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ワールドファミリーバイリンガルサイエンス研究所

日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2018.02.17

「なぜバイリンガルに?」世界のバイリンガル歴史 〜多民族国家①:スイス編〜

「なぜバイリンガルに?」世界のバイリンガル歴史 〜多民族国家①:スイス編〜

日本では、「バイリンガル」と聞くと、外国人の親をもつ人、帰国子女、通訳者など、極めて特別な存在を思い浮かべる人が多いことでしょう。しかし、世界の人口の半数はバイリンガルだと言われており、[1] 決して珍しい存在ではありません。そして、バイリンガルが生まれるきっかけは、国によってさまざまです。まずは、スイスをはじめに、多民族国家の例をいくつか紹介します。

 

スイスで話されている言語

スイスの国語および公用語は、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の四つ。[2] 例えば、スイス連邦局のホームページでは、国名「スイス連邦」が四つの公用語で表記され、すべてのコンテンツが四言語で提供されています。[3] スイス国民における言語の使用状況は、以下の図表の通りです。

参考:Swiss Federal Statistical Office (2017). Switzerland Population 2016. p.32. https://www.bfs.admin.ch/bfs/en/home/statistics/population.assetdetail.3902101.html(2018年1月アクセス)

*1 永住者のみ対象
*2 スイス・ドイツ語(スイス各地で話し言葉として使用されるドイツ語の諸方言の総称7)を含む
*3 ティチーノ語(ティチーノ州で話されるイタリア語)やグラウビュンデン州で話されるイタリア語の方言を含む
※二つ以上の言語を回答可とした調査のため、各人口の総合計が100%を超える(115.9%)。
 

スイス人の3人に1人はバイリンガル

上図において、各人口の総合計が100%を超えて115.9%となっています。これは、二つ以上の言語を回答した人がいるためです。よって、超過分である15.9%のスイス人が二つ以上の言語を日常的に話している、と推測できます。また、スイス連邦統計局(2017)によると、「仕事や教育の場で、主に話す言語は?」という質問に対し、「二つ以上の言語を話す」と答えたスイス人は全体の39%でした。[4] つまり、3人に1人以上が、少なくとも職場や学校ではバイリンガルとして生活しているのです。さらに、複数の言語を週1回以上使っているスイス人は68%であり、うち使用言語が二つの人が38%、三つ以上の人が26%、という調査結果も発表されています。[5]

 

複数の言語圏地域による同盟で成り立ったスイス

スイスは、なぜ多言語社会となったのでしょうか?その理由は、古代ローマ時代にスイスが建国された経緯にあります。

1291年、ローマ皇帝の直轄領であった三つの地域が、ハプスブルク家の支配から自由と自治を守るため、誓約同盟を結んでスイスを建国しました。各地域の独立性は高く、それぞれ「カントン」と呼ばれます。その約200年後には同盟地域が13まで増え、すべてドイツ語圏でした。[6] 前述の通り、スイスにおいて最も多く使われている言語はドイツ語ですが、この国の成り立ちが背景になっていると考えられます。

1798年、フランス革命軍に侵攻され中央集権的な国家となりますが、ドイツ語は引き続き国語および公用語として認められました。その後、各カントンの主権が再び認められるようになり、隣接する9カントンが新たに加わります。現在のスイスにおけるイタリア語およびロマンシュ語圏のグラウビュンデン州、イタリア語圏のティチーノ州、フランス語圏のジュネーブ州などは、このときに加わりました。[6]  こうして、スイスという一つの国の中に、独立性の高い、複数の言語圏・文化圏地域が存在することになったのです。

現在のスイスにおける各言語圏の地域は下図の通りであり、オレンジ色がドイツ語圏、紫色がフランス語圏、緑色がイタリア語圏、黄色がロマンシュ語圏です。それぞれ、ドイツやフランス、イタリアに隣接する地域であることから、スイス建国の歴史と言語使用状況が深く関係していることがわかります。


©BFS/OFS/UST/FSO

引用:Swiss Federal Statistical Office (2017). Kanton und Sprachregionen der Schweiz.  https://www.bfs.admin.ch/bfs/en/home/statistics/catalogues-databases/maps.assetdetail.1940056.html(2018年1月アクセス)

スイスの隣接国


地図データ©2018 GeoBasis-DE/BKG、Google

1848年には、ドイツ語、フランス語、イタリア語の三つが国語となります。そして1938年にはロマンシュ語が加わり、事実上のみならず法律的にも、スイスは多言語国家となりました。

なお、ロマンシュ語の話者は当初から少なく、上図の通り、現在はわずか0.5%です。このような少数派言語が国語となった背景には、国土をイタリアの侵略から守ろうとするスイスの政治的戦略があります。当時のイタリアでは、ファシスト党による民族統一運動が起こり、ロマンシュ語はイタリア語と同系言語だったため、スイスにおけるロマンシュ語圏が侵略される恐れがありました。そこでスイスは、ロマンシュ語を国語とすることで、ロマンシュ語圏がスイスに属することをアピールしたのです。[7]

 

スイスでバイリンガルが多い理由

異なる言語圏地域の同盟によって成り立った国であること。そして、行政面のみでなく言語文化や教育の面においても各カントンの主権が大幅に認められてきたことにより、何百年もの間、多言語国家が維持されていること。この2点が、スイスでバイリンガルが多い主な理由だと考えられます。

なお、日本を含む世界各国と同様に、スイスにおいても英語の重要性が増しています。小国であるスイスにおいては研究や教育が重要な国家資源であると認識されており、国内の経済や学術研究の発展のため、海外からの学生や研究者を誘致できるよう、大学(特に大学院)がすべての講義を英語で行うという方針がスイス全土で一般化しつつあります。[8] また2007年には、「義務教育終了時に少なくとも2つの「国語」と1つの外国語を使える能力が保障されるべきである」とする法律が定められました。[9] つまりスイスは、①母語 ②母語以外のスイスの国語 ③外国語(主に英語)というトリリンガル教育に向けて、国家的に取り組んでいるのです。

さらに、スイスの労働者における外国人の割合は1960年ごろから増え続け、2015年には外国人労働者の割合は30.4%となり、その約8割がEUやEFTA諸国出身です。[iii] 国内に外国人が増えることにより、英語が共通語として機能する場面が増える可能性は高いと推測できます。実際に、スイスの職場で使用されている言語は、1位がスイス・ドイツ語、2位が標準ドイツ語、3位がフランス語、4位が英語、5位がイタリア語であり、英語の順位がスイスの国語および公用語であるイタリア語を抜いています。[10]

日本では、自分とは異なる言語を話す人と接すること、母語以外の言葉を習得することは特別なことのように感じられます。しかし、スイスでは何百年も前から極めて身近なことだったのです。

参考文献:

[1] Ellis E (2006). Monolingualism: The unmarked case. Studios de Sociolinguistica, 7(2), p.173-196.

[2] Central Intelligence Agency United States of America (2017). SWITZERLAND. The World Factbook. https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/geos/sz.html (2018年1月アクセス).

[3] The Federal Council: The Portal of the Swiss Government (2018). https://www.admin.ch/gov/en/start.html(2018年1月アクセス).

[4] Swiss Federal Statistical Office (2017). Switzerland Population 2016. p.33.  https://www.bfs.admin.ch/bfs/en/home/statistics/population.assetdetail.3902101.html(2018年1月アクセス).

[5] Swiss Federal Statistical Office (2016). First results of the language, religion and culture survey 2014: Multilingual Switzerland. https://www.bfs.admin.ch/bfs/en/home/statistics/population.assetdetail.1000408.html(2018年1月アクセス).

[6] 高橋秀彰(2009).「スイス連邦の公用語と国語 −史的背景と憲法上の言語規定−」『関西大学 外国語学部紀要』, 創刊号, 27-40. 関西大学. https://www.kansai-u.ac.jp/fl/publication/pdf_department/01/Takahashi.pdf (2018年1月アクセス).

[7] 小林和子(1998).「多言語国家スイスの初等学校における言語教育の動向 –第二言語教育か英語教育か−」『高岡短期大学紀要』, 12, 121-129. CiNii. https://ci.nii.ac.jp/els/contents110000999489.pdf?id=ART0001178999(2018年1月アクセス).

[8] Geraldine Wong Sak Hoi (2014). English a fact of life for many Swiss students. swissinfo.ch. https://www.swissinfo.ch/eng/university-courses_english-a-fact-of-life-for-many-swiss-students/37652268(2018年1月アクセス)

[9] 吉満たか子(2013).「スイスの言語教育政策とティチーノ州のギムナジウムにおけるドイツ語教育」『広島外国語教育研究』, 16, 261-272. 広島大学 学術情報リポジトリ. http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/3/34512/20141016202555667303/h-gaikokugokenkyu_16_261.pdf(2018年1月アクセス)

[10] Swiss Federal Statistical Office (2017). Statistical Data on Switzerland 2017. p.12. https://www.bfs.admin.ch/bfs/en/home/statistics/catalogues-databases/publications/overviews/statistical-data-switzerland.assetdetail.2040009.html(2018年1月アクセス)

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