日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2018.07.27

共通語(リンガ・フランカ)としての英語の重要性

共通語(リンガ・フランカ)としての英語の重要性

経済や社会のグローバル化が進む日本。大企業や外資系企業ばかりではなく、多くの人が予想だにしない業界や中小企業で、海外の人々と関わる仕事をしている日本人がいます。今回は、「英語」+「日本文化」でビジネス競争を生き抜く日本企業の一例として、日本伝統の畳を世界中60カ国*へ輸出する森田畳店を取材し、リンガ・フランカ(共通語)としての英語の重要性について考察します。

*輸出先:
2018年4月20日時点の累計。森田畳店のホームページ「輸出記録」を参照

(http://www.tatami-mat.net/ex-record.html)

 

【目次】

 

森田畳店ってどんなお店?

東京都荒川区の西日暮里で、1934年の創業から80年以上、親子3代で畳の販売・工事業を営んできた森田畳店。中でも、畳の海外輸出事業は国内にほとんどなく、テレビ番組やニュース、雑誌などに取り上げられるほど注目されています。

しかしながら、森田畳店を営業するのは、代表である二代目の精一さん(85歳)、三代目の隆志さん(54歳)、通いの職人さんの計3名のみ。外国語をネイティブ・スピーカー並みに使いこなせる人材がいるわけではありません。

海外輸出担当の隆志さん(以降、森田氏)に、海外輸出の経緯や海外のお客様とのやりとり、英語の必要性について伺いました。

 

 

海外輸出のきっかけはホームページ開設

海外輸出のきっかけとなったのは、約20年前である1996年のホームページ開設。1992年に日本初のホームページが開設され、 1993年に日本におけるインターネットの商業利用が開始したことから、 IT化が進み始めていた時代だったと言えます。

 

「インターネットの勉強をしている友だちに「ホームページが欲しいな」という話をよくしていて、その友だちが「勉強がてら、つくってやるよ」とうちのホームページをつくってくれました。

でも、ホームページを開設してインターネットで仕事をとる、ということに対して、周りは「何を考えているの?」と否定的な見方でした。当時は、まだインターネットが普及していなかったし、インターネットで「畳」を検索してみると、ヒットする畳屋は何店舗かだけだったんです。」

 

中小企業庁が毎年発行する『中小企業白書』によると、1999年時点で、日本におけるパソコンの世帯普及率は約30%、インターネットはわずか約11%。日本ではまだホームページを開設することもアクセスすることも珍しかったからか、森田畳店のホームページを見て問い合わせてきたのは海外に住む日本人であり、2000年に初の海外輸出。国を挙げて中小企業の海外進出を支援する事業(調査、情報やアドバイスの提供など)が公式に始まったのは1998年であり、 森田畳店の海外輸出は、畳業界のみならず中小企業の中でも先進的な試みだったと考えられます。

 

「はじめは友だちに教えてもらいながら、自分で情報の修正や掲載をするようになりました。

現在は海外の人をターゲットにし、基本的には全額を支払っていただいてから制作に取り掛かるので、なるべく細かい情報を載せないといけないと思っています。」

 

森田畳店のホームページは、英語版・フランス語版の輸出専門ページもあり、極めて詳細の情報が掲載されていることが特徴的ですが、これらは、約20年間に渡り、日本貿易振興機構(JETRO)や横浜の検疫所、東京税関などで自ら収集した情報や実践で得た学びの集大成。

畳の海外輸出に関しては、日本で最も詳しく知ることができるサイトかもしれません。

キャプチャ画像 英語版の森田畳店のホームページ
森田畳店のホームページ英語版(http://www.tatami-mat.net/goza.html)

 

転機は、海外での畳ブームを実感した2001年

手間ばかりかかる海外との取引は、問い合わせが来たらやるという「待ち」の姿勢だった森田畳店にとって、大きな転機になった時期が2001年。

イギリス全土で日本を紹介するイベント「JAPAN 2001」の展示スペースに使用する畳をイギリスへ輸出します。さらに、同年に開催された東京モーターショーの「いすゞの車に畳を敷く」というプロジェクトにも参加*。

イギリスのバーミンガムにある工場で、車のクレイモデルづくりをするヨーロッパ中から集まった専門家たちのすぐ側で畳をつくる、という貴重な経験をしただけでなく、海外における畳の可能性の大きさを目の当たりにします。

*東京モーターショー いすゞコンセプトカー「ZEN」:
森田畳店のホームページ参照(http://www.tatami-mat.net/isuzu.html)

 

「イギリス滞在中にやりとりをしていた日本人の知人から「フランスに畳屋がいっぱいあるよ」と聞いて、滞在わずか7時間だったのですが、パリへ見に行ってみました。そしたら、畳を売っている店が本当にいっぱいあるんですよ。

フランス人がやっている店で、仕入先は日本ではなく中国らしいのですが、「畳」、「畳表」などと漢字で書かれた看板もいくつかありました。そのとき、「日本ではブームがボンとやってきてもすぐに終わる。でも、ヨーロッパでのブームは一度始まったら絶対に終わらない。

ずっとゆっくり長く続くから、畳は絶対いいよ」など、いろいろな人から話を聞いたりもして、日本よりもパイ(市場規模)が大きいということをひしと実感しました。「これは(畳の海外輸出を)やらなきゃだめだ」と思いましたね。」

 

2001年といえば、高い失業率、戦後3番目に多い倒産件数、と日本経済は厳しい状況に置かれていた時期。 このタイミングでの「実際に見聞きする」という森田氏の行動力が森田畳店を救ったと考えられます。

2005年に発行された『中小企業白書』では、海外経済が好調となり輸出が増える一方、「内需に依存する割合が高い中小企業の景況は、依然として厳しい状況」と述べられています。 実際、森田畳店も森田氏の渡英から数年後、国内の大きな内装業者から受注していたアパートなどの畳張り替えを、安売りの業者にすべて取られてしまいました。

一方、畳の海外輸出に関しては、開始してから約10年経つにもかかわらず、誰も真似していないことに気づきます。

 

「こういう状況を見て、やはり隙間を狙わなければいけないと思いました。このころから、関税率など細かい情報も載せながら輸出のホームページをしっかりつくり始めたんです。」

 

森田畳店が本格的な海外輸出を決意したころ、中小企業の海外進出に関する国の支援も強化され始めます。以下は、2004年〜2016年に中小企業庁が講じた施策をまとめた資料です。

施策や事業の数はこの10年間で約10倍に増え、今後、大企業のみでなく中小企業や小規模事業者においても、海外と関わるビジネスが増加していく可能性が高いと考えられます。

さらに、「JAPANブランド育成支援事業」が地方経済の活性化という役割も担ってきていることから、都市部のみならず、国内すべての地域において、日本の伝統技術・文化の素晴らしさを活かした商品・サービスが、国内及び世界のビジネス競争を生き残るための重要な鍵となっていると推察できます。

表 中小企業の海外展開に関する支援施策・事業の経緯
参考:
中小企業庁(2017).「中小企業白書」. http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/index.html
※2005年〜2017年版の『中小企業白書』で公表されている前年度に講じた施策を抜粋・要約。

 

 

海外進出する中小企業は少数派?

しかしながら、2015年に実施された商工中金の調査によると、中小企業においては、海外進出を行わない企業のほうが圧倒的に多く、その理由(複数回答可)として3年前と比べて最も増えた事項は「質的に人材確保の見通しが立たない」(2012年:9.3%、2015年:15.3%)でした。

特に、海外進出予定が「未定」と回答した企業では大きな理由の一つです。2015年の調査における第一の理由は「現状程度の国内需要で事業の継続が可能」(41.4%)、第二に「海外事業立ち上げのための人材が不足」(38.0%)、第三に「質的に人材確保の見通しが立たない」(28.0%)であり、海外進出を検討しているものの予定が立たない理由は、上位2つが人材の質に関連しています。[i]

商工中金の調査においては、海外進出に必要な人材の質についての定義はされておらず、いろいろな事項が考えられますが、そのうちの一つは語学力であると推測できます。

[i] 商工中金(2015).「中小企業の海外進出に対する意識調査」. https://www.shokochukin.co.jp/report/tokubetsu/pdf/cb15other04_01.pdf

 

グラフ 中小企業の海外進出の割合(2015年商工中金調べ)
参考:
商工中金(2015).「中小企業の海外進出に対する意識調査」. https://www.shokochukin.co.jp/report/tokubetsu/pdf/cb15other04_01.pdf
※商工中金取引先中小企業3,754社の回答割合を参照し表作成。

 

 

世界60カ国のお客様とのやりとりは英語で

森田畳店の海外輸出先は、個人宅から設計事務所や建築士、日本料理店など、実にさまざま。さらに相手の国や母語、問い合わせ内容も多様ですが、大抵どの国のお客様からも英語で問い合わせが届き、森田氏も英語でやりとりをしています。

 

「最近少し増えたのは、客船のような大きなクルーザーの床や内装に畳を使いたいという注文。このような変わった要望があっても対応しています。

ドイツのお客様からの注文で、ベッドの下に敷く畳もつくっています。7〜8年前くらいには、ロシアやウクライナ、アゼルバイジャンなどから1日に何十通ものメールが届いて、問い合わせが集中することもありました。

去年くらいから問い合わせが急増しているのは、モロッコやアルジェリア、オマーンなど中東地域の国です。」

 

表 森田畳店の主な輸出先の国一覧
参考:
森田畳店(2018). http://www.tatami-mat.net/ex-record.html
※掲載されている輸出記録をもとに表作成。

 

畳は、完全にオーダーメイド。お客様に計ってもらった部屋のサイズをもとにコンピューターで作成したレイアウト図面をメールで送り、お客様に確認してから製作します。

標準サイズをもとに部屋に合わせて微調整する畳の大きさについては、特にやりとりに注意が必要です。日本では尺寸という単位を使いますが、海外ではインチなどとなり、ミリ単位で寸法が細かくなるのです。

また、畳の素材や縁のデザインもお客様に確認する必要があり、切れ端などの実物をサンプルとして送って選んでもらいます。

このような細やかなやりとりを、世界60カ国を相手に、英語でこなしているのです。

 

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