日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2020.07.01

「評価」=「テスト」ではない 〜英語嫌いの小学生を増やさないために〜

「評価」=「テスト」ではない 〜英語嫌いの小学生を増やさないために〜

「評価」=「テスト」ではない
〜英語嫌いの小学生を増やさないために〜

2020年度から全国の小学5・6年生が英語を教科として学んでいます。これは、全国の小学校教員が子どもたちの英語学習を評価して成績をつけ始める、ということでもあります。
多くの人が「評価」と聞くと筆記テストをイメージし、英語嫌いの子どもを増やすのではないかという懸念を抱くことでしょう。しかし、「評価」には多様な方法があり、工夫次第では子どもたちの学習意欲を高められる可能性もあります。

 

【目次】

 

画像素材:PIXTA

「評価」は英語嫌いを生み出す?

2020年5月、世田谷区教育委員会(東京都)は、3月末に文部科学省が外国語活動・外国語科の評価に関する資料を公表したことを受け、外部講師を招いたオンライン研修を実施しました。同教育委員会によると「実際にどのように評価をしたらよいのか?」という点について教員の関心が高く、事前に申し込んだ区内の小学校教員約100が参加。

研修中の質疑応答では、「子どもがC(※1)をもらったらショックを受けるだろうなと思います」という視点での意見が教員側から出たことから、評価によって英語嫌いの子どもを生み出したくない、という不安が伺えました。

小学校英語の教科化については、どちらかと言えば、教育現場から歓迎されてきたわけではありません。2010年には、全国の公立小学校教務主任(計2,383人)のうち、66.6%が小学校英語の教科化に反対していることが報告されています(ベネッセ教育総合研究所, 2010)。

同調査では、その反対理由について明らかにされていませんが、その4年前に公表された同様の調査では、「小学校の英語教育で重要なこと」として一番多かった回答は「英語に対する抵抗感をなくすこと」(3,503人中94.8%)であり、教科化に反対する理由として「教科として学習し、通知表等で評価するとなれば、ストレスを感じる児童が多くなり、英語嫌いを作る可能性があるのではないか」という意見が紹介されています(ベネッセ教育総合研究所, 2006)。

また、小学校教員84人を対象に最近行われた別の調査(作井&山内, 2020)では、教科化への懸念事項として、自身の指導力のほか、「英語嫌いの子どもをはやい時期に出してしまわないか」という不安もあることが報告されました。よって、教員にとっては、教科化→評価→英語嫌い、というイメージがあると推測されます。

では、小学校英語を教科として扱って成績をつけることは、本当に英語嫌いの子どもたちを増やしてしまうのでしょうか?文部科学省(2018)の調査によると、全国の国公立中学3年生およそ6万人のうち、英語の学習が好きな生徒は約半数の54.6%。

残りの「好きではない」と回答した生徒の場合、「英語そのものが嫌い」(34.0%)、次いで「英語のテストで思うような点数がとれない」(15.0%)という理由が多いことがわかりました。すると、小学校でも、成績をつけるために英語のテストで評価しようとすれば、その点数が英語の好き・嫌いに影響する可能性はあります。

小学校教員が「評価はどうなるのか?」と気になる背景には、実務的な不安だけではなく、このような子どもたちのモチベーションに関する不安もあるのではないでしょうか。

※1:観点別学習状況の評価においては、「十分満足できる」状況と判断されればA、「おおむね満足できる」状況と判断されればB、「努力を要する」状況と判断されればCと区別する。

 

多様化する「評価」

「評価」と聞くと、筆記テストを思い浮かべる大人は多いかもしれません。日本では、戦後から1980年代後半まで、筆記テストや行動観察でほかの生徒たちと比較して順位をつけることが「評価」だったと言われています。

しかし、その後は、その子どもの以前と今を比較する「個人内評価」や、あらかじめ設定された目標を達成できたかどうかという「到達度評価」、評価の観点ごとに一人ひとりの達成度を確認する「目標準拠評価」、子どもが自分の学習状況を振り返る「自己評価」など、さまざまな評価方法が提唱されてきました(冨士原, 2014)。

実際に、2020年3月末に公表された「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料:小学校 外国語・外国語活動」(国立教育政策研究所, 2020)でも、これらの考え方が示されています。

まず、子どもたちの学習状況を「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「主体的に学習に取り組む態度」、という3つの観点(評価の視点)ごとに、3段階(例:A、B、C)で分析的に評価することが求められています。そして、これらの観点で示しきれない子どもの感性や思いやり、可能性、進歩の状況などは、個人内評価として積極的に子どもへ伝えることも重視されています。

ここで、注意しなければならないことは、ペーパーテストで「覚えたこと」や「できたこと」だけの評価にならないようにすることです。今回の世田谷区の研修では、教員から「ペーパーテストはあったほうがよいですか?」という質問も出ましたが、講師を務めた佐藤久美子教授(玉川大学)は、「あまり、おすすめしません」と回答。

英語で話せることの楽しさを感じる前に「これは間違っている」というような評価方法を行ってしまうと、英語が好きではない子どもを前倒しでつくってしまうからです。

佐藤教授によると、ペーパーテストを使うだけでなく、学習評価の場面や方法をもっと工夫すること、最終結果だけではなく学習の過程や経過も評価することが重要なポイントです。文章による説明、観察、実験、式やグラフ、レポート作成、発表、グループでの話し合い、作品の制作、ポートフォリオなど、英語に限らず、子どもたちの理解度や応用力、考える力などは多様な方法で評価できるのです。

「主体的に学習に取り組む態度」も、わかりやすい行動面(例:授業中の発言が多い)だけではなく、自分なりに工夫してノートを書いている、グループ学習のときに友だちにアドバイスをしている、「もっとこういうふうにすればよいと思った」と自分のことを振り返っている、クラスメートが使ったフレーズを真似しようとしている、など、自分の意志を感じるようなところも評価の対象となります。

1回目の授業でできなくても、2回目の授業でできるようになれば、この成長も評価できます。つまり、これまで以上に、子どもたちの様子をよく観察する必要はありますが、評価する材料や場面が多様になれば、暗記や筆記テストが苦手な子どもにも自信ややる気を与えることができるかもしれません。

教科化→評価→英語嫌い、というイメージが実際に起こるかどうかは、何をどう評価するか、ということ次第なのです。

 

「評価」=「テスト」とならないように

国立教育政策研究所(2017)の調査によると、小学校外国語教育に関する教育課程特例校・研究開発学校(2015年時点)においても、評価方法は児童の行動観察が圧倒的に多く(96%)、テストの実施はまだ少ないようです。ただし、数字や記号を使って成績をつける学校の教員ほど、評価のためにテストを使っていることが報告されています。

グラフ|小学校外国語活動 評価方法の実態

国公立小学校の教員94人に対するアンケート調査(深澤, 2019)でも、外国語活動よりも外国語科(教科)のほうが、評価方法としてパフォーマンステスト、筆記テスト、小テストをよく活用するようになる可能性が示され、これらの「テスト」を重視しすぎて知識偏重の評価や過度な正確さの要求などにつながらないよう注意することも課題として挙げられました。

また、数字や記号、文章、といった通知表での評価の示し方は、通知表を見た子どもが英語の授業で「もっとがんばろう」と思うかどうかに影響しない一方で、自分の「英語の授業での様子をよく表していると思う」と評価の妥当性を感じている子どものほうが「がんばろう」と思う傾向にあることも明らかになっています(国立教育政策研究所, 2017)。

全国の小学5・6年生とその保護者1,565組に対して2015年に実施された調査(ベネッセ教育総合研究所, 2015)でも、学校で英語の活動・授業がある児童のうち、「他の教科と同じように英語の成績を点数などで知りたい」と回答した子どもは半数を超える57.0%でした。

つまり、評価をすること、成績をつけることそのものは、子どもたちのモチベーションに悪影響を与えるとは限らないということです。そして、もし、悪影響を与えるとすれば、例えば、英語が好きで話せるようになりたい気持ちはあるけれどテストで良い点をとれなくて成績が低い、など、自分の意欲や努力が先生に理解されていない、と子どもが感じたときです。

国立教育政策研究所(2017)の同調査では、“Do you like sports?”などと教員が英語で質問し、子どもが無言であれば次の質問に移る、といったインタビューテストを行ったところ、応答できなかった子どもは「質問に対して、何も言えなかった」という思いが残ってしまったことが報告されました。実際のコミュニケーション力を図ろうとする際にも、一方的または機械的に評価しようとすると、子どもに「できない」「わからない」「苦手」という気持ちを抱かせやすい可能性があることも示されています。

評価は、筆記テストでなければよい、というものでもありません。

評価は、成績をつけることが目的ではなく、子どもの得意・不得意を把握しながら「もっとがんばろう」と思わせて目標を達成させること、そのために授業を改善することが目的であることを忘れない。これが、小学校英語の教科化によって英語嫌いの子どもを増やさないための重要な鍵になるのではないでしょうか。

 

 

【取材協力】

・世田谷区教育委員会(東京都)

・玉川大学

 

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参考文献

国立教育政策研究所(2017).「小学校英語教育に関する調査研究報告書」. Retrieved from

https://www.nier.go.jp/05_kenkyu_seika/pdf_seika/h28a/syocyu-4-1_a.pdf

 

国立教育政策研究所(2020). 「「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料:小学校 外国語・外国語活動」. Retrieved from

https://www.nier.go.jp/kaihatsu/pdf/hyouka/r020326_pri_gaikokg.pdf

 

作井恵子&山内啓子(2020).「外国語教科化に対する小学校教員の意識調査:第2言語習得からの示唆」.『神戸松蔭女子学院大学研究紀要』, 1, 165-177. Retrieved from

http://doi.org/10.14946/00002185

 

深澤真(2019).「外国語活動と教科としての英語における小学校教員の評価に対する意識の変化」.『琉球大学教育学部紀要』, (94): 171-182. Retrieved from

http://hdl.handle.net/20.500.12000/44029

 

冨士原紀絵(2014).「学校教育の立場からみた教育評価」.『日建教誌』, 22(3): 249-253.  Retrieved from

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kenkokyoiku/22/3/22_249/_pdf

 

ベネッセ教育総合研究所(2006).「第1回 小学校英語に関する基本調査(教員調査)[2006年]」. Retrieved from

https://berd.benesse.jp/global/research/detail1.php?id=3184

 

ベネッセ教育総合研究所(2010).「第2回 小学校英語に関する基本調査(教員調査)[2010年]」. Retrieved from

https://berd.benesse.jp/global/research/detail1.php?id=3179

 

ベネッセ教育総合研究所(2015).「小学生の英語学習に関する調査」. Retrieved from

https://berd.benesse.jp/global/research/detail1.php?id=4760

 

文部科学省(2018).「平成29年度英語力調査結果(中学3年生)の概要」. Retrieved from

https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/__icsFiles/afieldfile/2018/04/06/1403470_02_1.pdf

 

 

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