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2022.04.06

小学校英語教育におけるSmall Talkの活用とその重要性

小学校英語教育におけるSmall Talkの活用とその重要性

近年日本では、幼いうちから子供を英会話教室やインターナショナルプリスクールに通わせる家庭や、英語の歌やDVDなどの教材を使って子供に英語を親しませる家庭が増加する傾向にあります。また、公立小学校では2020年度より英語が高学年で教科化されたことも話題になりました。

また、小学校英語教育では、いかに子供に「自ら英語を発信する能力」をつけさせるかが課題となっています。従来のように、授業中に習った英語が身についているかどうかをテストの点で判断するのではなく、学んだ英語や既に知っている英語を使って実際に話し相手に向かって自ら発信できるかどうかが問われているのです。

そのような「英語の発信力」をつけさせるための英語教授法の一つとしてSmall Talkの活用が注目されています。Small Talkとは、辞書を引くと「世間話」や「雑談」と訳されます。英語の授業中に世間話や雑談をするとは、一体どのような授業なのでしょうか。子供たちが自ら英語で発信する力を養うための、Small Talk活用の可能性を紐解いていきましょう。

まずは、小学校英語教育におけるSmall Talkの定義とその目的をご紹介します。その上で、実際にSmall Talkを使った英語の授業実践例を見ていきましょう。

 

【目次】

 

Small Talkとは何か

Small Talkとは、一般的には「雑談」や「世話話」といったふうに訳されます。親しい人や知り合いなどとばったり会った際に、「最近はどうしているの?」「今日はいい天気ですね。」などという風な問いかけで始まるいわば「立ち話」のような会話のことです。

しかし、英語教育でSmall Talkは少々異なる意味を持っており、白畑他 (2019, pp.274-275)は、「教師が生徒にとって身近な話題 (here and now)について英語で話すこと。授業開始時のウォーミング・アップとして行われることが多い。教師が英語で話し始めることによって、日本語モードから英語モードに切り替えることを促す効果や、英語を聞いて理解する姿勢と能力を育てる効果がある。」と主張しています。

小学校英語教育では、2020年に開始された英語の教科化に備え、2017年から文科省によるSmall Talkの活用が推奨されています。そんな中、文科省により出版された『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック(平成29年7月文部科学省作成・HP掲載。以下『研修ガイドブック』)』によると、Small Talkは以下のように記されています (p.130)。

「Small Talkとは、高学年新教材で設定されている活動である。2時間に1回程度、帯活動で、あるテーマのもと、指導者のまとまった話を聞いたり、ペアで自分の考えや気持ちを伝え合ったりすることである。また、5年生は指導者の話を聞くことを中心に、6年生はペアで伝え合うことを中心に行う。」

 

小学校英語教育におけるSmall Talkの役割と目的

小学校の英語教育において、なぜSmall Talkを行うことが推奨されているのでしょうか。『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック(平成29年7月文部科学省作成・HP掲載。以下『研修ガイドブック』)』には、(1) 既習表現を繰り返し使用できるようにしてその定着を図ること、(2) 対話の続け方を指導すること、の2点がSmall Talkを行う目的として設定されています。

(1)の「既習表現を繰り返し使用できるようにしてその定着を図ること」という目的では、新しい単元やユニットで習う英語表現に親しむことだけに重点を置くのではなく、前の単元で習った英語表現を繰り返し使用できる機会を与えることで、全ての単元を通して英語表現の定着を試みています。

(2)の「対話の続け方を指導すること」という目的では、既に習った英語表現を活用しながら、相手の話した言葉を繰り返したり聞き返したりして会話を続ける基本的な能力を伸ばすことに重点を置いています。

つまり、各単元で学習した英語表現を定着させ、それらを相槌や聞き返しなどと一緒に実際の対話の中で使用することで対話の続け方を学ぶことが、小学校英語教育におけるSmall Talkの役割と言えます。

 

小学校英語教育におけるSmall Talkの実践例

小学校英語教育におけるSmall Talkの定義と目的を踏まえ、ここからは小学校の英語の授業でSmall Talkがどのように活用されているのかを見ていきましょう。ここで紹介するのは、2019年に三重大学部教育学部附属小学校の6年生の外国語活動 (当時まだ外国語活動でした)で行われたSmall Talkの実践例 (川村, 2020)と、山梨県公立小学校の3、4年生の外国語活動中に行われたSmall Tallk (金丸, 2019)です。どちらも、学級担任と専科教員またはALTとのティーム・ティーチング形式で行われました。

 

 三重大学部教育学部附属小学校の6年生の外国語活動

・時間

授業開始の挨拶後や前回の復習時に行う。

 

・扱う英語表現と話すテーマ

文部科学省の移行教材『We Can! 2』(文部科学省, 2018c)を教科書として使用しています。この教科書のUnit 1からUnit 4までを1学期間で学習しました。ここで紹介するのはUnit 1のテーマである「This is ME! (自己紹介)」を学習する際に行なったSmall Talkです。

Unit 1 「This is ME!」を全部で8時間の授業に分けて学習されました。第1回と第8回は授業の進度や内容によりSmall Talkは行われず、第2回から第7回のレッスンの冒頭で、「What 〇〇 do you like?」や「When is your birthday?」などユニットのテーマである自己紹介に関連したSmall Talkが扱われました (図1参照)。

 

・Small Talkの具体的な手順

① 担任と専科教員によるデモンストレーション

まずは担任と専科教員が既習表現を使いながらSmall Talkのデモンストレーションを行います。ここでは、「今日はこの英語表現を使ってSmall Talkをします。」のように使用する表現を明示的に与えるのは避けるようにしています。Small Talkを行う目的は、「既習表現の想起」だからです。また、担任と専科教員が最初に英語表現を与えてしまうと、子供達が既に習った英語表現を思い出す必要がなくなってしまい、自ら会話を始める機会を奪ってしまうためです。

デモンストレーションでは、本時で扱うユニットと関連したテーマであることと、子供達が心から答えたいと思えるようなことを内容に設定しました。例えば、Unit 1 「This is Me! (自己紹介)」のSmall Talkでは「What sport do you like?」や「What subject do you like?」などのテーマでSmall Talkを行いました (図1参照)。

スモールトークのトピックに関するサンプル図

図1.  Unit 1のスモールトークのトピック (川村, 2020)

 

②1回目のやりとり

担任と専科教員のやりとりをみた子供たちは、既にに習った英語表現を頼りにペアで1回目のSmall Talkを行います。ここで、言いたいことがあるのになんと言っていいのかわからないという気持ちを持ってもらうことで、主体的に解決しようという姿勢に繋げます。その課題は、次の中間交流の際にみんなで解決します。

 

③ 中間交流

1回目のやりとりを終えた後、担任と専科教員が必ず「Do you have any questions?」と子供達に質問します。ここで、子供達が言いたかったけれど英語でなんと言えばいいかわからなかったことや困ったことを質問する時間を取り、質問やその答え方の確認や既に習った英語表現を思い出させ、難しい表現の言い換え方法の確認などを全体で行います。

 

④ 2回目のやりとり
中間交流で確認したことを踏まえて、ペアを変えてもう一度同じテーマでSmall Talkを行います。中間交流で特に質問がでなかった場合は、2回目のやりとりでは相手が言ったことに対してリアクションをとってみようなどの目標を立てることもできます。

 

<授業を終えて>

Small Talkの授業を終えて、子供たちは1回目のやりとりによって自分が言いたいことと言えることのギャップに気づくことができたそうです。そのギャップを中間交流の質問と確認によって埋めることで、自信を持って言いたいことを発信し、会話を続ける力を養っていくことができるようです。

 


 山梨県公立小学校の3、4年生の外国語活動

・時間

授業冒頭の帯活動として行い、振り返りシートを書く時間も含めた20分間で行いました。

 

・扱う英語表現

3、4年生ということを考慮して、以下の英語表現に限定して会話活動を行ないました。

質問: “What 〇〇 do you like?”

答え: “I like 〇〇.”

 

・話すテーマ

話すテーマは、毎授業異なるものを用意しました。担任とALTが話し合い、子供達が本当に言いたくなるような答えがたくさん出るようなテーマを選ぶことに注意しました。例えば、「キャラクター」「教科」「食べ物」「動物」などがあります。

 

・Small Talkの具体的な手順

① 担任とALTのデモンストレーション

担任とALTが英語で本時のSmall Talkのデモンストレーションを行います。Small Talkの中で使用する英語表現の型や内容をあからさまに教えるのではなく、デモンストレーションを聞くことで子供達にそれらを予想させます。補助教材として、本時のテーマをイラストにして黒板に貼りながらデモンストレーションを行いました。

 

② 1回目のやりとり

児童同士のペアで1回目のやりとりを行います。なお、やりとりを始める前に補助教材として自分の意見とペアの意見を記入しておけるワークシートを配布し、記入させます。これは、やりとりの成立に対する子供達の認知力を助け、やりとり成立の達成感を味合わせるための補助教材です(図2参照)。

スモールトーク ワークシートのサンプル図

図2. ワークシート (金丸, 2019)

 

③ 中間交流

1回目のやりとりで子供たちが困ったこと、言いたくても言えなかったことの確認をする時間をとります。課題の確認、すでに習っている英語表現の確認、言い換え、翻訳という4つのポイントを抑えながら子供達の支援を行いました。

 

④ 2回目のやりとり

1回目のやりとりとはペアを変えて、もう一度同じテーマでやりとりを行います。2回目のやりとりでは、中間交流で出た課題とその解決方法を踏まえて挑戦したところ、1回目よりもスムーズなやりとりができました。

 

<授業後のアンケート調査からわかったこと>

Small Talkを実施した3、4年生のクラスで授業後にアンケートを実施し、Small Talkを用いた授業の感想を聞きました。その結果、3年生のアンケート結果からは以前よりも英語の授業への意欲が保持できていることや、四年生のアンケート結果からは英語の授業への意欲が向上していることがわかったそうです。

 

文部科学省による実践例紹介

文部科学省公式Youtubeチャンネルには、実際に小学校の英語の授業中にSmall Talkが行われている様子とともに、どのように進めればいいかがわかる動画が複数投稿されています。また、小学校5年生と6年生で使われる教材のUnitごとのテーマに沿ったSmall Talkの会話例も投稿されています。

担任と専科教員、ALTがどんなふうにSmall Talkを導入して実践しているのかがわかりやすくまとめられています。

https://www.youtube.com/user/mextchannel

 

まとめ〜教育現場でのSmall Talk活用の可能性は大きい〜

今回のコラムでは、子供達が自ら英語で発信し、会話を続ける力をつけるための教授法として小学校の英語教育で期待されているSmall Talkについて紹介しました。

Small Talkを行う際は、明示的に会話のテーマや使う英語表現を教えてしまうのではなく、担任や専科教員、ALTが子供達の興味にあったテーマのSmall Talkを選択し、実際にデモンストレーションを行い、どんな会話をするのか予想させることが大切だとわかりました。また、Small Talkではなるべく以前習った英語を活用して会話を行うことから、既に習った英語表現の定着と、自分が知っている言語材料を使って自力で会話を続けようとする姿勢を育むための絶好の機会と言えます。

二つの実践例でも紹介したように、授業で扱われるユニットのテーマや子供たちの興味や年齢にあったさまざまなトピックを選択し、適切な手順を踏んだSmall Talkを行うことで、子供たちの「英語で会話を続けようと試みる姿勢」を育むことができるでしょう。今後も小学校英語教育において、Small Talkを用いた指導法は推奨されていくのではないでしょうか。

 

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引用文献

金丸由梨 「”Small Talk”が児童の外国語活動に対する 様々な意欲に及ぼす影響について」

https://www.edu.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2019/12/dc167e3fc75a389e47b4c8f605450055-2.pdf

 

川村一代. (2020). 外国語 (英語) 科における Small Talk の指導: 小学校での実践と中学校への提言. 皇學館大学紀要, 58, 99-74.

 

教育出版 「こうしてみよう!Small Talk」

https://www.kyoiku-shuppan.co.jp/textbook/shou/gaikokugo/smtlk001.html

 

前田隆子. (2021). 小学校英語教育における Small Talk の役割: 教員研修における意識調査結果の一考察. 明海大学教職課程センター研究紀要, 4, 59-66.

 

文部科学省 「小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック:文部科学省」https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1387503.htm

 

白畑知彦・冨田祐一・村野井仁・若林茂則.(2019).『英語教育用語辞典第 3 版』東京:大修館書店.

 

山口美穂, & 巽徹. (2020). Small Talk の継続的な実施による児童生徒の発話パフォーマンスの変化. 小学校英語教育学会誌, 20(01), 84-99.

 

文部科学省 [文部科学省/mextchannel]. (2022年3月1日). 小学校の外国語教育はこう変わる!② Small Talkの進め方

 

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