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ワールドファミリーバイリンガルサイエンス研究所

日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2018.02.17

「なぜバイリンガルに?」世界のバイリンガル歴史 〜多民族国家③:フィリピン編〜

「なぜバイリンガルに?」世界のバイリンガル歴史 〜多民族国家③:フィリピン編〜

フィリピンは多民族国家であり、母語+異民族間の共通語+英語のトリリンガルが存在します。しかし、英語を話す人が一部のエリート層であるパキスタンと異なり、フィリピンでは英語が広く普及し、日本では英語の語学留学先としても人気を増しています。

フィリピンで話されている言語

国語はフィリピノ語、公用語はフィリピノ語と英語です。[1] フィリピンに存在する言語は計187と言われていますが、[2] その多くは話者の減少により衰退傾向にあり、日本の外務省は「80前後の言語がある」としています。1 そして、母語による人口の割合は下図の通りであり、異なる言語同士でお互いに理解することは困難です。

一方、2014年の調査によると、家庭で話されている言語は、フィリピン人の37.8%はフィリピノ語、26.7%はセブアノ語、9.5%はヒリガイノン語を家庭です。[3] また、母語による学校教育や出版物などが少ないため、母語で聞く・話すことはあっても、母語で読む・書くということは少ないようです。[4]

参考:Philippine Statistics Authority (2017). Philippines in Figures 2017. p.24.   https://psa.gov.ph/sites/default/files/PIF_2017.pdf(2018年1月アクセス).

フィリピノ語とは

前述の通り、フィリピンでは、約3人に1人がタガログ語を母語とし、その母語話者以上の人口が家庭でフィリピノ語を話しています。このタガログ語とフィリピノ語は密接な関係にあり、タガログ語を日本の東京弁、フィリピノ語を日本の標準語に例える研究者もいます。[5]

東京弁と標準語は完全に同一ではないものの、東京で生まれ育った人は学校教育やメディアを通じて、ほぼ無意識に標準語での会話を身につけます。しかし、そのほかの方言が話される地域で生まれ育った人は、標準語を聞き理解することはできても、自分が話すとなると意識が必要です。また、長年東京に住むことにより、自分の故郷の方言ではなく標準語を無意識に家庭で話すようになる人もいます。このように考えると、フィリピノ語を家庭で話す人は37.8%ですが、その中には、フィリピノ語の基礎となっているタガログ語を母語とする人と、そうではない人(例えば、タガログ人との結婚やタガログ語圏地域への移住などにより、フィリピノ語を家庭で話すようになった人)が混在していると考えられます。

タガログ語は、スペイン統治時代からフィリピンで普及していた民族語のうちのひとつであり、1898年に公用語となりました。[ii] アメリカ統治時代の1940年には国語に制定され、独立後の1959年にはピリピノ語と呼ばれるようになり、国内の標準語として広く普及します。さらに1973年の憲法により、英語とともに公用語に指定されました。翌年の1974年、フィリピンの文部省は、英語とピリピノ語の二つを指導言語とするバイリンガル教育を行うことを決定しました。従来、フィリピンの子どもたちは、小学1・2年生は母語で、3年生以降は大学まで英語で全教科を学んでいましたが、この決定以降は、小学1年生から大学まで、理科・数学は英語で、社会・道徳はピリピノ語で、というように、教科によっていずれかの公用語で学ぶことになります。また、母語ではないピリピノ語で教科を教える必要が生じた学校教員もいました。[4]

しかし、タガログ語を母語としない民族の中には、このような状況を不公平だと反発する人もいます。そこで、1973年の憲法により、「フィリピノ語」というフィリピン国民共通の国語を新たに開発することが決定しました。当時は、各民族の平等性を意識し、フィリピンで話されているすべての言語の語彙や音韻、文法などを融合させてフィリピノ語を開発する予定でしたが、40年以上経った現在も実現していません。[4] その間、学校教育によりピリピノ語があらゆる民族の第二言語および異民族同士の会話に使われる共通言語となっていき、ピリピノ語からフィリピノ語へ名称が変わったのみに留まっています。

 

英語を話す人口は、世界第3位

フィリピンにおける英語話者数は、世界第3位と言われています。[iii] また、イー・エフ・エデュケーション・ファーストの2017年度調査によると、前編で紹介したパキスタンの英語能力指数は、英語を母国語としない80カ国中52位であり、日本の37位よりも低い順位でした。一方、フィリピンは15位と極めて高い順位です。[8] また、2016年のTOEIC受験者の国別平均スコア(年間受験者数500人以上の49カ国が対象)のランキングではヨーロッパ諸国に次ぐ12位となり、平均スコアは日本の516よりもはるかに高い709でした。[9]

国別のTOEIC平均スコア(2016年)

*リーディング・テストとリスニング・テストの合計スコアの平均参考:Educational Testing Service (2016). 2016 Report on Test Takers Worldwide: The TOEIC® Listening and Reading Test. p.5. 一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会. http://www.iibc-global.org/library/default/toeic/official_data/pdf/Worldwide2016.pdf(2018年1月アクセス).

約10年前のフィリピンの国勢調査Social Weather Survey(2008年)では、ランダムに選出された1200人のフィリピン人(成人)を対象にした対面インタビューが実施され、「自分の英語力はどのレベルに当てはまりますか?」という質問に対して「英語をまったく理解できない」を選択した人はわずか8%でした。一方、76%が英語での会話を理解し、46%が英語を話し、38%が英語で思考することができる、という回答でした。[10] つまり、3人に1人以上のフィリピン人は、極めて日常的に英語で考え英語で話していると言えます。また、75%が英語を読み、61%が英語で書くことができると回答していることから、多くの国民に英語教育が普及し、それがTOEICスコアの高さに現れていると推測できます。

フィリピンは、英語力が高い国民が多いだけでなく、日常的に使う国民が多いことも特徴のひとつです。下図の通り、フィリピン人の47%が、日常的に、または頻繁に英語を使って生活していることが前述の国勢調査でわかりました。7 フィリピン人口約1億人のうち半分以上、つまり5000万人以上のフィリピン人が母語+フィリピノ語+英語のトリリンガルだと考えられます。前述の国勢調査は成人を対象としているため、未成年も含めれば、トリリンガル人口はさらに多いでしょう。

参考:Social Weather Stations(2008). First Quarter 2008 Social Weather Survey: National proficiency in English recovers. https://www.sws.org.ph/swsmain/artcldisppage/?artcsyscode=ART-20151217102849(2018年1月アクセス).

 

アメリカ統治時代の英語教育、そして英語を使う環境

英語が公用語であっても、国民の英語力や英語の普及率が低い国もある中、フィリピンでの英語話者が多い背景には、アメリカ統治時代の英語教育があります。

フィリピンは、16世紀から約300年間スペインに支配され、フェリペ(スペイン国王の名前)の国という意味をもつ国名「フィリピン」にその名残が残っています。スペイン宣教師によるスペイン語教育は実施されましたが、効果的な指導法ではなかったことやスペインへの反発心などにより、スペイン語で会話できるようになったフィリピン人はほとんどいませんでした。

1898年から約50年間、米西戦争の末にアメリカの植民地となり、第二次世界大戦後の1946年に独立しました。アメリカ統治時代は、フィリピン各地に公立小学校が設立されます。統治開始とともに英語指導が導入され、3年後には600人ものアメリカ人教師がフィリピンに派遣されました。1908年には大学も設立され、フィリピン人の教師養成も積極的に行われました。1939年には26.5%、1990年には69.55%のフィリピン人が英語を話せるようになったと言われています。[6]

アメリカ人がスペイン人に比べて「親切で好意的だった」こと、英語は世界に通じる言語であるとフィリピン人が認識していたこと、アメリカ人教師が「アメリカ人に母語の英語を教えるように、フィリピン人に英語教えた」こと、小学校の無償化や義務教育制度の確立などによる教育水準の引き上げなど、フィリピンにおける英語教育を研究する学者により、アメリカによる英語教育の成功要因と思われる事項がいくつか挙げられています。[6]

また、学校で英語を学ぶのみでなく、日常生活において英語にふれる環境であることも、フィリピンでの英語普及率が高い理由のひとつだと考えられます。現在のフィリピンでも、官庁、法律、医学などの専門分野やビジネスなどにおける文書、路上の交通標識や広告、看板などが英語で表記されていることから、英語力(特に読む・書く力)は、多くの国民にとって必要です。また、英語で提供されるテレビやラジオ番組があるだけでなく、例えば、フィリピノ語で提供されるニュース番組の最後に英語での解説が付け加えられるなど、意図的に英語にふれようとしなくても、英語を耳にする機会が身近にある環境です。[4][11]さらに、知識人や技術者、ビジネスマンなど、社会的・経済的な成功者が主に英語を使っていることも、英語学習の強い動機付けになっています。[4]

また、前述の通り、タガログ語を母語としない民族の中には、タガログ語を基礎とするフィリピノ語を使うことに抵抗感があり、異民族との会話にあえて英語を使う人もいます。また、中学校では、タガログ語を母語とする地域ではフィリピノ語で読み・書きを教える場合が多いものの、そのほかの地域では主に英語で読み・書きをします。[4]

このような民族アイデンティティが、フィリピンにおける英語の使用頻度をさらに高める可能性もあります。[5]


国民の英語力はフィリピンの財産

フィリピン政府の投資委員会は、流暢に英語を話せる人口の多さや識字率の高さ(2013年時点の15歳以上成人:フィリピン96.4%、世界平均85.5%[12])、カスタマーサービス業への適性など、人材としての質の高さはフィリピンの強みのひとつであると述べています。[13] アメリカ企業のコールセンターがフィリピンに設置され、フィリピン人がアメリカ人の顧客対応を行っていることは、その例のひとつと言えます。[14] 日本では、1999年の日産自動車をはじめ、ユニクロで知られるファーストリテイリングや楽天など、英語を公用語化する企業が出始めていますが、現場の社員の間では業務効率の悪化や過剰な負担も懸念されています。[15] こうした日本の状況と比べると、フィリピンは英語力において極めて優位であり、企業のグローバル化がより容易になる可能性は高いと考えられます。

また、フィリピンは、英語という財産により、海外からの学生も増えました。国内のトップ大学は、すべての講義が英語で提供され、その結果、イランやリビア、ブラジル、ロシア、中国や日本などの多くの海外学生がフィリピンの大学や大学院を卒業しています。[7]  また、大学のみでなく、英語を学ぶ外国人向けの語学学校が約70〜100と多数あり[16]、日本では、距離が近いことや留学費用の安さから短期留学先としても人気を増しています。一般社団法人海外留学協議会の調査によると、2016年の日本人留学生数が多い国は、1位 アメリカ、2位 オーストラリア、3位 カナダ、4位 イギリス、5位 フィリピンでした。[17] 日本人の留学先の約8割は欧米諸国であるものの、フィリピンがニュージーランドを抜いて5位になっていることから、フィリピンの人気ぶりが伺えます。

ひとつの文章の中で母語やフィリピノ語、英語を気軽に切り替えて会話することや、英語とタガログ語が混ざった「Tagalish」の存在は、フィリピンにおける言語使用の特徴であり、フィリピン人の英語は外国人に通じにくい場合があるという指摘もあります。[5][12] しかし、それだけ英語が身近であるという証とも考えられます。また、英語とフィリピノ語を混ぜて話す場合も、ランダムではなく規則性があり、高度な英語文法知識があるからこそできるものもある、と分析する研究者もいます。[10] 日本人は、例えばアメリカの英語と比べて発音や単語、文法が同じかを気にして話せないことがありますが、フィリピン人は、形式を気にせずコミュニケーションの手段として気軽に使用しているのです。日本人が英語を身につけようとするとき、フィリピンから学べることは多くあるでしょう。

 

参考文献:

[1] 外務省(2017).「フィリピン共和国基礎データ」. http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/philippines/data.html#section1(2018年1月アクセス).

[2] Simons, Gary F. and Charles D. Fennig (eds.) (2017). PHILIPPINES. Ethnologue: Languages of the World, Twentieth edition. Dallas, Texas: SIL International. Online version. http://www.ethnologue.com/country/PH(2018年1月アクセス).

[3] Mahar Mangahas (2016). Numbers on Filipino, Cebuano and English. Philippine Daily Inquirer. INQUIRER.net. http://opinion.inquirer.net/97210/numbers-on-filipino-cebuano-and-english(2018年1月アクセス).

[4] 藤田剛正 (1989).「東南アジアの言語政策 その六 フィリピン共和国 (二)」.『東南アジア研究年報』, 31, p.69-90. http://hdl.handle.net/10069/26524(2018年1月アクセス).

[5] 北野浩章(2014).「フィリピンの複雑で悩ましいことば事情」.『Field+ : フィールドプラス : 世界を感応する雑誌 / 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 [編]』, 12, p.8. 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所. 東京外国語大学学術成果コレクション. http://repository.tufs.ac.jp/handle/10108/81865(2018年1月アクセス).

[6] 林桂子(2000). 「フィリピン共和国の英語教育の歴史」.『関西外国語大学教育研究報告』, 1, p.77-92. 関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部. 関西外国語大学機関リポジトリ. http://id.nii.ac.jp/1443/00005683/(2018年1月アクセス).

[7] Department of Tourism; Philippines (2018). About the Philippines. It’s more fun in the Philippines. http://www.experiencephilippines.org/tourism/about-the-philippines-department-of-tourism/(2018年1月アクセス).

[8] EF Education First (2017). EF英語能力指数2017. https://www.ef.com/__/~/media/centralefcom/epi/downloads/full-reports/v7/ef-epi-2017-japanese.pdf(2018年1月アクセス).

[9] Educational Testing Service (2016). 2016 Report on Test Takers Worldwide: The TOEIC® Listening and Reading Test. p.5. 一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会. http://www.iibc-global.org/library/default/toeic/official_data/pdf/Worldwide2016.pdf(2018年1月アクセス).

[10] Social Weather Stations (2008). First Quarter 2008 Social Weather Survey: National proficiency in English recovers. https://www.sws.org.ph/swsmain/artcldisppage/?artcsyscode=ART-20151217102849(2018年1月アクセス).

[11] Amy Chavez (2013). Japan should take English lessons from Philippines. The Japan Times. https://www.japantimes.co.jp/community/2013/12/27/our-lives/japan-should-take-english-lessons-from-philippines/#.WloIja09xsN(2018年1月アクセス)

[12] UNESCO Institute for Statistics (2018). Literacy rate: Philippines: Adult literacy rate, population 15+ years, both sexes. http://data.uis.unesco.org/index.aspx?queryid=166#(2018年1月アクセス).

[13] Butch Hernandez (2015). English proficiency as a competitive edge.  INQUIRER.net. http://opinion.inquirer.net/86602/english-proficiency-as-a-competitive-edge(2018年1月アクセス).

[14] Kate McGeown (2012). The Philippines: the world’s budget English teacher. BBC News, Philippines. http://www.bbc.com/news/business-20066890(2018年1月アクセス).

[15] 溝上憲文(2015).「英語公用語化は突然降ってきた……ドメスティック社員たちの慟哭」. PRESIDENT. http://president.jp/articles/-/16036?page=2(2018年1月アクセス).

[16] 新田目夏実(2014).「フィリピンと英語教育」.拓殖大学国際学部WEBマガジン『世界は今』, 24. http://fis.takushoku-u.ac.jp/research/wn_backnumber/24/1-1.html(2018年1月アクセス).

[17] 日本経済新聞社(2017). 「日本人留学先、フィリピンが第5位に上昇」. フィリピン経済金融情報. 日経テレコン, 記事ID:PHLKDB20171229-25319(2018年1月アクセス).

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