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2022.01.05

「リンガフランカとしての英語」を意識した英語教育を 〜東京工業大学 木村准教授インタビュー(後編)〜

「リンガフランカとしての英語」を意識した英語教育を 〜東京工業大学 木村准教授インタビュー(後編)〜

東京工業大学 木村准教授への取材記事後編です。

※写真は木村准教授がペンシルバニア州立大学 応用言語学研究科の博士課程に在学中のものです。

【目次】

 

 

非英語圏での留学によって「ネイティブ信仰」から脱却できる可能性

―先生は、どのようなきっかけ・理由で「リンガフランカとしての英語」に関心をもたれたのでしょうか?

学部生時代にタイに1年間留学して、EMI(English-Medium Instruction/英語で開講されている授業)のプログラムに在籍していました。そこで、たくさんの学びや気づきがあって、「リンガフランカとしての英語」に興味をもち始めました。

大学では英語教育を専攻していたのですが、家族や知り合いからは「英語専攻なのに、なぜタイに行くの?」と何度も出発前に聞かれました。英語の本場は英語圏、というイメージがあったからだと思いますが、当時の私は「英語は国際語なのだから、どの国に行っても英語は上達するだろう」と思っていました。

実際に行ってみると、「英語は国際語」という認識は違っていたことに気づきました。キャンパスから一歩外に出れば英語は全然通じないですし、タイ人が話す英語にはタイ語独特の特徴がありました。そんな状況の中で、英語は有用なリソースだけれど、多言語環境においては常に英語以外の言語も学び続けなければいけないこと、さまざまな言語を駆使しながらコミュニケーションを図らなければならないことを肌で感じたんです。

それから、ほかの国から来た留学生と一緒に英語で授業を受けたり、友人関係を築いたりするなかで、いままで学校の授業で教わってきた、ネイティブ・スピーカーの英語を規範とした「外国語」だった英語が、徐々に自分の生活の一部として身近になっていきました。

そして、現地の学生と交流したり、現地の日系企業でインターンシップをしたり、いろいろな多言語の環境で生活をしていくうちに、そこで必要とされる能力と、これまで受けてきた英語教育の乖離を実感するようになりました。その後、「リンガフランカとしての英語」という研究分野があることを知り、大学院で研究を始めました。

ですから、タイに留学したことは私の人生のターニング・ポイントでしたね。

 

―先生は、タイへの語学留学生を対象にした研究を行っていらっしゃいますね。どのような手法で研究しているのでしょうか?

非英語圏での留学に関する研究は、日本で増えてきていますし、これから研究分野として伸びてくると思います。

私は、主に、定期的なインタビューや、留学生のやりとりを録画した映像の分析を行って、留学生が日々どのような人と関わり、どのように言語を使用して何を学んでいるのか、といったことを研究しています。

留学で一番重要なことは、教室内での学びではなく、教室の外で何をしているかだと思うんです。かなり広範囲の観察が必要となるので、留学前と留学後を比較して、留学した人はこういう面が成長した、というような、一般的な科学的研究はなかなか難しいので、ケーススタディ的な手法を用いて研究しています。

ケーススタディですから、全員にこれが当てはまります、という研究結果を出すことは難しいのですが、こういったケースを積み上げていって、留学の前後の変化を見る研究と並行して考察することで、非英語圏での留学に関する知見を集積して、今後の留学支援に活かしたいと考えています。

 

―タイでの留学生に関する研究では、どのようなことがわかりましたか?

非英語圏での留学は、どの学生にも安易に勧めるべきではない、ということです。

やはりネイティブ・スピーカーの英語を理想とする「ネイティブ信仰」が根強い学生はたくさんいます。それは、いままでの英語教育の結果なので、今後どのように変えていけるかという課題ですね。

そのような考え方を持ったまま非英語圏に留学すると、「自分が学びたいのはこんな英語ではない」というネガティブなリアクションをとることになります。

私の研究に参加してくれたある学生は、経済的な理由でタイに留学したのですが、共通語としての英語を使う機会は身の回りにたくさんあったにもかかわらず、それらを拒絶してしまい、自分のアパートに引きこもってYouTubeでアメリカの動画を見て英語を勉強していました。

ですから、「英語とは何か」という英語観、そして、なぜ非英語圏へ留学するのか、ということをしっかり考えて明確な目標をもたないと、とても残念な結果になってしまう、ということがわかりましたね。

英語に対する考え方は、個人によってさまざまです。自分にとって英語は何なのか、自分はなぜ英語を学習しているのか、英語を使って何をしたいのか、ということを考えさせることも英語教育の重要な役割だと思いました。

 

―「自分が学びたい英語ではない」と心を閉ざしてしまうのですね。英語が得意な学生の場合は、いかがでしょうか?

自分は英語が得意だと思っている学生は、「タイ人の学生の発音はわからない。自分はアメリカ英語の発音ができるから、コミュニケーションがとれないのはタイ人のせいだ」というふうに、コミュニケーションがうまくいかない理由を相手のせいにしがちである、ということもわかりました。

これは、ネイティブ・スピーカーにもよく見られる傾向です。「自分は英語ができるのに、相手が自分の英語を理解できないのは相手のせいだ」、「相手の英語を自分が理解できないのは、相手のせいだ」というふうに考えるんですね。

こういうパターンもあるので、非英語圏での留学をうまく活用するには、「英語」というものとしっかり向き合うことが必要だと思います。

 

―非英語圏への留学だからこそ得られる体験はあるでしょうか?

非英語圏は、多言語の環境である、ということが大きなメリットだと思います。アメリカやイギリスも多言語環境ではありますが、常に英語以外の言語にも触れながら英語を使っていく、という環境ではないですよね。

それから、ノン・ネイティブ・スピーカー同士だから分かり合えることがある、という点もすごく重要だと思います。英語を話す際の苦労や、ネイティブ・スピーカーと話すときの緊張感などの気持ちを共有しながら英語を日々使っていく、という体験は貴重です。

アメリカ留学では、せっかくアメリカに行ったのに、ほかの留学生と一緒にESL(第二言語としての英語)の授業を受けるだけで、現地の人と話す機会が全然なかった、という話はよく聞きます。現地の人と関わりをもちたくても躊躇してしまったりするようですが、非英語圏であれば、そういうためらいも少し緩和されるかなと思います。

また、非英語圏で英語を使って授業を行うEMI(English-Medium Instruction)プログラムは、ネイティブ・スピーカーの学生にとっても有益だと思います。英語のネイティブ・スピーカーがタイに来た場合、その人はタイの社会の中では「部外者」です。タイに留学している日本人学生も同じですよね。この「部外者」という同じアイデンティティを持っている人同士だからこそ、ネイティブ・スピーカーとノン・ネイティブ・スピーカーが人間関係を築きやすい、ということもあります。

ネイティブかノン・ネイティブかといった垣根を越えて、いろいろな国・地域から来ている人たちが一緒に学び、英語を軸としてさまざまな言語でコミュニケーションを図る。このような経験はとても有益なのではないかと思います。

それから、非英語圏は、アジアなど、場所によっては経済的に行きやすい、という側面もありますので、留学先の選択肢として考慮する価値は十分にあると思います。

 

―すると、非英語圏への留学によって、英語に対する考え方はやはり変化するでしょうか?

実際に変化した学生もいますね。最初は、ネイティブ・スピーカーみたいに話せるようになりたい、といった考え方を持っていたのですが、いろいろな国の留学生と交流するうちに、英語に対する考え方が変わっていきました。

英語は道具、英語はツール、ということばはもう言い古されていますが、実際に本当の意味で英語をツールとして使うのであれば、自分なりに試行錯誤しながら自分の使い方を見つけていかないといけないと思います。

そういう体験を通じて、英語との向き合い方が変わったというケースはたくさんあります。もちろん必ずこういうことが起きるわけではないので、そこをどうサポートするかは課題ですね。

留学は、ブラックボックス的なところがあると思うんです。留学に送り出したら、もうそこで送り出す側の仕事は終わりで、なんだかよくわからないけれど1年後英語がうまくなったね、というような感じですよね。ですから、留学に行っている間に、英語に対する気づきをどのようにサポートするか、ということは課題だと思っています。

 

―先生のご研究からは、理想的な語学留学のあり方はどのようなものだと言えるでしょうか?

まず、留学だけを切り取って考えるのではなく、小学校から始まる英語教育の流れの中の一部として留学を考える必要があると思いますね。早い段階からいろいろな英語に触れさせて、いろいろな場面でできる限り英語を使う機会を与えて、英語に対する姿勢を涵養していくことが大切だと思います。

そして、同じ国に留学しても、そこで何を体験して帰ってくるかは一人ひとり異なります。

留学先では、多くのエネルギーがいるとは思いますが、新しい人間関係やコミュニティを構築して、限られた時間の中で現地でしか体験できないことにチャレンジしてほしいですね。現地で考えたことや気づいたことを定期的に書き留めて、自分の中の変化を記録しておくことも重要です。

いまはどこにいてもインターネットを使って家族や友だちと簡単につながることができるので、精神衛生上は良いことなのだと思いますが、言語学習にとっては必ずしも良いとは言えません。

そして、もし非英語圏に留学するのであれば、なぜ行くのか、何を達成したいのか、といったことをしっかり考えさせる必要があると思います。

 

―留学するとなると、留学先の国をどこにするか、どの大学のプログラムにするか、といったことに注意がいきがちですが、現地でどのような対人関係をつくるか、ということが留学の成果には大きく影響するでしょうか?

はい、現地での対人関係はとても重要で、最近の留学研究でも明らかになっています。留学生の経験や成果を形づくるコンテクストは、「国」ではなく「対人関係」であると言われています。

そのため、言語だけに捉われずに、その人の人格や趣味、特技、現地における出身国の文化の認知度なども分析するようになってきています。例えば、日本人がタイに行くということは、現地でとても友好的に受け取られることが多いです。そういうことが現地での対人関係づくりに影響することがありますね。

ですから、対人関係こそが留学を成功させる鍵なのではないかと思っています。

 

日本の英語教育における「リンガフランカとしての英語」

―日本の英語教師にとって、「リンガフランカとしての英語」という考え方はどのように重要でしょうか?その考え方をどのように指導に活かすことができるでしょうか?

まず、ノン・ネイティブ・スピーカーはネイティブ・スピーカーの3倍くらいいると言われている現在の社会状況では、ほとんどの英語学習者にとって、英語を使用する場面というのは、「共通語としての英語」を使う場面である、ということを前提として考える必要があると思います。

指導法としては、多様で現実的な英語に触れさせたり、英語を使う機会を設けたりすることが重要ですね。そして、教科書で学んだことと実際のコミュニケーションはどのように違ったか、その違いによってコミュニケーションに悪影響があったか、逆にその違いがコミュニケーションを円滑にすることはあったか、ということを問いかけて、自分の英語を振り返らせることも必要です。

もちろん文法なども教えますが、何かタスクを与えることで、言語のルールを学ぶだけではなく、言語を使って何かをする、という活動をたくさん取り入れるといいと思います。このようなタスクベースの授業は数多く実践されていると思いますので、これをより充実させていく、ということですね。

 

―「リンガフランカとしての英語」の考え方を取り入れた英語教育は、教科書で学んだことと実際のコミュニケーションの違いに気づかせる教育である、とも言えますね。

そうですね。英語の指導法については、急激な変化を求めるのは現実的ではないと思います。英語の試験や社会の認識なども変わっていかないといけませんので、教室の活動だけ「リンガフランカとしての英語」にして、試験はネイティブ・スピーカーの規範に従ったもの、というふうでは、教師も学習者も混乱します。

ですから、「リンガフランカとしての英語」を教えるのではなく、「リンガフランカとしての英語」を意識した英語教育、つまり、「ELF Aware Teaching」といったものが必要なのではないかと思います。

既存の英語教育の枠組みの中で、「リンガフランカとしての英語」の役割やコミュニケーションとはどういうものか、といったことを学生に気づかせていくような教育ですね。

異なる言語間、異なる文化間のコミュニケーションというものは、不確定な要素が多いですし、既存の規範(言語知識)だけでは成立しないので、「私はこれだけ英語を学んだからもう十分だ」ということではなく、いろいろなことを吸収して常に学び続けていく必要があること、教科書に載っていることがすべてではないことを認識させるようにしなければなりません。

それから、ノン・ネイティブ・スピーカーであっても、英語を使って活躍している人はたくさんいますよね。そのような人の英語を聞かせてみるのも、「リンガフランカとしての英語」に気づかせるきっかけになります。

このように、既存の英語教育の枠組みの中でも、「リンガフランカとしての英語」の考え方を取り入れる方法はたくさんあると思います。最近は日本でも英語を使う機会が増えてきましたから、教室や教科書での学びと、教室の外での実際のコミュニケーション経験を結びつけて気づきを与えることは、教師の重要な役割だと思います。

玉川大学(東京都)にはELF(English as a Lingua Franca)センターがあって、「リンガフランカとしての英語」の考え方を基にした英語教育のプログラムを全学で実践しています。今後、実践例やカリキュラムが増えてくると、教員の方々も「リンガフランカとしての英語」を授業に取り入れやすくなるのではないでしょうか。

 

―いまは小学5・6年生から英語が教科として教えられるようになりました。これから英語を学習する子どもたちにとって、どのような考え方や体験が重要でしょうか?

英語に対する考え方は、一旦固まってしまうとなかなか変えることは難しいです。もちろん無理ではないですが、大学生になってから急に変えようとするのではなく、もっと早い段階からいろいろな英語に触れさせる経験をさせたいですね。そういう意味では、早期英語教育は重要になってくるのではないでしょうか。

いろいろな経験をさせる中で、教師が仲介役となって、経験の振り返りや問いかけをすることが重要です。

地域に住んでいる外国人の方を学校にお招きする、という取り組みは以前からあると思いますが、教師は、「英語の授業だからネイティブ・スピーカーを呼ばなければ」と考えるのではなく、いろいろな英語に触れさせて、英語について考える機会を与えてあげてほしいですね。幸い、日本にも外国人の方はたくさんいますし、そういう機会をつくるのはさほど難しくないのではないでしょうか。

先生が「英語のお手本=ネイティブ・スピーカー」という考え方だと、それは子どもたちにも刷り込まれていくと思います。私が高校生のときは、英語の先生は英語に自信がなかったようで、自分で英語の教科書を読むことは一切せず、すべてテープの音声を使っていました。ネイティブ信仰の考え方はとても根深いですから、時間をかけて変えていく必要がありますね。

 

―すると、英語教師の教員養成課程で「リンガフランカとしての英語」の考え方について学ぶことも重要でしょうか?

そうですね。「リンガフランカとしての英語」の研究分野でも、まずは教員養成が重要だと言われています。「ELF Aware Teacher Training(リンガフランカとしての英語を意識した指導法のトレーニング)」は、最近大きなトピックになっています。

ですから、まずはできる範囲で、教員養成の中に「リンガフランカとしての英語」の考え方を組み込んでいくことはとても重要です。

そのためには、国のカリキュラムを変えるような働きも必要でしょうし、教員一人ひとりが既存のカリキュラムの中で「リンガフランカとしての英語」の考え方を取り入れる、という草の根的な取り組みも重要だろうと思います。

 

おわりに:早くから「リンガフランカとしての英語」を意識する必要性

「言語」ということ以前に、「コミュニケーション」が重要である、と話す木村教授。「リンガフランカとしての英語」を突き詰めていくと、いずれは、「英語」の授業というよりも、「Language Awareness(言語に対する意識)」の授業を学校で行う必要があるのではないか、という考え方もあるそうです。

「英語」や「日本語」といった個別の言語に囚われるのではなく、言語はどういうふうに使われていて、どのようにコミュニケーションが成立しているのか、といった、より広い視点での「言語」を教えることで、言語を学び続ける姿勢を養うことができる、という考え方です。

確かに、異なる言語を話す人同士がコミュニケーションを成立させようとする際には、英語なのか日本語なのかタイ語なのか、といった「どの言語か」といったこと以上に、持ち合わせている言語知識をフル活用することを意識し、そして、相手の理解度を確認しながら、ときには相手の言語も学びながら意思疎通を図ろうとします。

グローバル化が進むなか、英語は世界の共通語になりつつありますが、英語以外にも、多様な言語に触れる機会が増えています。そして、英語は、いわゆる英語のネイティブ・スピーカーではなく、そのような多言語話者が第二言語、第三言語として使っているケースが圧倒的に多いのです。

このような多言語社会では、「ネイティブ・スピーカーの英語」のみを理想としていては、どれだけ英語を学んだとしても、どのような国に留学したとしても、相手に理解してもらおうという姿勢、相手を理解しようとする姿勢、すなわち、国際的な場面で必要とされる真のコミュニケーション能力を養うことは難しいでしょう。

英語に触れるのは早ければ早いほうがよい、とよく言われますが、ただ早ければいいということではなく、「多様な英語に触れる」、「リンガフランカとしての英語を意識する」といった体験がとても重要だと考えられます。このような体験が、ひいては、「ネイティブ信仰」から抜け出し、自分の英語に自信をもつことにもつながるのではないでしょうか。

 

【取材協力】

木村 大輔准教授(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院)

木村 大輔准教授(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院)のお写真

<プロフィール>

専門は、社会言語学や応用言語学。ペンシルバニア州立大学 応用言語学研究科博士課程を修了後、東京大学 グローバルコミュニケーション研究センター特任講師を経て、2020年4月より現職。異文化コミュニケーション、留学、共通語としての英語、マルチリンガリズムなどをテーマとした研究を行い、国際学会での発表や論文投稿によって国内外に広く研究成果を報告している。

 

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