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2021.12.23

「リンガフランカとしての英語」を意識した英語教育を 〜東京工業大学 木村准教授インタビュー(前編)〜

「リンガフランカとしての英語」を意識した英語教育を 〜東京工業大学 木村准教授インタビュー(前編)〜

英語は、英語圏だけではなく、世界のさまざまな国で共通語として使われるようになってきました。しかし、日本の英語学習者の多くは、英語圏のネイティブ・スピーカーのように話せるようになることを理想としており、日本人が英語力に自信をもてない理由の一つになっています。

そこで今回は、東京工業大学の木村准教授にお話を伺い、「リンガフランカ(共通語)としての英語」という考え方やそこから示唆される英語教育のあり方について紹介します。

 

「リンガフランカとしての英語」とは?

―先生は「リンガフランカとしての英語(ELF)」に注目して研究されていると思いますが、「外国語としての英語(EFL)」、「第二言語としての英語(ESL)」などとはどのように違うのでしょうか?

「リンガフランカとしての英語」、「外国語としての英語」、「第二言語としての英語」は、それぞれ前提となっている社会的背景がまったく異なります。

英語学習を取り巻く社会環境が変化してきたので、それに応じて、こういったいろいろなコンセプトが生まれてきた、というふうに見ることもできます。

まず、「外国語としての英語」は、English as a Foreign Language(EFL)ですので、学習者を「部外者」として見るイメージが伴います。英語はネイティブ・スピーカーのものであり、それ以外の人々が英語を借りて使っている、という考え方ですね。

学習の目的は、ネイティブ・スピーカーと円滑にコミュニケーションをとることです。国際化とか、ノン・ネイティブ・スピーカー同士のコミュニケーションといったことはあまり想定されていません。

教科書なども、特定のネイティブ・スピーカーの英語を普遍的な規範としています。

 

―「第二言語としての英語(ESL)」との違いについては、いかがでしょうか?

「第二言語としての英語」は、いわゆる「英語圏」と呼ばれる国々の中で生まれた概念ですね。元々は、移民の同化政策の一部として考えることができると思います。社会のマイノリティである移民の人たちは、家庭では英語以外の言語を話している。でも、マジョリティの社会に参加するために、第二言語として英語を学んで使用する。

ただ、もっとニュートラルな意味合いで使われる場合もあります。第一言語として学んだ言語のあとに学んだ言語、という意味です。この意味では、「外国語としての英語」は「第二言語としての英語」に含まれる、という学術的な定義もあります。

「第二言語としての英語」は、English as a Second Language(ESL)ですが、「second(二つ目の)」は「foreign(外国の)」よりもニュートラルな言葉ですので、「外国語としての英語」よりも広く使われるようになってきたと思います。

 

―では、「リンガフランカとしての英語(ELF)」とは、具体的に英語をどのように捉えている考え方なのでしょうか?

「リンガフランカとしての英語(English as a Lingua Franca/ELF)」は、90年代の後半ごろから使われ始めたことばです。その背景には、国際化やインターネットの普及、経済の自由化、他国間における人や情報、文化の移動が日常化した、といったことがあります。

「リンガフランカとしての英語」は、英語学習者や英語使用者をネイティブ・スピーカーと比較せずに、実際のやりとりをありのままに観察・分析し、そこから英語教育に対する示唆を得ようとする、という点で、「第二言語としての英語」の考え方と大きく違います。

一般的に、英語学習者を「ノン・ネイティブ・スピーカー」と表現することがありますが、これには、不完全さ、劣等性、といった否定的な意味合いがあります。しかし、「リンガフランカとしての英語」の観点から見ると、英語学習者は「英語使用者」です。言語的バックグラウンドの異なる人同士がやりとりをする際には、既存の知識を使うだけではなく、相手と柔軟に協働することが必要です。どのように話せばわかりやすいだろうか、と考えたり、多言語環境であれば英語だけに捉われずにほかの言語も吸収したり、といった姿勢が重要になってきます。

 

―「リンガフランカとしての英語」のコンセプトでは、英語を使う人々はネイティブかそうでないかにかかわらず、お互いにコミュニケーションの努力をすることが重要なのですね。

はい。「リンガフランカとしての英語」の観点から英語を考えると、もはや、ネイティブ・スピーカーとノン・ネイティブ・スピーカーの区別が生産的ではないんです。

グローバル化の文脈においては、誰しもが英語使用者であり、英語学習者であり、常に学び続け、自分の英語力を向上させていかなければならない、という考え方が「リンガフランカとしての英語」です。

ネイティブ・スピーカーも例外ではありません。ネイティブであっても学び続けなければいけないし、ノン・ネイティブであっても学び続けなければならないし、お互いに歩み寄って学び合い、コミュニケーションを成立させる、ということが重要です。

 

―ネイティブ・スピーカーも学ばなければならない、という考え方は新鮮ですね。

「リンガフランカとしての英語」では、コミュニケーションを成立させることが重要です。ネイティブ・スピーカーはもちろん言語知識をたくさん持っていると思いますが、普段の家庭や学校、地域での話し方をそのまま国際的な場面に持ち込んでコミュニケーションをとろうとしても、うまくいきません。「外国語としての英語」の考え方では、この場合、理解できなかったノン・ネイティブが悪い、ということになりますね。

でも、「リンガフランカとしての英語」の考え方では違います。国際的な場面は、自分の国とは異なります。何か共通の目的のためにコミュニケーションを成立させなければいけません。

ですから、ネイティブがノン・ネイティブと話すときには、例えば、イディオムやスラングなどの使用に気をつけなければいけませんし、相手の様子を見ながら自分の言いたいことが伝わっているか確認したり、伝わっていなければほかの方法を試してみたりすることが必要です。

英語だけにとどまらず、コミュニケーション全般に言えることですが、ネイティブ・スピーカーも自分のことばを調整しなければいけませんね。

また、「リンガフランカとしての英語」を使う人たちは、ほとんどが多言語話者です。ですから、英語以外の言語を学ぶ、という姿勢も必要です。

 

―「外国語としての英語」は、目指すべき姿がネイティブ・スピーカーなので、とてもわかりやすいですね。「リンガフランカとしての英語」の場合は、どういう姿を目標とするのでしょうか?

「リンガフランカとしての英語」の考え方を追求していくと、特定の言語規範、つまり、決まったモデルだけでは不十分でコミュニケーションは成立しない、ということになります。

「外国語としての英語」のように、「これを学んでテストを受け、基準以上の成績をとれれば英語ができる」ということは言えません。「これを覚えれば、あなたはリンガフランカとしての英語をマスターできます」ということも言えません。ですから、「リンガフランカとしての英語」モデルの指導法を確立させることは難しいですね。

ただ、私は、既存の英語教育と「リンガフランカとしての英語」の考え方が共存していくのが一番現実的なのではないかと思っています。やはり、目指すべき規範がまったくないとなると、先生も学習者も、何を教えているのか、何を学んでいるのかがわからなくて不安になります。

ですから、従来の規範(言語知識)を教えながらも、実際のコミュニケーションは規範通りに進むものではない、コミュニケーションとは相手と一緒に組み立てていくものである、という「リンガフランカとしての英語」の考え方をしっかり伝えたり体験させたりすることが必要なのではないかと思います。

 

―「リンガフランカとしての英語」という分野の研究は、どのような地域で生まれたのでしょうか?

「リンガフランカとしての英語」の研究分野を生み出した有名な女性の研究者が3名いるのですが、主にヨーロッパを中心に発展し、アジア圏の研究者も貢献してきた分野ですね。EUやASEANといった複数の国の共同体が生まれたり、国と国の間の移動が盛んになってきたりしたことにより、英語が共通語(リンガフランカ)として使われる場面が多くなってきた、ということが背景にあると思います。

実は、アメリカでは「リンガフランカとしての英語」の考え方はあまり受け入れられていないのですが、最近では、応用言語学の分野で、「リンガフランカとしての英語」は理論的に重要な示唆がある、と認識されるようになってきました。

 

―ヨーロッパやアジアで生まれ、その後はどのように発展してきたのでしょうか?

1990年代から生まれたこの分野は、この20年ちょっとで3段階の発展があったと言われています。

初期のころは、「リンガフランカとしての英語」を「言語」として研究する傾向がありました。共通語として使われている英語の言語的性質(例:文法や発音の特徴)を見つけようする研究ですね。当時は、「世界の英語(World Englishes)」という考え方が勢いをもっており、インド英語やシンガポール英語の特徴を記述しようとする研究がありましたので、その影響も大きいと思います。ただ、「リンガフランカとしての英語」は、使う人も使われる場面も多様なので、「リンガフランカとしての英語」の言語的な特徴を見つけることは難しいということがわかっていきました。

2000年代後半になると、コミュニケーションをわかりやすくするためのプロセスや方略にはどういったものがあるのか、ということに焦点を当てた研究が出てきました。

そして、最近は、独立した「リンガフランカとしての英語」ではなく、「多言語の中の英語」という見方に焦点が変わってきています。

共通語としての英語を話す人たちは多言語話者でもあるので、実際のコミュニケーションを観察してみると、けっこう英語以外の言語も混ざっています。例えば、タイに留学した日本人の学生は、タイ人の学生と基本的には英語で話すものの、お互いの言語を教え合ったりする。教え合うときにも、英語ではなく、日本語やタイ語を使う。ですから、場面によって使用言語が変わってくるんですね。

従来は、「英語」という個別の言語を起点にして考えていましたが、いまは、コミュニケーションの中で英語やそのほかの言語がどのように使われていて、どのような役割を果たしているのか、英語からほかの言語に切り替えることで何をしているのか、といったことを解明しようとする研究が増えてきています。

 

後編へ続きます

 

【取材協力】

木村 大輔准教授(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院)

木村 大輔准教授(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院)のお写真

<プロフィール>

専門は、社会言語学や応用言語学。ペンシルバニア州立大学 応用言語学研究科博士課程を修了後、東京大学 グローバルコミュニケーション研究センター特任講師を経て、2020年4月より現職。異文化コミュニケーション、留学、共通語としての英語、マルチリンガリズムなどをテーマとした研究を行い、国際学会での発表や論文投稿によって国内外に広く研究成果を報告している。

 

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