものの、活動内容の打ち合わせや理解にはある程度の英語力が必要なこと、外国籍の子どもが入園するケースが増えていることなどから、英語力のある幼稚園教諭や保育士の需要が高まっています。

一方で、「短期大学幼児教育学科の学生は、専門科目の学習で日々多忙を極めており、苦手意識の高い英語が重荷になっている」と報告されています(昆布, 2015)。

また、育英短期大学保育学科の学生へのアンケート調査によると、英語を学ばなければならない、という意識はあるものの、それは、資格取得のために英語が必修であることが主な理由であることから、学生たちが将来働く幼稚園や保育園で英語を使うことまでは想定していない様子が伺えます。

研究者も、保育士を目指す学生たちの英語学習に対する意識調査結果の印象として、「自分が保育士や幼稚園教諭になったときに、現場で幼児のために何をすべきかまでは考えが及んでいないように感じられた」と述べています。

このような現状から、同大学の保育学科では「ESP(English for Specific Purposes/専門英語教育)」という英語教育の手法が取り入れられるようになりました(加茂ら, 2013)。

一般教養としての英語ではなく、「保育」という特定の目的を達成するための英語を習得させようとする試みです。

実際に使用する場面を具体的に想定した授業内容やカリキュラムであるため、学ぶ目的が明確になることで学ぶ意欲に繋がり、専門的で実用的な英語力を効率的・効果的に習得させることができると考えられています。

このような学生たちの現状から、各大学・短期大学・専門学校などの幼稚園教諭・保育士養成課程では、英語教育の見直しや改善が図られており、単位取得の条件や卒業時の英語力の指標として幼保英検を活用しているケースも見受けられます。

さらには、例えば鶴川女子短期大学(東京都・町田市)では、年々増加する外国人の子どもたちを受け入れる教育環境「国際乳幼児教育」が必要であるという認識のもと、2017年に「国際こども教育コース」や「国際こども教育専攻」という専攻科が新設されました(鶴川女子短期大学, 2019)。

このように、語学や異文化理解、他国の乳幼児教育論などの専門的教育を受けた幼稚園教諭・保育士の養成を目指す専門学科などを新たに設ける動きも出てきました。

 

「幼児教育・保育」+「英語」の重要性

ベネッセ総合教育研究所(2014)の調査によると、英語活動を行う私立幼稚園・保育所の約9割は外部講師に英語活動の指導を依頼しています。

英語講師や英語ができるスタッフの派遣サービスを提供する企業も増えてきているため、幼稚園教諭や保育士は英語ができなくても問題ないという見方もあるかもしれません。

しかしながら、日常的に子どもたちと接している教師・保育士だからこそ、また、子どもたちの年齢が低いからこそ、子どもたちにとって最も身近な大人として果たせる役割があります。

文部科学省(2018)は、「教師自身も環境の一部である。教師の動きや態度は幼児の安心感の源であり、幼児の視線は、教師の意図する、しないに関わらず、教師の姿に注がれていることが少なくない」という見解を示しており、新しい幼稚園教育要領によると、教育・保育における子どもたちの活動において、以下のような役割が幼稚園教諭・保育士に求められています。

・ 子どもが行っている活動の理解者。子どもの家庭環境や過去の経験、これまでと現在の活動の様子などを把握する必要がある。
・ 子どもとの共同作業者。先生と一緒にできる楽しさが活動に繋がる。
・ 子どもが憧れるモデル。「先生のようにやってみたい」いう思いから新たな学びや挑戦をする。
・ 子どもの遊びの援助者。いつどのような援助を行うかは子どもや状況に合わせて判断する必要がある。

例えば、英語活動であれば、教師や保育士が指導しない場合であっても、子どもたちの反応や様子を観察したり、一緒に楽しんだり、手本を見せたり、必要な手助けをしたりすることによって、子どもたちが英語活動を最大限に楽しめるようにすることができます。

また、異なる言語を母語とする子どもたちが混在するような園・施設であれば、前述の研究結果で示された通り、教師や保育士の関わりが子どもたちの安心や交流に繋がります。

このような役割は、ただ英語ができれば果たせるというものではなく、幼児教育や保育の知識・経験が必要です。そのため、幼保英検のスタートは「幼児教育・保育」+「英語」の重要性を広く普及させることに貢献するのではないでしょうか。

また、英語ができる幼稚園教諭・保育士は、特に私立の幼稚園・保育所では、英語に関する資格手当などによって給与水準が高く設定されている場合があります

。このような傾向が強まれば、学生たちへの英語教育は、これまで「子どもが好き」、「就職率が良い」などといった理由で幼稚園教諭・保育士を目指したものの給与水準の低さや待遇の悪さによって就職をあきらめたり、すぐに離職したりしてしまうという問題の解決の糸口になるかもしれない、という見解もあります(鈴木, 2015)。

よって、「幼児教育・保育」+「英語」という二つの分野の能力をもつ人材の育成は、子どもたちのためのみならず、子どもたちが育つ環境の一部として重要な存在である幼稚園教諭・保育士のためにも、意義のある教育と言えます。

日本では、家庭環境などによって小さいころから英語にふれて育った子どもたちが幼稚園・保育所で英語を使うと、先生に理解してもらえなかったり、注意をされたりすることで英語を使わなくなる、といった体験談を耳にすることがあります。

しかしながら、英語力や異文化理解力のある幼稚園教諭・保育士が増加すれば、そのような子どもたちがバイリンガルであることに自信と誇りをもって二つの言語を使い続けようという意欲に繋がる可能性があり、バイリンガル教育の分野にとっても幼保英検のスタートは極めて興味深い出来事です。

 

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参考文献

Dominquez, S. & Trawick-Smith, J. (2018). A Qualitative Study of the Play of Dual Language Learners in an English-Speaking Preschool. Early Childhood Education Journal, 46(6):577-586.

Https://doi.org/10.1007/s10643-018-0889-7

 

加茂葉子・藤原愛(2013).「保育士養成課程の学生に対する英語学習に関する追跡調査:ESP(English for Specific Purposes)アプローチの視点から」. 『育英短期大学研究紀要』, 30:81-94.

http://hdl.handle.net/10087/7393

 

昆布孝子(2015).「幼児教育学科における英語学習 -保育英語と英語絵本-」.『紀要(奈良文化女子短大)』, 46:171-186.

http://id.nii.ac.jp/1413/00001724/

 

鈴木克義(2015).「急速なグローバル化と国際保育者養成のニーズ 〜外国人保育士への日本語教育と、英語保育者の養成を急ごう〜」.『常葉大学短期大学部紀要』, 46:97-104.

http://id.nii.ac.jp/1412/00000009/

 

鶴川女子短期大学(2019).「鶴川女子短期大学」.

https://www.tsurukawatandai.ac.jp

 

日本英語検定協会(2019).「協会について」.『英検:公益財団法人 日本英語検定協会』.

https://www.eiken.or.jp/association/

 

ベネッセ総合教育研究所(2014).「第2回 幼児教育・保育についての基本調査報告書」.

https://berd.benesse.jp/jisedai/research/detail1.php?id=4053

 

ベネッセ教育総合研究所(2016).「第5回 幼児の生活アンケート」.

http://berd.benesse.jp/up_images/research/YOJI_all_P01_65.pdf

 

文部科学省(2006).「改正前後の教育基本法の比較」.

http://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/06121913/002.pdf

 

文部科学省(2007).「新しい教育基本法について」.

http://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/houan/siryo/07051111/001.pdf

 

文部科学省(2018).「幼稚園教育要領解説」.

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/04/23/1401777_001.pdf

 

幼児教育・保育英語検定協会(2019).「幼保英検」.

http://youhoeiken.com/index.html

 

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