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ワールドファミリーバイリンガルサイエンス研究所

日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2018.11.07

アジア諸国への「教育移住」増加から考える 親の異文化に対する姿勢の重要性

アジア諸国への「教育移住」増加から考える 親の異文化に対する姿勢の重要性

近年、子どもの教育のために親子や家族でアジア諸国へ移住する「教育移住」が増えているという報道が見られるようになりました。このような親の決断に対しては賛否両論ありますが、多言語・多文化環境を子どもに経験させることに価値を見出す親が増えているのです。そのような親の価値観は、子どものバイリンガル教育においてどのような影響があるのでしょうか。

 

 

「海外移住する家族=海外駐在員の家族」という時代ではなくなった

近年は、子どもの教育のために海外移住を検討する母親が増加しており、海外移住の目的が多様化していると言われています(週刊東洋経済, 2013)。外務省(2018)によると、2017年10月時点で海外に在留する日本人(旅行者などの3カ月未満の短期滞在者は除く)は、過去最多の約135万人になりました。5年間で約10万人増加し、増加率は男性よりも女性のほうが多い傾向にあります。女性の長期滞在者の場合、海外転勤の夫についてきた、いわゆる駐在員妻が減少傾向にある一方(以下グラフの「民間企業関係者の同居家族」参照)、自らの転勤や海外就職、フリーランスなど、現地で働く女性は例年増えています(以下グラフの「自由業関係者」、「民間企業関係者」参照)。

出典:外務省(2018)(海外在留邦人統計2008年〜2018年版の一部を抜粋しIBS作成)

※統計人口は各年度の前年10月1日時点

※海外在留邦人には「永住者」と「長期滞在者(3カ月以上の滞在者)」が含まれる。長期滞在者は、海外での生活は一時的なものであり、いずれは日本へ戻る予定の人を指す

※グラフ内の「海外で働く女性の人口」は、海外長期滞在者のうち「民間企業関係者」と「自由業関係者」を職業とする女性人口の合計

 

日本では、家族で海外へ移り住む、と聞くと、海外転勤がある企業に勤めている夫や父親の家庭をイメージする人が多いのではないでしょうか。しかしながら、海外で働きながら長期滞在する女性が増える傾向にあり、また、夫婦共働きが一般的になりつつある現状から考えても、夫の仕事に関わらず、母親が「子どもの教育のために海外へ移住する」という選択肢を検討しやすくなっている可能性があります。また、そのような母親からの相談に応じるサービスや企業が国内外に多数存在していることからも、教育移住への注目が高まっている様子が伺えます。

 

 

アジア圏への教育移住に注目が高まる

欧米諸国は、語学留学先としても、最新の教育が行われている国々としても、日本で広く知られています。しかしながら、近年は、欧米諸国ではなく、アジア諸国の現地校やインターナショナル・スクールに通う日本人小学生が増えており、この5年間で最も増加幅が大きかった地域はアジア(アジア:1.7倍、欧州:1.5倍、アフリカ:1.4倍、中東:1.2倍、大洋州:1.0倍、中南米:1.0倍、北米:0.9倍)でした(外務省, 2018)。では、なぜ、アジアなのでしょうか。

出典:外務省(2018)(海外在留法人統計2018年版をもとにIBS作成)

※統計人口は各年度の前年10月1日時点

 

アジアは、最も多くの日系企業(約7万6千拠点)が海外進出している地域です(外務省, 2018)。アジアで仕事をする日本人が増えれば、親の都合によりアジアの学校へ通う子どもが増えるでしょう。また、日系企業の多さは、日本人がアジアで仕事を見つけやすいということも意味し、子どもの教育のために親が仕事の拠点を海外に移すケースが増える可能性があります。

また、アジアの中でも、特にマレーシアはメディアによく取り上げられており、長期滞在する日本人が多い国のうち、この10年間で最も日本人が増えた国の一つです。シンガポールとの国境に隣接するマレーシア最南端のジョホール州は、マレーシア政府の「イスカンダール計画」というプロジェクトにより、2006年から大規模な都市開発が進んでいる地域。教育産業は開発の対象となっている分野の一つであり、海外の教育機関や海外留学生を積極的に誘致しています(IRDA,2016)。すでに、イギリスなどの名門大学の分校や、イギリス王室キャサリン妃の出身校として有名な全寮制インターナショナル・スクール「マルボロ・カレッジ」のマレーシア校(幼児から対象)などが設立され、日本でも話題になりました。マルボロ・カレッジによると、マレーシア校に通う生徒の多くをマレーシアやシンガポール出身者が占めますが、うち約4分の3は国外に住んでいた生徒たちであり、ほかにも日本や南アフリカ、サウジアラビア出身者もいます(Marlborough College Malaysia, 2018)。子どもの教育のためにアジア諸国へ移住した人口に関するデータは公表されていませんが、このような教育環境は、少なからず日本人の長期滞在者増加に影響しているのではないでしょうか。

出典:外務省(2018)(海外在留邦人統計2008年〜2018年版の一部を抜粋しIBS作成)

※統計人口は各年度の前年10月1日時点

 

尚、近年は、マレーシアに限らず、シンガポールやインドネシアなどのアジア諸国にも、イギリスをはじめとした欧米諸国の学校がいくつも進出しています。また、2008年にカナダ出身のジョン・ハーディ氏がバリ島に開設した「グリーン・スクール」は、大自然の中で環境保護や地域文化などを学ぶ世界最先端のインターナショナル・スクールとして一躍有名になりました。年間10,000人の学校見学訪問があり、この学校へ子どもを通わせるために、世界各国の家族がバリ島へ移住し、生徒たちの出身国は33カ国です(Green School Bali,2018)。英語圏への留学生のうち、2003年は、留学先の国が欧米諸国(イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)とアジア諸国(英語が公用語などの主流言語として話されている国)でほぼ半々でしたが、その後はアジア諸国への留学の割合のほうが多くなり、2020年には約7割を占めるようになると予測されています(IRDA, 2011)。

地図データ©2018 Google

 

 

多言語・多文化環境で育つことに価値が見出される教育移住 

教育移住先として人気のあるアジア諸国は、物価の安さや治安の良さなど、ほかにもさまざまな要因が考えられますが、日本人にとって最も注目されているポイントは、同じアジア圏という親近感がありながらも、歴史的に日本よりもはるかに多様な言語や民族、文化が共存してきた社会環境や、多くの人々が母語を維持しながら第二言語としての英語、つまりコミュニケーションの手段としての英語を日本よりも日常的に使う場面を経験できることではないでしょうか。以下の資料が示す通り、近年日本人の長期滞在者が増加しているアジア諸国と比較すると、日本は圧倒的に使用言語の数が少ない国です。

※出典:Simons et al (2018)(Ethnologue資料をもとにIBS作成)

 

一方、例えばマレーシアでは、かつてのイギリス植民地時代は多くの学校の授業が英語で行われており、独立後は国語及び公用語であるマレーシア語と英語の両方で教える時期もありました。現在は、マレーシア語で教える学校が多いものの、中国語やタミール語、英語で教える学校もあります。マレーシアの子どもたちは、未就学児(5〜6歳)のころから英語を学び、英語は「外国語」ではなく「第二言語」として小学1年生から必修科目です(Azman, 2016)。国民としてさまざまな民族を抱えるマレーシアは、国家統一のシンボルとしてのマレーシア語、国際的に重要性が増す英語、さらには民族のアイデンティティである母語をどのように子どもたちに教育するべきか試行錯誤を重ねながら多くの教育改革を行ってきており、その試みはいまも続いています。日本は母語も国語も民族も一つというイメージをもつ人が多い日本人にとっては、特に、母語と英語の両方に大事にするバイリンガルに育てたいと願う家庭にとっては、マレーシアのような多言語・多文化環境で育つことはとても重要な経験になることでしょう。

2018年5月の日本経済新聞には、英語を本場で学ばせるために英語圏へ教育移住するのではなく、異文化理解を学ばせるために多民族国家へ教育移住するケースが増える可能性が伺える取材記事が掲載されました。この記事では、多民族国家であるシンガポールへ移住して4年が経過した親子の体験談が紹介されています。現地の高校に通う娘は、日本人の歴史認識について中国人の生徒から批判的な意見を言われてショックを受けたものの「日本の歴史を勉強しよう」という意識をもったと語っており、そして、そのような娘の様子を見た母親は「一番の収穫は子どもが多様性に触れられたこと」とシンガポール移住の意義について話しています(高尾, 2018)。

世界中の英語使用者のうち、英語のネイティブ・スピーカーはわずか3割程度であり、そのほかは英語を第二言語として使うバイリンガルです(Simons et al, 2018)。将来、日本人の子どもたちが英語を使ってコミュニケーションをとる相手は、イギリス人やアメリカ人などではなく、英語を母語としない非欧米諸国の人々である可能性のほうが高いでしょう。このような現状を認識している親であれば、イギリスやアメリカではなく、英語を第二言語として使用する人が多いアジア諸国を教育移住先として選ぶことは自然なことです。

 

 

異文化に対する親の姿勢は子どもに影響する

日本経済新聞で紹介された親子の体験談で何よりも興味深い点は、娘の異文化体験に対する母親の反応です。親によっては、子どもから同じ体験談を聞いたときに「やはり中国人は……」、「異文化での生活は大変だ」というような偏見やネガティブな反応を示す場合がありますが、この母親は「視野を広げてくれたことがうれしかった」とポジティブに捉えています。娘である女子高校生の語学学習意欲や習得レベルについては新聞記事で明らかにされていませんが、日本と中国における歴史認識の違いについて勉強したうえで中国人と対話したいと考えていること、その対話の手段として英語を学ぼうとすることは容易に想像できます。このように、異文化や多様性に対して肯定的な親の姿勢は、子どもの考え方に影響し、さらには語学学習意欲を高めることに繋がるのかもしれません。

第二言語の習得においては、その言語を話す人々と交流する機会が少ない場合、その文化(例:芸術や文学など)に対する興味や肯定的な印象が学習意欲に結びつき、異文化に対する態度は、地域社会や学校のほか、家庭からも影響を受けます(Ortega, 2009)。また、言語心理学の分野では、子どもが言語を学ぶとき、親の役割は以下の二つがあると言われています(中島, 2016)。

 

  1. 1.その言語を学ぶことを促す親の言葉や行動(例:「勉強しなさい」と声をかける)
  2. 2.その言語や文化に対して親が無意識にもっている価値観

 

さらに、ある研究(藤生, 2005)によると、親の「言語を学んでほしい」という期待や「家庭ではこの言語を使う」という方針よりも、「文化を体験してほしい」という親の姿勢のほうが子どもの語学学習意欲に影響を与える可能性があります。この研究論文では、「親の文化的態度は肯定的にも否定的にも子供に影響を与えていることが観察された」と報告されました。アメリカに在住する3つの日本人家庭(各家庭の子ども計3名は7〜9歳であり、うち2名はアメリカ生まれ、1名は3歳時にアメリカへ移住)を対象に調査した研究ではありますが、著者は「言語学習は文化を経験することもその重要な要素として含まれている」と述べており、学業成績ではなく文化体験を重視する親の子どもは、その言語と関連する文化(例:日本語であれば、日本食や温泉、日本語を話す友人など)についての楽しい思い出やうれしい出来事を体験しており、それが言語の学習意欲に繋がっていると分析しています(藤生, 2005)。

つまり、日本人の子どもが英語を習得する際、英語を話す人々やその文化に対して実体験を通じて肯定的なイメージをもつことは学習意欲に繋がる動機の一つとして重要であり、そのような子どもの態度には親の価値観が影響するのです。例えば、イギリスの音楽が好きな親をもつ子どもは、小さいころからイギリス音楽を聞いて育ったことにより、英語へ親近感をもっていたり、英語を学びたいと思ったりするようになる、というようなケース が当てはまります。

さらに、世界中の英語使用者のうち、英語のネイティブ・スピーカーではない人が多数派であることを認識し、英語を母語とする人々の文化のみでなく、日本語・日本文化を含む、あらゆる言語や文化に対して肯定的な見方をする親であれば、子どもに多言語・多文化環境を経験させたいと考えることでしょう。そして、多様な言語・文化にふれて育った子どもは、それらを背景にもつ人々とコミュニケーションをとる手段として英語を捉え、英語のネイティブ・スピーカーになるための学習ではなく、英語を第二言語として使用できるようになるための学習をする意欲へと繋がるのではないでしょうか。つまり、非欧米諸国への教育移住を経験した子どもは、親の価値観の影響により、日本のみで育った子どもや欧米諸国へ教育移住した子どもと比べて、母語である日本語と英語の両方を重要視するバイリンガルに育ちやすい可能性が十分にあります。

近年は、家庭での英語環境づくり、日本でのインターナショナル・スクール通学、欧米諸国への留学、とバイリンガル教育の方法にはさまざまな選択肢があります。その中、アジアなど多民族国家への教育移住には、前述のように、日本や英語圏の欧米諸国にはない貴重な価値が見出されます。しかしながら、どの方法を選ぶか、どの学校へ行くか、どの国で生活するか、ということの前に、日本文化や異文化に対する親の姿勢を検討するべきなのかもしれません。「二つの言語を話せるようになってほしい」という期待よりも、「二つの言語を話せるようになりたい」、「二つの言語を話せることを誇りに思う」と子どもが感じるような文化体験のほうが学習意欲に繋がり、そのような体験ができる環境づくりや異文化体験の捉え方は、子どもの年齢が低いほど親の影響力が大きいのです。

まずは、親が日本文化と異文化の両方に興味をもち、その違いを楽しむ姿を子どもに見せる。そして、子どもにも体験させてみる。子どもは、その多様な文化を知るために、それらの文化の人々と会話をするためにさまざまな言語を学びたいと感じる。実は、このようなシンプルなことから、「バイリンガル教育」は始まるのかもしれません。

 

参考文献

Azman, H. (2016). Implementation and Challenges of English Language Education Reform in Malaysian Primary Schools. 3L: The Southeast Asian Journal of English Language Studies. 22(3): 65-78. The National University of Malaysia. http://doi.org/10.17576/3L-2016-2203-05(2018年10月アクセス).

Green School Bali (2018). 2016/17 ANNUAL REPORT.  https://www.greenschool.org/wp-content/uploads/2018/02/Green-School-Annual-Report-2016-17.pdf(2018年10月アクセス).

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IRDA(Iskandar Regional Development Authority)(2016). INSKANDAR MALAYSIA. http://iskandarmalaysia.com.my(2018年9月アクセス).

Marlborough College Malaysia (2018). Why Marlborough College Malaysia? : International Outlook. http://www.marlboroughcollegemalaysia.org/portfolio/international-outlook/(2018年10月アクセス).

Ortega, L. (2009). Understanding Second Language Acquisition. London: Hodder Education.

Simons, G.F. and Fenning, C.D. (eds.) (2018). Ethnologue: Languages of the World, Twenty-first edition. Dallas, Texas: SIL International. Online version: http://www.ethnologue.com(2018年10月アクセス).

外務省(2018).「海外在留邦人数調査統計」. https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000043.html(2018年9月アクセス).

週刊東洋経済編集部(2013).「増える海外移住「脱ニッポンという選択」:アジアで暮らす日本人が増加中」. 週刊東洋経済オンライン. https://toyokeizai.net/articles/-/12759(2018年9月アクセス).

高尾泰朗(2018).「語学力より異文化理解 自動翻訳、世界を一つに –ポスト平成の未来学 第7部 切り開く教育」. 日本経済新聞電子版(2018年5月24日). 日経テレコン.

中島和子(2016).「完全改訂版 バイリンガル教育の方法」. 東京:アルク.

藤生始子(2005).「バイリンガル児童の文化的アイデンティティ:親の文化的態度との関わり」.『福岡女学院大学紀要・人文学部編』. 15: 83-120.

http://hdl.handle.net/11470/452(2018年10月アクセス).

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