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2021.08.05

教師にとってのCLILの魅力は「工夫できる楽しさ」 〜東洋英和女学院大学 笹島教授インタビュー(前編)〜

教師にとってのCLILの魅力は「工夫できる楽しさ」 〜東洋英和女学院大学 笹島教授インタビュー(前編)〜

主に英語を通して、何かのテーマや教科科目を学ぶ学習形態は、「CLIL」と呼ばれています。Content and Language Integrated Learning(内容言語統合型学習)の略称であり、内容(content)の学習と外国語(language)の学習を組み合わせた学習・指導のことです(J-CLIL, 2017)。

今回は、長年にわたり教師認知に関する研究を行い、現在J-CLIL(日本CLIL教育学会)の会長を務める笹島 茂教授(東洋英和女学院大学)にお話を伺いました。教師の目線から見たCLIL 授業の魅力について紹介します。

写真提供:笹島茂教授
<2018年:オーストラリアのメルボルン大学にてJ-CLILに関する講演後、参加者と>

 

【目次】

 

CLIL教師は楽しそうに授業をする

―笹島先生は、どのようなきっかけや理由でCLILに興味をもたれたのでしょうか?

高校の英語教員を20年ほど経験したあと、埼玉医科大学で勤務しました。そのときに、英語を教える対象が医師や看護師を目指す学生たちになったので、医療分野に特化した英語教育やESP(English for Specific Purposes/明確な目的のための英語)に興味をもちました。

当時、ヨーロッパで言語教師について調査していたところ、言語教師だけではなく、さまざまな教科の先生に会う機会がありました。そのときに、1990年代半ばくらいから2000年くらいにかけて、当時はCLILと呼んでいなかったかもしれませんが、専門分野や職業に関わる英語教育やESPが行われていることを知りました。ラテン語などは別として、言語は実際に使うために学習する人が多かったんです。教養のために学習するのではないんですね。

ヨーロッパでは、医療分野において英語は必須でしたが、日本では、どうもきちんと行われていませんでした。埼玉医科大学にいたときには、ドクターや医療の専門家と一緒に英語教育に取り組んでいたのですが、やはり視点が異なるので、授業がなかなかうまくいかなかったんですね。専門の方々は、臨床の場面で医師と患者の会話を英語でできるようにする、ということを目指そうとするのですが、学生たちはそこまでのレベルに到達していませんから、まずは医療に関わる文献を読めたり普通に会話ができたりする、ということが必要でした。

 

―専門領域のための英語教育をいかに効果的に行うか、ということを模索されていたのですね。

そうですね。そのときに、フィンランドでおもしろい取り組みをしていると聞いて、調査しに行き、ユバスキュラ大学のDavid Marsh先生からCLILのお話を聞いて興味をもちました。

フィンランドの学校を視察してみたところ、英語の先生を含め、いろいろな教科の先生たちがContent(科目の内容)をベースにした英語の授業を行っていて、生徒もそのような授業を求めている様子が観察できました。このような授業は、CLIL、バイリンガル教育、CBI(Content-based Instruction/内容を重視した指導)、というようにいろいろな呼び方がされていましたね。そのとき、自分が高校の教員をしていたときに、だいたいそういうことをしていたな、と気づきました。

 

―教師の調査からは、どのようなことがわかったのでしょうか?

ヨーロッパや日本のいろいろな先生たちと会ってみたのですが、語彙や文法などの表面的な技能を教えることで楽しんでいる先生はあまりいない、と気づきました。
例えば、LGBTをテーマとして扱った授業をしている先生のほうが生徒と楽しそうにしているんです。

そういう先生たちは、研究論文をあまり発表していないので広く知られてきませんでしたが、実際には、このような授業をしている先生たちはたくさんいたんです。いままでの考え方に捉われない、かつ、おもしろい授業ができるCLILアプローチは、こういう先生たちの心を引きつけたのだと思います。

いまは、CLILも認知され一つの研究分野となり、研究報告がたくさん出てくるようになりました。

 

―CLILの授業を行っている先生のほうが楽しそうにしているのですね。

私にはそう見えます。いろいろな学校を視察してきましたが、小学校でも中学校でも、CLILの授業をしている教師は、とても元気で、「ぜひ授業を見てください」と言ってくれます。逆に、自分の授業をCLILと呼んでいなくても、「授業を見ていい」と言ってくれる教師の授業はCLILっぽい授業になっている、ということもありました。どちらの場合も、自分の授業を生徒が楽しんでいて、満足しているからですね。どこの国の教師も同じでした。

CLILに関する研究の中には、「教師がどう変容するか」という研究もあります。Do Coyle先生は、そのような研究者の一人ですが、CLILは教師の動機づけを引き出すと言っています。

私自身も、埼玉医科大学で10数年前にCLILを始めようとしたとき、同僚のネイティブ・スピーカーの先生たちは、最初は「こんなのやったことないから、やらない」という反応だったのですが、途中からは「おもしろい」と言ってやり始めました。なぜなら、学生たちが授業を楽しんでいたからです。

そこから、先生たちがいろいろなアイデアを入れて工夫して、自分も医療のことを勉強したり、学生から教えてもらったりして、教師と学生の学び合いが始まったんですね。「これでうまくいくんだ」ということがわかり、先生たちは自分たちをCLIL teacherと呼び、いまもCLIL授業を続けています。

イギリスのエディンバラ市にある、Liberton High Schoolを訪問した時に校長先生とCLILについてディスカッションする笹島先生

写真提供:笹島茂教授

<2018年:英国のエディンバラ市 Liberton High School訪問時、校長とCLIL交流について相談>

 

CLILとは?

―CLILは、どのような背景・経緯で生まれた教育アプローチでしょうか?

CLILは、1990年ごろから、ヨーロッパの政策として誕生しました。当時、EUの執行機関である欧州委員会は、EU諸国をうまくまとめるために、お互いの国を行き来しながら勉強したり仕事したりできるようにするためによい方法はないか、ということを考えていました。

そこで、すでに英語がEU諸国の共通語としてかなり使われていたため、英語で数学や理科、社会などを教えてみたらどうだろうか、というアイデアが出ました。バイリンガル教育と重なっているのですが、ある人たちが「CLIL(Content and Language Integrated Learning)」という用語を使い始めたんですね。

ただし、いまでも、CBI(Content-based Instruction/内容重視の指導)、CBLT(Content-based Language Teaching/内容を重視した言語指導)などと呼ぶ人もいますし、CLILの定義もはっきりしたものはありません。

「CLILって何ですか?」と聞かれたら、人によって違う答えが返ってくるほど、CLILはとても柔軟性が高く、多様性を受け入れる教育アプローチです。私なりのCLILの定義はありますが、みなさんそれぞれのCLIL、つまり「私のCLIL」があっていいと思っています。

 

―例えば、どのような授業がCLILなのでしょうか?

ヨーロッパでは、それぞれの科目の先生が英語などで教える授業ですね。ただ、実際にやってみると、英語などの学習言語がわからない生徒がいたら、発音や語彙、文法なども何らかの形で教えなければならないので、当然、言語指導のノウハウが必要になってきます。

そこでEFL(外国語としての英語)やESL(第二言語としての英語)、CLT(コミュニケーション能力を育成する指導)などの指導法を取り入れるようになりました。すると、言語教師たちもCLILに関心をもつようになり、教科教育における言語指導、言語教育における教科(内容)指導、という二つの側面が統合して発展していったのだと思います。

バイリンガル教育やIB(国際バカロレア)教育とも交流しながらお互いに発展していったので、これらとCLILは明確に区別することができません。CLILのことを「バイリンガル教育」と呼んでいる研究者もいます。

このような区別にはあまり意味がなくて、本質的には、学習者が「学んだ」と思える授業になっていればいいんです。

 

―CLILの理論はどのようにできあがっていったのでしょうか?

私はスコットランドのスターリング大学で博士課程の研究をしていたのですが、そのころアバディーン大学にいたDo Coyle先生の考え方を聞いて、CLILに賛同しました。

世界でも日本でも一番知られているのは「4Cs(4つのC)」ですね。Content(内容)、Cognition(思考)、Communication(言語)、Culture(文化)(※1)がCLIL授業の理念 (principle)ということです。

ただし、特にCultureはいろいろな解釈の仕方があります。でも、Do Coyle先生は、それでいい、と言っていました。Cultureはとても広いコンセプトで、いろいろな意味を含んでいるので、そんなに簡単に定義できない、ということなんです。

それから、CLILはContext(文脈・状況)によって変わる、ということも言われています。つまり、ヨーロッパのCLILをそのまま日本で実践してもうまくいかない、ということですね。

 

―CLILには、ほかにもさまざまな理論が取り入れられていると伺っています。

そうですね。理論と言うかどうかはわかりませんが、Bloom’s Taxonomy(※2)など、いろいろな考え方が取り入れられています。学習と関連する言語の三点セット「language of learning(学習の言語)」、「language for learning(学習を行うための言語)」、「language through learning(学習のなかで培われる言語)」という考え方や、scaffolding(足場かけ)、HOTS(高次の思考スキル)・LOTS(低次の思考スキル)などもそうですね。

すべて、すでに存在していた学習理論をCLILの中に取り入れて発展してきたんです。

 

―CLILの「指導法」というものはあるのでしょうか?

みなさん、CLILの指導マニュアルのようなものを求めると思いますが、CLILにはマニュアルはないと思っています。もし誰かが実践している指導方法や誰かが効果的だと言っている指導方法をそのまま取り入れてやったとしても、CLILにはならないのではないでしょうか。

そのようなマニュアル通りの指導では、CLILのおもしろみが消えてしまいます。CLILの効果は、授業で取り扱う内容(教科)や生徒の状況によって変わりますから、そこで教師が「生徒に思考させるにはどうしたらいいんだろう」などと工夫することが重要です。

 

―CLIL授業における「工夫」とは、どのようなことでしょうか?

基本的には、学習者中心の授業になっていないといけないと思うんですね。学習者が自分で気づいて何かを生み出す、という授業です。

いくら知識をたたき込んで教えて学習者がそれを覚えたとしても、それが自分の力として身についていないと結局その知識を使えません。でも、活動を通じて学習者が自分で気づくと、それはしっかり習得につながります。

CLILは、そういう学習を刺激すると思います。なぜなら、内容について言語を使って考え、実際にその言語を使ってコミュニケーションするからです。

例えば、英語をまったく話せない人がアメリカに行って、コックさんとして1〜2年間働いていたら、仕事上、英語が必要だったため、だいたい英語でコミュニケーションできるようになった、というようなパターンですね。

不完全な英語を否定する人もいるかもしれませんが、不完全でもいいと思っています。医師が英語を使うときも同じです。発音のなまりとか英語の完璧さということよりも大事なのは、話の内容です。

 

―CLILの授業をするには、工夫が重要なのですね。

そうですね。まずは、CLILの基本的な理念をきちんと理解して、ワークショップなどで一緒に教材をつくったり、マイクロティーチング(どのような授業がよいか学ぶための実践練習)をしたりするのがよいと思います。そうすると、だんだん「自分はこんなことをやってみたいな」というアイデアが出てくるはずです。それを実際に授業でやってみたら、生徒からの評判がよかった、となると、また「ここを工夫してみよう」となっていきます。

ですから、日本では、この5〜6年でCLILが急速に広まりましたが、本当にさまざまなCLIL授業があると思います。

 

(※1)4つ目のCは「Community(協学)」という解釈もある。

(※2)Benjamin Bloomによって提唱された教育の目標分類。教育の目標は、知識、理解、応用、分析、統合、評価、の6種類に分類される、とされた。この分類は、のちに、記憶、理解、応用、分析、評価、創造、に改定された(Armstrong, 2010)。

 

後編に続きます

 

【取材協力】

笹島 茂教授(東洋英和女学院大学 国際社会学部 国際コミュニケーション学科)

笹島先生のお写真

<プロフィール>

専門は、英語教育、言語教師認知、CLIL、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)、ESP、臨床教育学。オーストラリアのニューイングランド大学(応用言語学)でMA、スコットランドのスターリング大学 (教育学部)でPhDを取得。埼玉県高校教諭、埼玉医科大学医学部教授を経て現職。J-CLIL(日本CLIL教育学会)会長。JACET(大学英語教育学会)監事。

J-CLIL(日本CLIL教育学会):https://www.j-clil.com

 

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