ワールドファミリーバイリンガルサイエンス研究所

日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2021.05.13

文法を実際に使えるようになるためのプロセスを解明〜慶應義塾大学 中浜教授インタビュー(前編)〜

文法を実際に使えるようになるためのプロセスを解明〜慶應義塾大学 中浜教授インタビュー(前編)〜

日本の子どもたちが英語の授業を苦手に感じる理由の一つに、文法が難しい、ということがあるようです。また、高校生や大学生になっても、「文法知識を知ってはいるけれど実際に使うことはできない」と感じている人は多いのではないでしょうか。

そこで、今回は、中浜教授(慶應義塾大学)にお話を伺い、私たちは文法をどのように習得していくのか、日本人にとって難しい文法とは何なのか、どのような学習方法が効果的なのか、といった点についてご紹介します。

【目次】

 

「文法の正確性」ではなく「文脈に適したコミュニケーション」 に注目する

―先生は、第二言語習得のなかでも、機能主義的アプローチの枠組みで研究されている、とのことです。この「機能主義的アプローチ」とはどのような考え方なのでしょうか?

第二言語習得への機能主義的アプローチが目指すところは、「意味と形式との関連性を解明する」ということです。つまり、学習者がディスコース(談話)の文脈内で意味と形式とのマッピングがうまくできているかどうか(意味と言語形式を正しく関連づけられているかどうか)に着目する、ということです。

学習者の言語知識(語彙や文法の知識)を調べるのではなく、どの言語形式(文法規則など)を使ってどのような機能(意味)を表しているのか、という言語運用を調べるアプローチの一つです。
私はアメリカの大学院で修士号を取得後、博士課程に進むまでの数年間、バージニア大学やノートルダム大学で専任講師として、日本語や日本社会文化などを教えていました。その際、日本語を第二言語として学んでいるアメリカ人学生たちは、文法は合っているのになぜか意味がうまく伝わってこない、ということがあり、「どうしてだろう?」と疑問に思ったことが学習者の中間言語に興味をもつきっかけになりました。

後々、研究をしたところ、学習者が意味と形式のマッピングがうまくできていなかったことによるものだとわかりました。

Bates and MacWhinney(1989)(※1)は、言語習得とは形式と機能の関係を習得していく(form-function mapping)過程であり、キュー(手がかり)を頼りに言語が習得されていく、という見解を示しています。例えば、日本語の場合、格助詞(「は」や「が」)が日本語習得のキューとなります。

つまり、「は」や「が」という言語形式によって表される機能を学ぶことで日本語習得が進んでいくのです。一方、英語では、語順がキューとなります。語をこの順番で並べるとこういう意味になる、というように、語順の機能を学ぶことが英語習得を助けます。

 

―言語習得は、「この文法規則を使うと、こういう意味を表すことができる」ということを学んでいくプロセスなのですね。

機能主義言語学は、いくつかの学派に分かれているのですが、例えば、Halliday(1985)(※2)を代表とする体系機能言語学では、「コンテクスト(文脈)があって初めてテクスト(文)が機能する」と考えられています。そして、そのテクストも、文の構造そのものではなく、「意味」から成り立つ、としています。

例えば、ある一文を与えられたとき、その一文の中で意味を考えるのではなく、コンテクストとの関わりの中で意味を見ていく、ということなんです。

さらにHallidayは、状況のコンテクストそのものを、談話が扱う事柄(フィールド)、談話参与者(テナー)、談話参与者が発することばに何を期待するか(モード)に分けて、言語がどのように機能するかを調べる、といった観点で言語を研究しています。

 

―ことばの意味は、文法規則だけではなく、何について話しているか、誰が誰に対して話しているか、といった文脈の中で生まれるものなのですね。

はい。生きたことばを研究するためには、文脈なしでは考えられません。機能主義的アプローチの第二言語習得の特徴として何が大事かというと、文法の正確性というよりは、文脈に適したコミュニケーションができるかどうか、ということかと思います。

例えば、英語を学び始めたばかりの人は、過去においての事象を話す際に、過去形をうまく使いこなすことは難しいのですが、副詞(例:yesterday)で過去を示すなどをしてそれを補っていき、熟達度が増すにつれて、過去形、そして過去完了なども使うことができるようになっていきます。

学習者が動詞の過去形を正しく使えていなくても、コミュニケーションがとれていて、過去という機能を「過去形」という形式で表そうとしていることがわかった場合、「誤用」ではなく、言語の形式と機能をうまくマッピングできている、とみなします。つまり、過去形の習得プロセスに入ったとみなすんです。

 

「文脈」に頼った意味表現から「文法」に頼った意味表現へ

―機能主義では、文法を正しく使えていなくても、伝えたい意味を表そうとしていれば、それは「習得のプロセス」とみなす、ということがわかりました。この「プロセス」について、詳しく教えてください。

私は、機能主義アプローチの中でも特に Givon(1979)(※3)のアプローチに興味をもって研究しているのですが、言語習得は「統語化」(grammaticalisation)というプロセスである、と言われています。学習者は、語用論的な言語運用から統語的な言語運用に発達していく、ということです。

トピック-コメント構造(※4)や等位構造(※5)などが前者です。この習得段階では、過去の事柄であっても、過去形を付けずに現在形を使って話します。例えば、「昨日、食べる」と言ったとしても、「食べた」という意味であることがなんとなくわかりますよね。このように、文脈に頼って意味を表す言語の使い方が「語用論的言語運用」です。

そして、言語習得が進んでいくと、主語-述語構造や従属構造(※6)など、統語的運用モードになっていき、だんだんと文法に頼って意味を表すようになります。形態素で過去形を表す(例:英語の動詞に-edをつける)ことができるようになる、といったようなことです。

 

―「文脈に頼って意味を表す」段階から、「文法に頼って意味を表す」段階へと発達していく、ということですね。

Huebner(1983)(※7)の有名な研究では、Givonが提唱した「統語化」の理論を支持する結果が出ました。モン語とラオス語(※8)を母語として話す成人の英語習得について、縦断的に研究されています。

彼らは、大人になってからハワイに移住してきて日常生活で英語を使っている人たちで、10カ月かけて、語用モード(文脈に頼った表現)から統語モード(文法に頼った表現)に変わっていきました。

例えば、最初のころは「Who came to Honolulu?(誰がホノルルに来ましたか?)」と聞かれると、「Keim to Honolulu isa fai familii.(ホノルルに来た、それは私の家族です)」と言うような構文で答えました。これは、トピック-コメント構造だということがわかります(「ホノルルに来た」がトピックで「私の家族です」がコメント)。

モン語やラオス語は、日本語と同じで、トピック-コメント構造の言語です。つまり、英語習得の初期段階では、母語の文構造になっているのですが、少し英語的な構造も見られたのです。

実は、こういう文構造での発話は、英語を学習中の小・中学生でも見られますし、大学生であっても、熟達度が低いレベルの学習者だと、時々見られます。

 

―学習者の文法発達の特徴については、大規模な調査も行われているのでしょうか?

European Science Foundation(※9)が助成をした科学プロジェクトがあります。6つの異なる母語(※10)の学習者による5言語(※11)習得を大々的かつシステマティックに調査した研究です。

当時では珍しい「三角測量法(トライアンギュレーション)」という複数のデータ収集方法が用いられ、ナラティブ(語り)や絵の描写、舞台指示、映画のリテリング(再話)など、さまざまな状況における発話が収集・分析されました。

Klein and Perdue(1992)(※12)によると、学習者たちは、母語や目標言語にかかわらず、はじめは名詞句だけで文が構成される「名詞句構造」で話します。次に、「不定動詞構造(Basic Variety)」になります。

この段階では、例えば、動詞の過去形(例:-ed)や三人称単数(例:-s)などの形態素が落ちます。その次には、それらの形態素をきちんと使える「定動詞構造」になっていく、というふうに順番に習得が進みます。

そして、学習者のうち3分の1は、日々、第二言語を使っている状態であるにもかかわらず、真ん中の発達段階「不定動詞構造」で習得が止まってしまうこともわかりました。

日本語を第二言語として学習している人についても、平高(2001)(※13)やナカミズ(1998)(※14)が縦断調査を行った結果、「名詞句構造」、「不定動詞構造」、「定動詞構造」という順番で習得されることがわかっています。この真ん中の段階がいわゆる「中間言語」と呼ばれるもので、学習者特有の言語です。

 

母語にない形式は習得が難しい

―日本人の英語学習者にとって、「知識はあるけれど実際に使うことは難しい」という英語の文法はありますか?

第二言語習得分野の中で、言語間影響(crosslinguistic influence)や言語転移(language transfer)という用語があるのですが、言語間の特徴が違えば違うほど習得が難しいと言われています。

日本語と英語の場合、意外かもしれないのですが、上級レベルになってもなかなか習得しづらいと言われているのが、冠詞なんです。あとに続くのが母音だと「an」、子音だと「a」という文法規則は使えるようになるのですが、どういうときに定冠詞(the)を使うのか、どういうときに冠詞(a / an)を使わないのか、という判断は難しいようです。日本語には、このような冠詞がないからですね。

―上級レベルに達している英語学習者であっても、冠詞を使いこなすことは難しいのですね。

定冠詞(the)を過剰汎化する(つけなくていいところでつける)、ということは、よく起きます。アメリカの大学にいたときの日本人の知り合いで、英語で論文をたくさん書いているような、英語熟達度レベルが上級の人もそのような間違いをしていました。

固有名詞には通常theをつけないのですが、Deanという名前の人について話そうとした際、「the Dean」というように、定冠詞のtheをつけたんです。その場にいた英語話者は、その人がてっきり学部長の話をしていると思って聞き続けていた(「学部長」は英語でdeanと言うため)ところ、どうやらDeanさんという方についての話であることが文脈から後々わかったものの、しばらく混乱をきたしてしまいました。

これは日本語母語話者のような第一言語に冠詞のない話者が間違えやすい使い方なのですが、こんな小さい冠詞の誤用でも意味に大きな影響を与える場合もあるので、気をつけなければいけません。きっと、この文脈では、「そのディーンさん」という意味で、「その」にあたる指示詞のthisの代わりに定冠詞のtheを代用したのでしょう。このように固有名詞に定冠詞がつけられているのは、書きことばでは少ないとしても、話しことばではけっこうあるんです。

―知識があるからといって、使いこなせるとは限りませんね。

そうですね。冠詞は、知識はあっても、実際そのルールを適用させることができていない例の一つに当てはまるのかなと思います。

関係代名詞なんかも、上級レベルに至っても使うことが難しい文法規則です。日本語は、例えば、人物に関する情報を言うとき、その情報を前(左側)にもってくる言語です(例:本を買った男の子が〜)。でも、英語は、後ろ(右側)にもってくる言語です(例:The boy who bought a book〜)。

頭ではわかっていても、実際に使うことは難しいので、日本語話者に英語を書かせてみると、関係代名詞を使う人はとても少ないです。苦手だとわかっているから、あえて関係詞節を使わない「回避」が見られる、ということもずいぶん前の研究(Schachter, 1972)(※15)でわかっています。現在完了形についての習得も、知識はあっても実際運用となるとできないことがわかっています。

―名詞の複数形も、ルールは知っているけれど実際に使うのは難しく感じるのですが、いかがでしょうか?

複数形もそうですね。英語だと、1冊だと「book」、2冊以上だと「books」というように差別化します。でも、日本語には複数形がありません。「本」と言ったとき、1冊の本か2冊の本かはわかりませんよね。

本は有生物ではないので、「本たち」と言うわけにもいかず、本の数を表したい場合は「1冊の本」というように数詞を使って表すわけです。このように、もともと数えられる名詞かどうかなどを判別する必要がない日本語の概念から英語の概念に切り替えるのは、至難の業だと思います。

母語にない形式は、習得が進まないまま、正しく使えない状態が定着してしまうんですね。これは「定着化」もしくは「化石化」と呼ばれています。しかし、第二言語指導によって将来的に「非定着化」する可能性もあるとされています。

 

―英語の文法で話すには、日本語の概念から英語の概念に切り替える必要がありますね。

はい。Givon(1983)(※16)が1983年に紹介した「トピックの連続性」というコンセプトについても研究しているのですが、これも言語習得において重要です。お話の中に誰が出てきて、何が起こったか、ということを話すときには、トピックがうまく連続していない(主語がうまくつながっていない)と、話の内容がわからなくなくなってしまうことがあります。

英語の場合、トピック性の低いもの(聞き手にとって初めて出てくる対象物)について語るときは、不定冠詞(例:A boy is〜)を使います。そして、それがトピックであり続ける場合は、代名詞(例:He is〜)に変わります。

いったんトピックになったけれど、ほかの人物が出てきて主語(主題)が変わってしまったあと、もう一度主題に戻る場合は定冠詞(例:The boy is〜)、というふうにトピックの連続性を表します。

では、日本語ではどうでしょうか。日本語だと、新しい人物を物語に導入するときには「が」(例:男の子〜)を使います。同じ人物が出てきたときは「は」(例:男の子〜)を使って、そのあとはもう主語を省きます(ゼロ照応(φ))。

日本語では、この主語の省略が頻繁に起こります。

英語は、起きている出来事に焦点を置いて話していく「事実志向」の言語であり、一方、日本語は、主人公の視点から話していく「立場志向」の言語です。そのため、同じストーリーを語る場合であっても、英語話者は主語がシーンごとに頻繁に変わり、日本語話者は主語がずっと同じ、というふうに、概念の違いが現れます。

このような「概念の転移」(母語での概念が第二言語習得に影響を与えること)という観点からも、日本語を学習する人にとっても、英語を学習する人にとっても、このようなトピックの連続性を表す言語の使い方を習得することは難しいことが明らかになっています。

 

(※1)該当文献:Bates, E. A. & MacWhinney, B.(1989). Functionalism and the Competition Model. In B. MacWhinney, & E. A. Bates (Eds.), The Crosslinguistic Study of Sentence Processing (pp. 3-76). New York: Cambridge University Press.

(※2)該当文献:Halliday, M. A. K.(1985). An Introduction to Functional Grammar. London: Edward Arnold.

(※3)該当文献:Givon, T.(1979).On understanding grammar. New York: Academic Press.

https://doi.org/10.1163/9789004368897_005

 

(※4)まず話題を提示して、それについて何かを述べる、という情報構造。例えば、「Taro sick I sad.」(「I am sad that Taro is sick.」の意味)という非文章では、Taro sickがトピックで、それについてのコメントがI sadである(中浜, 2016)。

(※5)情報が等位的に(対等な関係で)並べられた文構造。例えば、「I go to school, and Mary go to the park.」のように、接続詞andを使って、情報を等位に接続する(中浜, 2016)。

(※6)情報が従属的に(中心-付属という関係で)並べられた文構造。例えば、「I don’t know if he likes his classmates.」という文の場合、主節(I don’t know)に従属節(he likes his classmates)が接続されている(中浜, 2016)。

(※7) 該当文献:Huebner, T. (1983). A longitudinal analysis of the acquisition of English. Ann Arbor, MI: Kaorma.

(※8)モン語は主にミャンマー、ラオス語は主にラオスで話されている言語(Eberhard, Simons, & Fennig, 2021).

(※9)ヨーロッパ諸国における科学的研究を推進する非政府・非営利団体「欧州科学財団」。

(※10)パンジャブ語、イタリア語、トルコ語、アラビア語、スペイン語、フィンランド語を母語とする成人で、ヨーロッパ諸国への移住者(中浜, 2016)。

(※11)英語、ドイツ語、オランダ語、フランス語、スウェーデン語(中浜, 2016)。

(※12)該当文献:Klein, W. & Perdue, C. (Eds.) (1992). Utterance Structure. Developing grammars again. Amsterdam: John Benjamins.

(※13)該当文献:平高史也(2001, December 15).「第2言語としての日本語における時間性表現の習得―ブラジル出身移住者の場合―」[Panel presentation].『第12回第二言語習得研究会全国大会』, 南山大学(愛知県名古屋市).

(※14)該当文献:ナカミズ, エレン(1998).「ブラジル人就労者における日本語の動詞習得の実態:自然習得から学習へ」. 『阪大日本語研究』, 10, 83-110.

http://hdl.handle.net/11094/12663

 

(※15)該当文献:Schachter, J. (1974). An Error in Error Analysis. Language Learning, 24(2), 205-214.

https://doi.org/10.1111/j.1467-1770.1974.tb00502.x

 

(※16)該当文献:Givon, T. (1983). Topic Continuity in Discourse: A quantitative cross-language study. Amsterdam: John Benjamins.

 

(後編に続きます)

 

【取材協力】
中浜優子教授(慶應義塾大学 環境情報学部)

慶應義塾大学中浜教授のお写真

<プロフィール>

アメリカのオハイオ州立大学大学院教育学研究科でM.A.、ジョージタウン大学大学院言語学研究科で博士号(Ph.D.)を取得。ノートルダム大学の専任講師、名古屋大学大学院 国際言語文化研究科の助教授、東京外国語大学大学院 地域文化研究科の准教授職を経て、2009年から慶應義塾大学環境情報学部教授に就任。専門は、応用言語学。特に、第二言語でのコミュニケーション能力(運用能力)に着目し、効果的な英語初等教育のあり方についても研究を進めている。

 

 

 

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