日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2018.08.22
提供:宮城県国際化協会
〜宮城県国際化協会の災害時多言語対応に関する取材より〜
近年、日本の英語教育では、文法や単語などの知識よりも、「実際に役立つこと」を重視する傾向にあります。しかしながら、実際に役立つために必要な英語力は、状況・場面によって異なります。
人口の1.8%を占める約247万人の外国人が住んでいる日本(法務省, 2017)。日本に住んでいても、いつ、どのような状況で外国語が必要になるかわからない時代になってきました。今回は、その事例の一つとして、2011年の東日本大震災で外国人住民に対する多言語支援を行った宮城県国際化協会を取材し、いざというときに必要なバイリンガル人材の姿について考察します。
【目次】
地震大国と呼ばれる日本では、1995年の阪神・淡路大震災、2007年の新潟県中越大震災、2011年の東日本大震災、とわずか20数年の間にいくつもの大地震が発生しています。
特に、戦後最多の犠牲者・被災者が出た東日本大震災以降は、全国各地で災害対策の見直しが行われました。また、近年は在留外国人が増加傾向にあることから(法務省, 2017)、従来は地方自治体が各自取り組んできた「多文化共生」、「多言語支援」などについて総務省がガイドラインを策定・通知するようになりました。
そのような変化のうちの一つに外国人住民に対する災害時多言語支援があります。
各地域の自治体や国際化・国際交流協会向けに「災害時の多言語支援のための手引き」を提供する自治体国際化協会(2012)によると、日本に住む外国人住民は日本語や日本の生活環境、防災・災害に関する知識や経験の不足から「災害弱者」として位置づけられています。
このような状況から、災害時に外国語での情報提供や相談対応、避難所での状況・ニーズの聞き取り、通訳などの支援を行う人材への需要は全国でますます高まっていくと考えられます。
出典:法務省(2017) ※2007年〜2012年(12月末)、2013〜2017年(6月末)の「在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」と基にIBS作成。
宮城県国際化協会(通称MIA/Miyagi International Association)は、宮城県仙台合同庁舎内の事務所を拠点とする公益財団法人。
宮城県民の国際交流や国際協力の推進を図ることを目的として1955年に財団法人として設立されました。総務省は、行政のみでなく、このような民間の国際交流組織の活動が地域の国際化に不可欠であるという指針のもと、各地の中核的組織を「地域国際化協会」として認定し、さまざまな支援を行っています。
宮城県国際化協会は1990年に認定され、さらに事業の公益性が認められたことにより2012年より公益財団法人となりました(宮城県国際化協会, 2018)。
その前年である2011年に東日本大震災が発生し、震災時はもちろん震災後も宮城県内の外国人住民に対するさまざまな支援活動を行ってきています。
法務省(2017)の統計では、震災直前である2010年12月末時点での外国人住民の人口は、16,101名。宮城県国際化協会提供の資料によると、当時、彼らの国籍の約80%が中国、韓国、フィリピンであり、約30%は日本人との国際結婚により移住してきた女性です。
そのほか、教育機関のある仙台市や水産加工事業所がある沿岸部など、海外からの留学生や技能実習生が多い地域もありました。
沿岸部に暮らす外国人住民は約5,500名でしたが、「水産加工の事業者等における適切な避難誘導が功を奏してか、津波による外国人犠牲者の数は、被害の大きさに比してかなり少なかったと言える」(津波により亡くなった外国人住民:計26名)と報告されています。
震災時の外国人観光客は、観光シーズンではなかったことで比較的少なく、避難所生活をしながらも全員無事に帰国。
また、原発事故の影響により、技能実習生や留学生たちを含む外国人住民4,800名が、各国大使館による国外退避のサポートを受けながら日本を出国します。
このような仙台市内など特定の地域に集住または訪問していた観光客・技能実習生・留学生などに対する支援は、主に市町村の組織である仙台国際交流協会(現仙台観光国際協会)が行いました(J.F.モリス et al., 2014)。
一方、県内に散在する日本人の配偶者である外国人女性たちや外国語講師などは、一時帰国をした人もいたものの県内で暮らし続ける場合が多く、このように地域に根ざして生活してきた外国人住民が宮城県国際化協会の主な支援対象となりました。
宮城県津波被災状況と各地の外国人登録者数
出典:宮城県国際化協会
宮城県国際化協会の支援活動を支えた人々は、協会に登録している通訳サポーターや災害時通訳ボランティアなどの地域住民でした。
日本語と外国語、二つ以上の言語を使うことができるバイリンガルによる社会貢献の一つであると考えられます。しかしながら、全国でこのようなボランティアの需要が高まっているものの、災害という非常事態で現実的に必要とされる人材像や能力については不明瞭です。
そこで、宮城県国際化協会にて通訳サポーターや災害時通訳ボランティア事業を担当する伊藤氏、中国語相談員として活動する小関氏を取材し、震災時の実体験を踏まえた見解を伺いました。
宮城県国際化協会には、平時より「みやぎ外国人支援通訳サポーター」という通訳の登録派遣制度があり、以下三つの分野で20歳以上の宮城県住民へ登録を呼びかけています。
登録条件は、日本語と外国語が日常会話レベル以上話せる満20歳以上の宮城県住民(国籍・性別不問)であり、登録前研修に参加すること。
語学レベルについて明確な条件はありませんが、協会職員が面談等により能力や人柄を確認のうえ登録を受け付け、自主事業として普段から運営している制度であることから、協会側と通訳サポーターの信頼関係が構築されています。
登録者は150人以上おり、英語・中国語・韓国語を中心とした約20言語に対応。これだけの人材がいれば、災害時の外国人住民の支援対応には十分だと考えられますが、宮城県国際化協会は、さらに災害時に備え、「災害時通訳ボランティア」という県からの委託事業も行っています。
「私たちは、保健・医療や生活相談の分野で通訳事業を行っていますが、特に医療関係は人の命に関わるということで手をこまねいているところが多いため、一歩進んだ取り組みをしていると言えます。
災害時の通訳に求められることは、「災害」の通訳ではありません。怪我をしたから医療機関で通訳が必要、役所で補償金を受け取るために行政手続きの通訳が必要、というように、私たちが普段から行っている保健・医療や生活相談の通訳と同じ業務です。
ただ、その原因が災害になるだけなのです。そのため、災害時通訳ボランティアがいなくても、災害時の通訳対応は問題なくできます。
しかしながら、同時多発の災害で、我々も被災者になってしまう場合もあるので、いまのメンバーで対応できるかできないかということを考えると、広く協力者がいたほうが安心ですし、人材の裾野を広げることは必要なので、災害時通訳ボランティアは必要だと考えています。」(伊藤氏)
宮城県国際化協会によると、東日本大震災時、災害時通訳ボランティアは以下のような支援活動を行っています。
混乱が収束しない震災直後の時期や危険を伴う被災地における活動は現実的に困難であり、想定されていた活動内容とは異なったものの、平時より活動する通訳サポーターや協会職員のみでは対応しきれない大量の作業や難易度の低い作業においてボランティアが活用された様子が伺えます。
提供:宮城県国際化協会(米軍が設置した仮設シャワー施設)
提供:宮城県国際化協会(寄贈された英語図書の翻訳)
現在、宮城県国際化協会で中国語の通訳サポーターとして活動する小関氏は、中国出身で日本在住歴27年。震災前、仙台国際交流協会の防災訓練に参加したときに災害時ボランティアに登録しました。
仙台国際交流協会は自己の安全が確認できたら自発的にボランティアに参加するという運営方針であったため、小関氏は東日本大震災の翌朝には支援に参加します。
仙台国際交流協会は市町村の組織であることから、支援対象や支援内容が宮城県国際化協会とは異なるものの、災害時ボランティア登録者が支援に貢献した事例の一つだと考えられます。
「電話対応や避難所の巡回をし、ライフラインの情報を翻訳してポスターを貼り出したりラジオ放送で伝えたりしました。
また、在日中国大使館とやりとりをしながら、留学生たちが帰国するためのバスを20台くらい一人で手配しました。バスで新潟に着いたものの、飛行機には間に合わなかった中国人たちが、空港や体育館などに合計3,000人くらい待機していたということもありました。」(小関氏)
日本では、過去に何度も大きな地震等の災害が発生していますが、東日本大震災は、広い範囲の地域において、建物の倒壊・火災、津波、原子力発電所の事故など、いくつもの災害が同時多発し、極めて多くの被災者が発生したという点で未曾有の大災害でした。
今後は、南海トラフ地震などのさらに大規模な災害が予測され、どの地域の誰が被災者になるかわからないことを考慮すると、一人でも多くの支援協力者を確保しておくためのボランティア登録制度は必要だと考えられます。
東日本大震災の発生直後、まず必要になった対応は、外国語での電話問い合わせ対応でした。
大使館や海外からの安否確認や、国内の交通事情や帰国経路、原発・放射能、一時帰国のための手続き、パスポートや外国人登録証の再発行などについての問い合わせが多く、毎日9時から20時まで英語、中国語、韓国語、タガログ語、ポルトガル語での受け付け体制を整備。
震災の5日後には、外国語相談受け付け用の固定電話や携帯電話が鳴り止まないほどでした。
「震災直後、県外などから20〜30人ほどの外国語サポートの申し出がありました。しかし、電話の台数も限られていますし、 交通手段もない中で彼らのお世話をするほうが大変だということでお断りしました。
また、「インターネットを使って在宅で翻訳できます」という申し出もありましたが、私たちは翻訳作業をあまりやっていませんでした。
宮城県内は35市町村あるのですが、災害時には、県ではなく、市町村の災害対策本部から情報が発信されます。私たちは県の組織なので、それらを翻訳するとなると、各市町村の情報をすべて英語、中国語、韓国語などに翻訳しなければならなくなります。
現実的にそんなことはできませんし、実際に必要かどうかもわかりません。
それなら、電話で何に困っているのかを聞いて、相手が欲しい情報を探して、それを翻訳してあげたほうが早いし効率的だと考えて、先回りをした翻訳や情報発信はあきらめたという事情もあります。」(伊藤氏)
震災直後の時期は、交通手段や十分な対応体制がなく、どのような危険があるか予測できないことにより、外部からのボランティア受け入れは被災地にとって大きな負担になる場合があります。
また、被災地が必要としない支援が負担になることもあり、当時もたびたび報道に取り上げられていましたが、外国人住民のサポートについても同様だったことが伺えます。
宮城県国際化協会に登録済みの災害時通訳ボランティアでさえ、活動し始めたのは3月19日であり、震災から約1週間後です。
「もうすぐ子どもが生まれると言う中国出身の妊婦さんから「怖いからどうしても帰国したい」という問い合わせがありました。
体調がよくないようだったので、何時間もバスで移動して新潟に着いてもいつ飛行機に乗れるかわからず、かえって体調が悪くなってしまうだろうからもう少し考えるよう伝えたのですが、聞いてくれませんでした。
男性ではなく女性から伝えてもらおうと考えて、通訳サポーターの中国人女性に電話を代わったところ、同胞の先輩から言われたからなのか、納得してくれたということがありました。」(伊藤氏)
このように、外国語を話すことができればよいというものではなく、平時より外国人住民の相談に乗っている相談員でさえ、非常時には対応が困難な場面が多くあります。
人の命や外交問題に関わったり、何かしらの判断やアドバイスが求められたりするなど、シビアな状況が多い現場には、普段の立ち居振る舞いや仕事の仕方などから信頼度の高い人材に協力依頼をせざるを得ません。
災害時の外国人支援や多文化共生について自らの被災経験や国際的視点を元に考察・研究するJ.F.モリス氏(宮城学院女子大学教授)も「発災後に行える支援は、基本的には発災前から培ってきた地域内の人的なネットワーク・繋がりが土台となった」と述べていることから(J.F.モリス et al., 2014)、地域住民の中から多言語支援の人材を確保することが極めて重要だと考えられます。
提供:宮城県国際化協会(東日本大震災時のみやぎ外国人相談センター)
「当時、避難所では外国人のお嫁さんが多かったのですが、彼女たちは、自分が外国人であることを地域の中であまりおおっぴらにしたくない傾向にあり、その家族も同様の考えでした。だから、避難所を巡回するときに気をつけたことは、彼女たちが外国人であることをことさら際立たせないようにすることでした。
私たちのような急によそから来た人間と外国語で話し始めたら、周りの人はびっくりしますし、隣にいる夫も置いてきぼりになった気分になったりネガティブなことを言われているのではないかと不安になったりするのです。
できる限り周りの人を刺激しないような場所を選んだりして、彼女たちがいままで築き上げてきたコミュニティの関係を壊さないように配慮しました。」(伊藤氏)
観光客や留学生などの一時滞在者ではなく、地域に溶け込んで暮らす外国人住民を対象とする場合は特に、地域のコミュニティや人間関係を知る人材だからこそ可能な支援が多くあります。
東日本大震災では、宮城県国際化協会は3月20日から約2週間、協会職員や通訳サポーターなどが県内19市町、述べ90カ所を緊急通行車両で巡回しますが、その地域に在住する外国人住民のリーダー的な存在の人々や日本語教室の運営者に案内や仲介をしてもらったことも、被災者のニーズや状況をスムーズに聞き取ることができた要因の一つでした。
一方、震災時には外国人を支援するためのさまざまなNPOや団体が外部から被災地に入ってきたものの、地域の事情や状況にそぐわない支援をした結果、地域の人間関係を壊してしまうという事例もありました。
災害時には、地域だけでは解決できない場面、外部からの支援が必要な場面があることは確かですが、信頼性、即戦力、真のニーズに沿う支援など、さまざまな側面において、地域の人材が支援に参加することが極めて重要であると考えられます。
外国語が得意な人やバイリンガルの人であっても、「通訳」、「多言語支援」などと聞くと、語彙・文法の知識が豊富で、聞き取る力も話す力も完璧でなければいけないと考え、通訳に関するボランティア活動への参加に尻込みしてしまう場合は多いと考えられます。
しかしながら、災害時や緊急時には、そのような高い語学レベルは「あればよいが、なくてもよい」というのが実情です。
「語学のレベルとしては、正確に聞き取る力や話す力は必要だと思いますが、ネイティブ・レベルではなくても、意思疎通に問題がないレベルであればよいと思います。
特に、話せる人が少ない言語に関しては、言葉のレベルは不完全であっても、現場に行って何回か場数を踏めば、いろいろと吸収してもらえるだろうということで、それを了承してもらえるよう先方に伝えたうえで派遣することもあります。
通訳は、完璧なレベルが一番いいのだとは思いますが、いますぐ、というような状況では、完璧ではなくても、いるのといないのとでは大違いです。」(伊藤氏)
宮城県国際化協会の通訳サポーターに求められる能力・素質として、語学レベル以上に重要なことがあります。
その一つは、情報を整理しながら聞き取り伝える力です。通訳は、相手が話したことをそのまま別の言語に変換する、という単純作業ではありません。
また、外国人住民の多言語支援においては、平時・災害時に関わらず、複雑な制度の仕組みや多量の情報を外国人住民に理解してもらう、という目的を達成できることが重要です。
「例えば、役所などではわかりにくい話し方をされる場合もあるので、それをそのまま訳してしまうと、外国人の方はさらにわからなくなります。
優秀な通訳の方だと、なんだかいろいろ言っていてよくわからない、という状況であっても、きっとこういう話だなということを理解して、文章や語順を組み替えて、余計な部分をそぎ落として、うまく要約して通訳してくれます。
でも、このようなことは誰もができるわけではなく、ミッションを達成できない、という場合もあります。まじめな人ほどこのあたりは苦労しますね。」(伊藤氏)
このような実情を考慮すると、外国語を使う能力において、話す力よりも聞く力のほうがはるかに重要だとも考えられます。
人とのコミュニケーションにおいて、相手の話を正確に聞き理解することができて初めて、自分が発する言葉が価値あるものになるのかもしれません。
さらに、言葉が聞き取れて、その意味がわかるだけでは不十分です。耳から聞こえた音声だけではなく、目に見えないものも含めてあらゆる情報を読み取る必要があります。
このような力は、客と店員のやりとりや道案内など、伝えたいメッセージが決まりきっている定型文のような会話を経験しても身につくものではないと考えられます。
また、外国人住民の支援において、特に災害時には、深刻な悩みや大きな不安を抱える人や同じ国・地域の出身者をサポートする中で相手の負の感情にふれる場面も多く、「かわいそう」、「なんとかしてあげたい」と通訳者も感情的になってしまいがちです。
「母語の情報にふれたり聞いたりすること、自分の言葉で話し合うことができるだけで不安が解消され、安心感が生まれます」という自治体国際化協会(2012)の見解通り、外国人住民の不安な気持ちに寄り添うことは重要です。
しかしながら、母語で会話できる相手が少ないことにより、彼らが通訳者や相談員に依存してしまう場合があり、寄り添いすぎてしまうと、相手の自立を妨げたり、過剰な支援・対応になってしまったりする場合があります。
よって、感情をコントロールしながら自分の立ち位置と相手との距離感を保ち、客観的な考え方や冷静な判断ができることも通訳サポーターに求められる能力・素質の一つなのです。
「宮城県国際化協会は、日本人も外国人も関係なく医療・行政サービスは公平・平等に提供されるべきであるという前提のもと、言葉の壁により情報が入手できなかった、手続きがうまく進められない、などにより不利益を被る外国人の方の立場にも立ちますが、公平・平等にしたいけれど言葉の壁によりできないという医療機関・行政機関の立場にも立ちます。
両方のお手伝いなのです。この立ち位置をコントロールし、相手に寄り添いすぎず、「マイナスをゼロまで引き上げる」のが通訳サポーターの仕事です。
ゼロをプラスにしてしまったらやりすぎだと考えています。被災したときに困るのは、日本人も外国人も同じです。ただ、医療も行政も皆同じサービスを受けないと不平等なので、通訳サポーターが言葉のマイナス部分を埋めるのです。
「手続きをするのはあなた。あなたの代わりに手続きはしませんよ」という立場を保ちます。このような立ち位置を理解してもらえるか、冷静な判断ができるかどうかも通訳サポーターにとって大切で、登録前や派遣前に、会話や電話・メールのやりとり、立ち居振る舞いなどで適性を見極めています。
やはり「英検1級」と言われてもその人をすぐに採用するのはギャンブルです。英検で英語の力は証明されているとしても、それ以外の力や人柄はわかりませんから。」(伊藤氏)
提供:宮城県国際化協会(避難所で暮らすフィリピン出身者より聞き取り)
宮城県国際化協会によると、協会ホームページで災害時通訳ボランティアや通訳サポーターへの応募に関する情報を掲載しているものの、住民が自ら申し出ることは稀です。
登録者は、英語は日本人が圧倒的に多く、それ以外の言語は半分以上が外国人。特に通訳サポーターに関しては、登録を待つのではなく、国際交流などのイベントで出会った人や新聞で取り上げられた人、外国人留学生などに協会側から声をかけ、登録依頼をします。
「協会が運営する日本語講座に通う外国人住民に、ほかの外国人の方をサポートする側にまわってもらえるよう育てる、ということを最近は意識しています。
協会のお手伝いをしてもらったり、支援現場に行ってもらうことで社会参画をしてもらったりします。力はあるのにそれを活かす一歩が踏み出せない、チャンスが得られないという人たちがいるので、私たちが背中を押すことで、「こういう仕事がしたかったんです」と感謝されることもあります。
また、宮城県の地域的な問題として、例えば仙台から気仙沼へ行くのに3時間近くかかるので、震災時には現地で対応してくれる方が必要になるだろうと考えています。その地域に住む通訳サポーターがいない場合は、「誰かいないですか?」とその地域にくわしい方に相談して紹介してもらうこともあります。」(伊藤氏)
宮城県国際化協会によると、日本人が外国語で相談対応や通訳を行う場合は、日本社会や日本のルールを理解しているため、正しい情報を早く探したり提示したりできるというメリットがあり、狭いコミュニティティの仲間である同国出身の外国人ではなく日本人が相手のほうがプライベートのことを話しやすいという外国人住民もいます。
しかしながら、相手が同胞の外国人だと安心する人もおり、日本社会や日本語に対して勉強熱心な外国人の相談員や通訳サポーターもいます。
人材を確保するためという側面はあるものの、外国語を話せる日本人のみでなく、日本語を習得した外国人住民を積極的に活用していることから、日本語と外国語を使ってタスクを達成できれば国籍は関係ない、ということも伺えます。
宮城県国際化協会への取材により、災害時の多言語支援において必要となるバイリンガル人材は、「同時多発・広域災害の想定」、「地域住民」、「タスクの達成」が重要なキーワードであると考えられます。
災害時にのみ活動するボランティア人材は、活動範囲・内容が限られる場合があるものの、地域内の人材の裾野を広げ、いざというときに備えるという点で意義があります。また、ボランティア本人にとっても、地域の多文化共生や災害対策について考えるきっかけになります。
そして、平時より多言語支援の活動を行い、地域の国際化・国際交流団体等と信頼関係を築くことのできる地域住民の存在は、より一層重要です。
土地勘があり、地域のコミュニティを知り、地域での人材ネットワークを有することが地域住民のメリットであり、東日本大震災時においても、外部の団体や人材ではなく地域住民だからこそ迅速に動けた場面、被災者が真に必要とする支援を行えた場面が数多くありました。
外国語を学ぼうとする人や複数の言語を使える人の中には、その能力を活かす場は大きな都市や海外、ビジネスの分野などにあると考える人が多いのではないでしょうか。
しかしながら、自分が生活している地域にどのような人々が住んでいて、どのような支援や人材が必要とされているかを知っている人は少ないと考えられます。
前述の通り、宮城県国際化協会においても、通訳サポーター等の登録申し出が届くことは稀であり、協会が自ら声をかけることで人材を確保しています。
多言語支援のみに限りませんが、災害時の対応において最も重要なことは、マニュアルや訓練ではなく、平時からの取り組みや人々の信頼関係なのです。複数の言語を話す能力が必要とされる場は、意外にもごく身近に存在する可能性があります。
地域住民一人ひとりが、住んでいる都道府県や市町村、関連する団体・組織の取り組みや活動に関心をもち、日頃から積極的に参加していく必要があるのではないでしょうか。
さらに、災害時に必要な語学力としては、知識や技能ではなく「タスクを達成できるかどうか」が最も重要です。
多言語支援に関わる人材に与えられているタスクは、国籍に関わらず公平で平等な医療・保健、行政サービス、教育等を受けられるよう、言葉の壁によるマイナスをゼロに引き上げる、ということです。
そして、緊急または深刻な状況に直面する災害時には特に、そのタスクを達成することができれば、学校の成績や試験結果、英検の級やTOEICのスコアは関係ないとも言えます。
宮城県国際化協会の伊藤氏が述べる通り、試験や資格は、知識や技能がどの程度身についているかを証明することはできますが、何ができるかを証明することはできません。
日本では、高等学校の学習指導要領が2018年に改訂されましたが、改訂のポイントの一つに「何ができるようになるかを明確化」という事項があります。
文部科学省(2017)によると、すべての教科における学習指導要領が「①知識及び技能、②思考力、判断力、表現力等、③学びに向かう力、人間性等の3つの柱で再整理」されました。
また、2018年4月の日本経済新聞(2018)によると、京都工芸繊維大学が「文法や発音の正確さよりも「他者を説得する」「問題の解決法を見いだす」といったタスクの達成度などを評価する」英語力テストを独自に開発しました。
同大学の卒業生が海外で働くケースが増えていることから、ネイティブ・スピーカーのようになることではなく、タスクを達成できるようになることが重視されるようになったのです。
近年は、「何ができるか」を到達目標とするESP教育(English for Specific Purposes)やコミュニケーションを必要とする意味のあるタスクを実際にやってみることで必要な能力を身につけようとするTBLT(Task Based Language Teaching)といった新たな外国語教育の考え方や手法(International Association for Task Based Language Teaching, 2018)にも注目が高まっています。
このような学校教育や外国語教育における新しい動きからも、外国語を使う人材においては、外国語の知識・技能のみでなく、外国語を使ってタスクを達成できる力や人間性が重要であることが伺えます。
外国語は、異文化理解や母語・自文化に対する新たな気づきに繋がるなど、学ぶことそのものに意義があります。
しかしながら、何ができるようになったのか、何ができるようになりたいのかという考え方も必要であり、そうでなければ、知識量や表面的な目標・評価に囚われ、ネイティブ・スピーカーと同レベルにならない限り自信がもてず、自分の力を発揮する場を見出すこともできないかもしれません。
いざというときには、知識や技能だけでは不十分である。これが「災害時の多言語支援において必要な人材とは」という問いから得られた発見であり、外国語の習得方法や語学力の活かし方を見直すための一つの視点になるのではないでしょうか。
【取材協力】
宮城県国際化協会 チーフスタッフ 伊藤友啓氏(写真右)
宮城県国際化協会 みやぎ外国人相談センター 相談員 小関一絵氏(写真左)
取材日:2018年6月28日
宮城県国際化協会ホームページ:http://mia-miyagi.jp/index.html
International Association for Task Based Language Teaching (2018).
http://www.tblt.org
J.F.モリス、宮城県国際化協会、仙台国際交流協会(2014).「東日本大震災からの学び 〜大災害時、県・政令市の地域国際化協会の協働と補完を再考する」.
自治体国際化協会(2012).「災害時の多言語支援のための手引き2012」.
http://www.clair.or.jp/j/multiculture/docs/tebiki2012.pdf
日本経済新聞社(2018).「英語話す力、独自に測定、東京外大、英機関と連携し入試に、京都工繊大、説得するちからなど評価」. 2018年4月11日 日本経済新聞朝刊. 日経テレコン.
法務省(2017).「在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」.
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html
宮城県国際化協会(2018). 「公益財団法人宮城県国際化協会について」.
文部科学省(2017).「高等学校学習指導要領の改訂のポイント」.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2018/04/18/1384662_3.pdf