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2019.12.06

人工的な国際共通語「エスペラント」〜外国語学習と国際平和〜

人工的な国際共通語「エスペラント」〜外国語学習と国際平和〜

約130年前、世界の人々の共通語として人工的につくられた「エスペラント」。近年は、グローバル化に伴って国際共通語の必要性が高まっていますが、日本でエスペラントが話題になることはありません。

しかしながら、100年以上経った現在も世界に200万人以上の話者が存在し、日本の外国語教育において重要な見解をもたらしてくれる言語です。

Esperanto © 2017 CRAI Biblioteca de Lletres Universitat de Barcelona (CC BY 2.0)

 

【目次】

国際平和のための人工的な言語「エスペラント」

「エスペラント」は、ロシア語を話すユダヤ人家庭で生まれ育ったラザーロ・ルドヴィーコ・ザメンホフ氏が1887年に創案した言語です。

ザメンホフ氏の故郷は、当時ロシア領としてユダヤ人やドイツ人、ロシア人、ポーランド人から成る多民族・多言語社会であったポーランドの北東部ビアウィストク。

幼いころからロシア語以外にも複数の言語を学び、言語に強い興味を抱いていたザメンホフ氏は、民族間における政治的・経済的な緊張感や不平等感が高まり、世界各地でも自らの民族や言語、国家が最も優れていることを主張する民族主義・国家主義が広まる中、言語の壁や「誰が誰の言語を学ぶか」といった考え方が人々の間における差別や嫌悪感、憎しみに繋がることを実感します(Heller, 2017; Lieberman, 1979)。

そこで、すでに特定の人々が第一言語として使っている言語をそのほかの人々が学ぶことで世界の共通語にするのではなく、誰の所有物でもない言語をすべての人々が第二言語として学び共有することを理想とし、異なる言語を話す人々の共通語としてエスペラントを考案したのです。

エスペラントは、第一次世界大戦や第二次世界大戦、冷戦を経験した世界各国で国際平和への道を模索する方法として注目されただけでなく、言語の成り立ちや仕組み、習得、社会との関係性などに関する論理的な研究によって言語学の進歩にも貢献しました(Heller, 2017)。

スペインのバルセロナ大学で開催されたザメンホフ氏の書誌展覧会チラシ

エスペラントの創案者 ラザーロ・ルドヴィーコ・ザメンホフ氏

Esperanto © 2017 CRAI Biblioteca de Lletres Universitat de Barcelona (CC BY 2.0)

(スペインのバルセロナ大学で開催されたザメンホフ氏の書誌展覧会チラシより)

 

エスペラントが国際平和を目指すものであったことは、エスペラントの大きな特徴の一つである文法規則からもわかります。

エスペラントの文法規則は、極めて少数です。例えば、不規則な語形変化(*1)や文字と一致しない発音方法(*2)など、多数の複雑な文法規則があると、そのような文法規則をもつ言語を話す人々にとっては学びやすく、そうでない人々にとっては学びにくいという不平等さが生じてしまいます。

(*1) 例えば、英語の動詞には、過去形・過去分詞形の語尾が「-ed」になる規則動詞のほか、「do / did/ done」、「see / saw/ seen 」 のように不規則に変化する不規則動詞がある。

(*2) 例えば、英語は、「high」のghや「climb」のbを発音しないように、単語を綴ったときの文字通りに発音するとは限らない。

 

また、同じ言語を第一言語として話す人々の間でも、特別な教育を受けなければならないような難易度の高い言語にしてしまうと、富裕層やエリートのみが学べる言語になってしまいます。

エスペラントにおいて、誰でも簡単に学べる言語という平等性は重要であり、文法規則をシンプルにすることでその理念を実現しようとしたのです(水野, 1980; UEA, 2019a)。

また、エスペラントの語彙も創案当初は極めて少数でした。

これは、あえて最初から「完成した言語」にせず、人々がエスペラントを共有して使っていく過程で語彙が増加していき、世界中の人々の共有物になっていく言語を目指したのです。

例えば、日本でも毎年「今年の新語」が発表されたり、定期的に辞書に新しい言葉が追加されたりするように、どの言語でも話者や使用者がいる限り、永遠に同じ状態でいることはなく、常に変化していきます。

エスペラントも、創案当初は1万超であった語彙数が現在は何十万もの数に増えており、エスペラント専門の国際的な学術団体によって新しい言葉の検討や承認、基本原則の維持・保護などが行われています(UEA, 2019a)。

エスペラントは、誰のものでもない言語として人工的・計画的につくられた言語ではあるものの、自然に生まれた言語と同じような発展を遂げてきており、ただの理論に終わらず、実際に多くの人々に長年使用されてきたのです。

 

エスペラントは130年受け継がれてきた国際共通語

1908年にはエスペラント話者の国際組織「世界エスペラント協会(UEA)」、1938年にその青年部(35歳以下)である「全世界エスペランティスト青年機構(TEJO)」が設立され、現在の会員出身国は世界の全大陸120カ国となり(UEA, 2019b)、毎年世界各地でエスペラントによる討論や講演、文化的祭典などが行われています。

このように、個人レベルではなく組織的に普及が進んだこともエスペラントの特徴であり、その普及はあらゆる分野に広がりました。

例えば、1920年代は、欧米諸国を中心に、ラジオ番組やビジネス(宣伝・広告や文書など)、学術論文・学術誌、観光(観光客向けのガイドブックや掲示物・看板など)、学校教育の分野でエスペラントが使用され始めた時代でした。

エスペラントが国際的な共通語に適していることが国連(当時、国際連盟)によって認められてからは、文書や会議でエスペラントを使用する国際的な機関が増加しました(Hamann, 1928)。

そして、誰にでも平等で中立的な共通語によって世界の人々の相互理解・友好関係を推進しようとするエスペラントの理念は、1954年にユネスコからも賛同を受け、現在、世界エスペラント協会はユネスコや国連、ユニセフ、EUの欧州評議会などと公的な協力関係にあります(UEA, 2019a)。

国際青年エスペラント大会

全世界エスペランティスト青年機構が毎年開催する国際青年エスペラント大会

ijk2015-grupa-foto @ 2015 Pola Esperanto-Junularo (CC BY 2.0)

 

世界各地には、選択科目や学位取得のための履修科目にエスペラントが含まれる学校や大学、エスペラントで書かれた書籍や論文、雑誌・小説、エスペラントで歌われる音楽などが多数あり、過去にはノーベル文学賞に推薦された作品もあります。

世界エスペラント協会によると、インターネットの普及によって、オンラインでのチャットや通話におけるエスペラントの使用が急速に増えています。

世界中で使用されているコンピューター・システムやウェブサイト(例:Google、Wikipedia、Facebook)もエスペラントに対応するようになり、2012年にはGoogle翻訳の対象言語にエスペラントが加わりました(UEA, 2019a)。

Ethnologueのデータによると、現在のエスペラント話者人口は全世界で約200万人であり、そのほとんどが第二言語として使用していますが、近年はエスペラントを家庭で話す人々もおり、そのような家庭で育ったことによってエスペラントが第一言語になっている人々が1,000人程度います(Eberhard et al., 2019a)。

しかしながら、エスペラントの話者人口は、公的に大規模な調査が行われたことがなく、前述の「話者人口約200万人」というデータもFacebook(エスペラントを使用言語として選択している人々)を基にした研究結果によるものであることから、実際にはさらに多くの話者がいると考えられています(Wandel, 2015)。

 

日本におけるエスペラントの可能性:バイリンガルの意義を考えるきっかけに

エスペラントは、文字がローマ字表記であること、語彙の大部分がヨーロッパの諸言語をベースにしていること、主語+動詞+目的語という文構造であることなどから、第一言語がエスペラントに近い人々とそうでない人々に分かれてしまいます。

日本語や中国語、アラビア語、ヒンディー語、ロシア語など、ローマ字を使用しない言語を話す人々もいます。

また、エスペラントの文法規則はインド・ヨーロッパ語族の系統に属する言語(ドイツ語やフランス語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語、ヒンディー語など)に近く、中国語やインドネシア語、日本語など東洋の言語とは遠いことがわかっており、語彙もフランス語や英語、ドイツ語を採用したものが大部分を占めます(水野, 1980)。

そのため、西欧諸国の人々のほうが非西欧諸国の人々よりもエスペラントを習得しやすい、という状況はどうしても避けられません。

世界で最も多くの人が話している言語は英語であり、話者人口は11億32,00万人(第二言語や第三言語として話す人々を含む)。

日本語は第13位で1億2800万人(Eberhard et al., 2019b)。これらに比べると、話者人口が約200万人と推測されるエスペラントは、世界的には少数派の言語であり、使用できる場面も限られます。

このような現状を考えると、西欧諸国の言語を話さない人々にとって、英語よりは学びやすいものの、自分の第一言語と共通点の少ない外国語であることに変わりないエスペラントを優先して学ぶことはあまり現実的ではないでしょう。

しかしながら、これまで何百もの言語が国際共通語として人工的に考案されてきていますが、唯一エスペラントのみが世界各国で実際に使い続けられている「生きた言語」です(Johns, 1938; Lieberman, 1979; 水野, 1980)。

そして、実は、世界エスペラント協会(世界最大のエスペラント話者・使用者の国際組織)の会員数の比較によって、日本は最もエスペラント話者人口が多い国であると推測されています(Eberhard et al., 2019a)。

日本エスペラント協会(世界エスペラント協会の日本代表団体)が毎年開催する国内最大のエスペラントに関する行事「日本エスペラント大会」は、2019年10月の埼玉開催で第106回目となりました。

文部科学省や地方自治体の後援を受けていることから、公的に認められている行事であることもわかります。

表|世界エスペラント協会会員数ランキング

出典:Eberhard et al. (2019a) ※IBS表作成

 

文部科学省(2017)によると、小学校の外国語活動や外国語科で取り扱う「外国語」は、「英語が世界で広くコミュニケーションの手段として用いられている実態」などを理由として、英語であることが原則として定められています。

また、「言語やその背景にある文化に対する理解」の「言語」とは、外国語と母語の両方を指しますが、実質的には英語と日本語のことです。

「文化」に関しても、「英語を使用している人々を中心とする世界の人々や日本人の日常生活、風俗習慣、物語、地理、歴史、伝統文化、自然など」、「我が国の文化や、英語の背景にある文化」などと説明されています。

つまり、基本的には「外国語」とは英語、「外国の文化」とは英語を話す人々の文化なのです。

しかしながら、以下の通り、小学校3・4年生の外国語活動においては、国際平和や国際貢献に関する道徳教育の指導も必要であることが新学習指導要領で言及されており、外国語学習においては、知識・技能のみならず、「心」を育てることも目標に含まれています。

 

「「外国語を通して、言語やその背景にある文化に対する理解を深める」ことは、世界の中の日本人としての自覚をもち、国際的視野に立って、世界の平和と人類の幸福に貢献することにつながるものである。また、「相手に配慮する」ことは、外国語の学習を通して、相手に配慮し受け入れる寛容の精神や平和・国際貢献などの精神を獲得し、多面的思考ができるような人材を育てることにつながる。」

出典:文部科学省(2017)

 

小学校5・6年生の外国語科の授業で取り扱う題材を選ぶ際の注意点として、「世界には英語以外の言語を話す人々も多い。そのことから、世界の人々を理解するには、英語以外の言語を使う人々の日常生活も取り上げることが大切である」と述べられており、英語や英語を話す人々のみに限らず、世界各地の多様な考え方への理解・寛容、柔軟な対応、公正な判断、相手の状況や立場への共感、といった「国際協調の精神」を養うことが目的とされているのです。(文部科学省, 2017)。

このような外国語学習と国際平和を目指す心や態度の関係性に着目する考え方は、エスペラントの理念と共通する部分があります。

文部科学省は、「英語以外の外国語教育の必要性をさらに明確にすること」を課題として認識しており、今後、英語以外の外国語や英語以外の言語を話す人々の文化を「なぜ知る必要があるのか」という点について議論されると推測されます。

その際、エスペラントやその歴史を学ぶことの価値について改めて注目が高まる可能性は十分にあります。

そして、エスペラントについて学ぶことは、英語を第一言語として話す人々も含め、世界中のすべての人々が二つ以上の言語を学ぶバイリンガルになることが国際平和を目指す一つの道であるという考え方にふれることであり、外国語学習と国際平和の関係性や、バイリンガルの意義について考えるきっかけになるのではないでしょうか。

 

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参考文献

Eberhard, D. M., Simons, G. F., and Fennig, C. D. (Eds.). (2019a). Esperanto. Ethnologue: Languages of the World. Twenty-second edition. Dallas, Texas: SIL International. Online version:

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https://www.ethnologue.com/language/epo

 

Eberhard, D. M., Simons, G. F., and Fennig, C. D. (Eds.). (2019b). What are the top 200 most spoken languages?. Ethnologue: Languages of the World. Twenty-second edition. Dallas, Texas: SIL International. Online version:

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Retrieved November 6, 2019, from

https://www.ethnologue.com/guides/ethnologue200

 

Hamann, F.A. (1928). THE PROGRESS OF ESPERANTO SINCE THE WORLD WAR. Modern Language Journal, 12(7), 545-552.

https://doi.org/10.1111/j.1540-4781.1928.tb02619.x

 

Heller, M. (2017). Dr. Esperanto, or Anthropology as Alternative Worlds. American Anthropologist, 119(1), 12-22.

https://doi.org/10.1111/aman.12824

 

Johns, A.E. (1938). Esperanto a Living Language. Modern Language Journal, 22(4), 285-290.

https://doi.org/10.1111/j.1540-4781.1938.tb02723.x

 

Lieberman, E.J. (1979). Esperanto and Trans-National Identity: The ase of Dr. Zamanhof. International Journal of the Sociology of Language, 1979(20), 89-107.

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文部科学省(2017).「【外国語活動・外国語編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解」. Retrieved November 13, 2019, from

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htm

 

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