IBS|WORLD FAMILY INSTITUTE OF BILINDUAL SCIENCEIBS|WORLD FAMILY INSTITUTE OF BILINDUAL SCIENCE

ワールドファミリーバイリンガルサイエンス研究所

日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2020.04.24

小学校英語教育は「場所」の壁を越えられるか? 〜遠隔授業の可能性〜

小学校英語教育は「場所」の壁を越えられるか? 〜遠隔授業の可能性〜

日本の過疎化・少子化問題は、学校の統廃合や教育の地域格差など、学校教育に大きな影響を与えてきました。文部科学省は、すべての子どもたちが質の高い教育を受けられるよう遠隔教育を本格的に推進し始めました。遠隔教育の推進は小学校英語教育にとっても重要な政策です。

 

【目次】

 

 

小中学校における遠隔教育の推進

毎年3〜4月になると全国各地で相次いで報道される学校の統廃合。地域の学校が閉校になり、地域の人々が別れを惜しむ様子を目にする機会が増えます。

2008年をピークに人口が減少傾向にある日本では、地域の過疎化や少子化の加速により、小中学校の統廃合が進められています(文部科学省, 2015)。しかしながら、特に小学校の閉校は、低学年児童の通学や子育て家庭の居住継続を難しくしたり、地域の活力を低下させたりする場合があり、地域住民への影響や地理的な事情によって実現できない地域もあります。

一方で、特に山間部や離島、過疎地などでごく少数の児童生徒しかいない小さな学校では、多様な人々や価値観に触れる機会も質の高い教育を受ける機会も限られてしまうという問題もあります。

グラフ|2019年 国公立・私立の小学校の児童数

 

このような状況の中、学校教育における少子化・過疎化問題を学校の統廃合で解決しようとするのではなく、小規模校を存続させながら教育の機会均等や質の維持・向上を目指す政策も出てきました。文部科学省(2019b)は、すべての児童生徒に対して質の高い教育を実現するため、希望するすべての学校が遠隔教育を実施できる体制を2023年までに整えようとしています。

遠隔教育システムは、離れた場所にいる人々同士がインターネット回線などで繋がって、双方向に映像・音声のやりとりをすることを可能にする技術です。学校教育への活用により、小規模校の児童生徒がほかの学校と合同で授業を行ったり、他校の子どもたちと交流したり、その地域では確保できない教師や専門性の高い人材の指導を受けたりすることができ、授業内容や学べること、体験できることの幅が格段に広がるなど、さまざまなメリットがあります(文部科学省, 2018)。

 

アメリカでは州立の「バーチャル・スクール」が普及

アメリカでは、1990年代から遠隔教育専門の「バーチャル・スクール」や「オンライン・スクール」と呼ばれる形態の学校が登場しました。州の行政機関が州内の学校や児童生徒に対する公的サービスとして、遠隔授業を提供する運営組織が最も多く、Evergreen Education Group(2017)によると、州立のバーチャル・スクールの授業を1コース以上受けている児童生徒は、全土でおよそ52万人(2015〜2016年度)。

通常の学校に通いながら、学校や地域に事前申請のうえ、バーチャル・スクールの授業を補習として1〜2課程受けるケースが多く、その人数は年々増加傾向にあります。特に、外国語(英語以外)の授業に関しては、各地域の学校で教師を確保することが難しいため、オンラインで学習する子どもが増えています。

円グラフ|アメリカの州立バーチャル・スクール 教科別受講者数の割合

 

学校や地域による承認など条件が揃えば、オンライン・スクールの授業のみで卒業資格を得られる場合もあり、住んでいる地域に縛られず質の高い教育を受けたい子ども、病気や怪我、発達障害などの事情で通学せずに学習したい子ども、個性や才能を伸ばせる授業を受けたい子ども、親の仕事の都合で一箇所に定住できない子どもなどにとっては有効な教育機会になっています。

日本における遠隔教育は、まだ映像・音声の安定性や機器の使いやすさなどの技術・運用面に関する検証が多く、遠隔授業の内容・効果についてはまだ十分に研究されていません。

一方、アメリカでは、地域や学校だけではなく、民間業者が遠隔授業のためのカリキュラムやデジタル教材、児童生徒の学習状況管理システム、教師の研修プログラムなどを開発し、各州の行政機関がそれらを活用しています。また、バーチャル・スクールで受講している児童生徒の学力が州の平均を上回るなど、遠隔教育でも効果的に学習できることを示す調査結果も発表されています(Evergreen Education Group, 2017)。

バーチャル・スクールで学習する児童生徒は、中学3年生以上が8割以上で未就学児や小学生は比較的少数ですが、アメリカでは日本よりも遠隔教育が普及し、実証研究もはるかに進んでいると考えられます。

 

「場所」の壁を越える英語教育

前述の通り、アメリカでは遠隔で外国語を学習する児童生徒が増えていますが、ALT不足が問題となっている日本の英語教育も、遠隔授業の活用が期待されている分野の一つです。地理的にALTを配置できない学校の子どもたちが、他校に所属するALTの指導をビデオ会議やウェブ会議システムなどを使って画面越しに受けることができれば、ネイティブ・スピーカーの英語を聞いたり実際に会話したりする機会をもてるからです。

2018年度からは文部科学省が公募で選定した複数の地域で実践研究を進めています。海外在住の英会話講師と会話練習をする、遠方のALTから発音や語彙・表現を教わる、他校のALTや子どもたちと一緒にアクティビティやゲームを楽しむ、英語で発表してALTからアドバイスをもらう、などの活動例とともに、子どもたちの英語学習への意欲や英語でコミュニケーションを図ろうとする態度が向上したことが報告されています(文部科学省, 2018)。

また、2019年に「遠隔教育特例校制度」が告示され、英語科の免許状をもたない教員と他校の英語科教員が遠隔でティームティーチングを行うことができるようになりました。この制度を活用し、ALTだけではなく、外部の英語講師による遠隔授業を行う地域もあります。

茨城県では、鹿島市立平井中学校の3年生、つくばみらい市立伊奈東中学校の2年生が、保健体育科の教員による指導のもと、他校に勤務する英語科教員の授業を画面越しで受ける実証研究が行われました。教員や生徒へのアンケート結果によると、英語を使う積極性や学習意欲が高まっていました(茨城県教育委員会, 2020)。

人口が少なく英語科の免許状をもつ教員の確保できない学校や専門性の高い人材がいない地域は、ほかの学校や地域からの遠隔授業を受けることで英語教育を維持できることがわかります。

小学1年生から英語の授業が始まる岡山県の和気町は、2019年3月から授業の一環でオーストラリアの小中学校との遠隔交流を開始しました。日本の子どもたちは英語で、オーストラリアの子どもたちは日本語で質問や発表をする、というように双方に学び合う活動が町内のさまざまな学校や学年で行われています(和気町, 2020)。

小学3・4年生の外国語活動には、「異なる文化をもつ人々との交流などを体験し、文化等に対する理解を深める」という目標が設定されています(文部科学省, 2017)が、外国人が少ない地域ではそのような体験を用意することが困難です。その場で歌やゲームを楽しむだけの交流ではなく、相手と質疑応答や意見交換をするような交流を繰り返し継続的に行うことが英語でのコミュニケーションや異文化に対する意識、興味・関心、意欲の向上に重要である、と結論づけた実践研究(木村ほか, 2020)もあり、遠隔技術の活用によって授業の効果を高めることもできます。

このように、遠隔技術は、人口減少地域における英語教育を維持・向上させ、地域や学校による英語教育の格差を埋める有効な手段になるかもしれません。そして、2020年度から全国の小学校で外国語活動や英語の授業が増えるため、小学校英語教育にとっては遠隔授業の実践研究は極めて重要になってくると考えられます。

通信環境や機器の整備、授業内容の検討、教員の研修、それらにかかるコストなど、多くの課題が残されていますが、このような動きは、「英語教育は対面でないとできない」という従来の考え方を大きく変化させるきっかけになるのではないでしょうか。

 

■関連記事

映像を見てマネをしている女の子 乳幼児でもテレビ映像を見て動作を模倣できることが明らかに
イメージ画像 幼児はどのような映像で単語を学習するのか? 幼児はどのような映像で単語を学習するのか?

 

 

参考文献

Evergreen Education Group (2017). KEEPING PACE WITH K-12 ONLINE LEARNING 2016. Retrieved from

https://files.eric.ed.gov/fulltext/ED576762.pdf

 

茨城県教育委員会(2020).「質の高い許育を実現するための遠隔教育に関する実証研究」. Retrieved from

https://www.edu.pref.ibaraki.jp/board/gakkou/shochu/gakuryoku/enkaku-houkokusyo.pdf

 

木村明憲、黒上晴夫、谷口生歩(2020).「小学校でのタブレットPCを活用した国際交流による資質・能力の変容」.『教育メディア研究』, 26(2), 1-17.

https://doi.org/10.24458/jaems.26.2_1

 

森本容介、山本朋弘、清水康敬(2010).「小学校外国語活動のためのテレビ会議システムの運用と評価」. 『日本教育工学会論文誌』, 34 (Suppl.), 125-128.

https://doi.org/10.15077/jjet.KJ00007086693

 

文部科学省(2015).「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引 〜少子化に対応した活力ある学校づくりに向けて〜」. Retrieved from

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/01/19/1354538_6.pdf

 

文部科学省(2018).「遠隔教育システム活用ガイドブック」. Retrieved from

https://www.mext.go.jp/content/1404424_1_1.pdf

 

文部科学省(2019a).「学校基本調査」. Retrieved from

https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 

文部科学省(2019b).「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」. Retrieved from

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/06/24/1418387_02.pdf

 

和気町(2020).「オーストラリア校との遠隔交流授業をしています(記事一覧)」. Retrieved from

https://www.town.wake.lg.jp/kurashiKosodate/kosodateKyoiku/gakko/11590

 

 

PAGE TOP