日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2021.12.10
2021年12月6日(月)、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(以下、IBS)は、豊橋市立八町小学校(愛知県)にて、イマージョン教育の授業視察および授業研究・意見交換会を行いました。
【目次】
イマージョン教育は、バイリンガル教育の一つの形態です。学校の教科を二つの言語(母語ともう一つの言語)で指導し、両方の言語を読み書きレベルまで育てることを目的とします。
1960年代にカナダで始まり、その後アメリカをはじめ世界各国に広がったイマージョン教育は、日本の小学校でも実践されてきたものの、私立学校に限られていました。
八町小学校は、2020年度より、国語と道徳以外の教科は主に英語を使って学ぶイマージョン学級を開設。イマージョン教育を導入した公立小学校としては国内初であるため、日本の英語教育、バイリンガル教育の発展において極めて注目度の高い事例です。
また、IBSは、幼児期の英語教育、バイリンガル教育についての研究を活動の中心としていますが、言語発達は幼児期で完了するものではありません。特に、小学校以降の教科学習は、日常会話レベルではなく、読み書きレベルまで言語を身につけるうえで大きな影響を及ぼします。
そこで、2021年3月、イマージョン教育を専門とする原田哲男教授(早稲田大学/IBS学術アドバイザー)とともに、八町小学校にて授業視察および教員のみなさんとの意見交換を実施しました。
今回は、イマージョン教育を開始してから約2年が経過しようとしているタイミングで、子どもたちの教科学習や英語力、授業の質がどのように変化したか、どのような課題が出てきているかを調査するべく、二度目の訪問をさせていただきました。
3限目〜6限目にわたり、家庭科や社会、音楽、算数、理科の授業を視察。
前回の視察においても、子どもたちの英語理解力の高さが印象的でしたが、今回は抽象的な概念も理解できているか、という点に注目しました。
例えば、6年生の社会科では、「不平等条約」、「領事裁判権」、「関税自主権」といった難しい概念が扱われていましたが、教員の質問に対する生徒の受け答えなどを見る限り、十分に理解している様子が観察されました。
その背景には、指導の工夫があると考えられます。教員は、実際に起こった出来事、イラスト、ジェスチャー、身近な具体例を示しながら、できる限り簡単な英語を使って解説し、クイズや質問を交えて生徒の理解度を細かく確認しています。
また、ほとんどの授業が日本人教員と外国人教員(※1)のティームティーチングであり、授業の計画・準備も一緒に行われています。この教員2名体制、その連携の素晴らしさも、質の高い授業につながっていることが伺えました。
イマージョンの語源「immerse」は「浸す」という意味であることから、イマージョン教育=「英語漬け」というイメージをもつ方は多いでしょう。しかし、イマージョン教育は、英語力だけではなく、教科学習の力も身につけさせることが目的です。
その意味では、八町小学校のイマージョン教育はうまく機能していると言えます。
八町小学校からは専門家の意見を仰ぎたいという要望も受け、授業視察後には、原田教授が教員のみなさんからの質問を受けながら、授業研究・意見交換を行いました。
八町小学校では、100%英語で指導することよりも、文部科学省による学習指導要領の内容を定着させることを優先するため、「英語で」ではなく「英語を用いて」授業を行うことを方針としています。つまり、生徒たちは、必要に応じて日本語も使って学習します。
この日本語使用については、原田教授が前回の視察時に「Translanguaging(トランスランゲージング)」(※2)という概念を紹介し、肯定的に捉えてよいことを伝えました。
それを受け、八町小学校では、必要に応じて日本語を使って説明する、生徒には日本語での発言を許容する、という方針に自信をもって授業を行えるようになったとのこと。
今回は、「英語で教える用語・概念はどのように決めればよいか?」、「調べ学習では、インプット(情報収集)が日本語、アウトプット(発表)が英語になるが、それでよいのか?」、「英語のアウトプットをもっと促すためにはどうしたらいいか?」など、日本語と英語の使用をテーマに、前回よりも深い議論が交わされました。
イマージョン教育をわずか1、2年しか受けていない、しかも、学習内容が高度になる学年から英語で授業を受け始めた5・6年生であっても、英語で授業内容を理解できている点は、驚くべき成果です。
授業視察だけではなく、意見交換の機会もいただいたことにより、「より良い授業を」と授業研究を重ね、時間と労力を惜しまず綿密な授業準備を日々行っている教員のみなさんの熱意・努力による成果であることが感じられました。
しかし、八町小学校によると、時間的にも体力的にも大きな負担がかかっていることも事実です。人員配置や研修体制、労働環境などを含め、このような優れた教員をいかにサポートするか、という点が、今後長く継続していくうえで重要になるでしょう。
イマージョン教育は、基本的には少なくとも5年間、授業プログラムの50%以上を外国語や第二言語で指導することが特徴です(Center for Applied Linguistics , 2016)。また、教科学習における抽象的な概念や思考を理解・表現できる第二言語能力を習得するには、平均5年〜7年かかると言われています(Cummins, 2008)。
そのため、イマージョン教育の効果は、長期に渡って観察・検証する必要があります。IBSは、英語教育・バイリンガル教育に関する研究活動および社会貢献の一環として、今後も原田教授とともに八町小学校の視察・サポートを継続していく予定です。
(※1)NET(ネイティブ・イングリッシュ・ティーチャー)。豊橋市で長年ALTとしての指導経験を積み、市の教員として採用されている。
(※2)バイリンガルやマルチリンガルは、複数の言語資源を流動的に交差させながら統制し、異なる言語間の境界線(文字や音韻、構造、語彙、社会文化的背景などのあらゆる違い)を超越して言語を理解し使用する、という考え方(Wei, 2018)。このような二言語使用は、近年、効果的にコミュニケーションを図ろうとするバイリンガル特有の能力として肯定的に捉えられている。
■関連記事
Center for Applied Linguistics (2016). Glossary of Terms Related to Dual Language/TWI in the United States. Two-Way Immersion. Retrieved from
https://www.cal.org/twi/glossary.htm
Cummins J. (2008). BICS and CALP: Empirical and Theoretical Status of the Distinction. In: Hornberger N.H. (eds) Encyclopedia of Language and Education. Springer, Boston, MA.
https://doi.org/10.1007/978-0-387-30424-3_36
Wei L. Translanguaging as a Practical Theory of Language. Appl Linguist. 2018 Feb; 39(1): 9-30.
https://doi.org/10.1093/applin/amx039