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ワールドファミリーバイリンガルサイエンス研究所

日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2018.02.17

「なぜバイリンガルに?」世界のバイリンガル歴史 〜多民族国家②:パキスタン編〜

「なぜバイリンガルに?」世界のバイリンガル歴史 〜多民族国家②:パキスタン編〜

国家の成り立ちによりバイリンガルが生まれた国は世界中に多数存在します。その中でも、さらに宗教が関係している国としてパキスタンを紹介します。

パキスタンで話されている言語

パキスタンの国語はウルドゥー語、公用語は英語です。しかし、これらを母語とするパキスタン人の割合は極めて少なく、そのほかの言語を母語とする人が多数派です。パキスタンは、パンジャブ人、シンド人、パシュトゥーン人など、さまざまな民族が集まり、72もの言語が話されている多民族国家なのです。[1]


参考:Central Intelligence Agency United States of America (2018年). PAKISTAN. The World Factbook.    https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/geos/pk.html (2018年1月アクセス)

国民の約8割はバイリンガル

パキスタン人は、日常生活では各民族の母語を話しますが、小学校から必修科目として国語のウルドゥー語を学び、多くの公立学校ではウルドゥー語で全科目を学びます。[i] ウルドゥー語はパキスタン全土で通じる言語であり、異民族同士の共通言語として機能していますが、義務教育制度が確立していないためにウルドゥー語を理解しない国民もいます。母語とウルドゥー語のバイリンガルは全人口の約8割であり、話す相手や内容によって言語を使い分けます。 [2] [3] [4] 英語は、私立学校や高等教育、公文書や憲法、海外とのビジネス現場などで使用されており、主にエリートや政府関係者、ビジネスマンなど一部のパキスタン人に話されているものの、多くのパキスタン人に英語が通じます。 [2] [5] [6]

イスラム教国家として建国されたパキスタン

パキスタンで英語が公用語となっている背景には、元イギリス領インド帝国であった歴史があります。では、母語話者が1割未満と極めて少ないウルドゥー語が国語になっているのは、なぜでしょうか? その理由には、宗教が深く関係しています。 [2] [5] [6]


地図データ©2018 Google、ORION-ME、SK telecom、ZENRIN

イギリス領インド帝国からの独立時、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立が起こりました。そして、ヒンドゥー教徒が多い地域がインド、イスラム教徒が多い地域がパキスタン、と分離して独立します。「パキスタン・イスラム共和国」という正式国名の通り、パキスタンはイスラム教徒の国として1947年に建国されました。しかし、パキスタンとなった地域には、多数の民族と言語が存在します。そこで、1973年、古くからインド亜大陸のイスラム教徒同士の共通言語であり、イスラム文化の象徴であるウルドゥー語を国語に制定することで、異民族同士をイスラム教という共通点で繋げ、パキスタン人という意識を国民にもたせようとしたのです。[7] また、ウルドゥー語の母語話者が国内に少ないからこそ、各民族の中立的な共通言語になりうるという側面もありました。[3] 初等教育でイスラム学が必修科目になっていること、ウルドゥー語のみでなくアラビア語やペルシア語などイスラム教の教養となる外国語を学ぶ学科が国立大学に設置されていることなどからも、パキスタンにおいてイスラム教が重要視されていることがわかります。[2]

 

国民統一の象徴ウルドゥー語か、それとも世界を見据えた英語か

日本と同様、パキスタンの親たちも、子どもに英語を話せるようになることを望んでいます。英語は、子どもの可能性を広げ、よい生活を送るために必要なものとして考えられているのです。2 実際にパキスタンでは、実務で高い英語力を必要としない会社でさえ、英語を流暢に話せる人のほうが就職に有利だと言われています。[8]

1960年〜1970年代のパキスタンにおける英語は、ビジネスや政治界のエリート層・富裕層の言語でした。しかし現在は、国内のほとんどの地域で、全教科を英語で教える私立学校が少なくとも一つはあり、出版物やインターネット上でも英語の使用が急増していると言われています。[9] さらに、パンジャブ州は、公立学校における教科指導言語をウルドゥー語(または生徒たちの母語)から英語に変更するという計画を公表しました。この計画については賛否両論あるものの、もし実施されれば、子どもたちは、数学や科学などすべての教科を英語で学ぶことになります。

一方、パキスタン政府は1973年、15年以内に公用語もウルドゥー語にすることを法令で定めましたが実現せず、2015年に再び、公用語を英語からウルドゥー語に変更するよう最高裁が政府へ命じました。しかしながら、いまだに実現していません。パキスタン政府は、英語を理解しないパキスタン人の政治参加を可能にし、より民主的な政治となる、との見解を示しています。1 実際にパキスタンでは、英語が公用語となっているインドやスリランカと比べると、英語を話す人口は少なく、英語のテレビ番組が放送終了となる一方でウルドゥー語などの番組は多く提供されています。[7]

しかしながら、多くの国が英語を共通語とし始めている現状に逆行し、世界の流れから政治的にも経済的にも取り残されるのではという懸念の声もあります。4 また、特にITの分野では、ウルドゥー語への対応が遅れています。ウルドゥー語対応のソフトウェアは、1970年代から1980年代はじめにかけて開発されましたが、統一された規格がなく、それぞれ独自に開発されたままのため、世界的な有名なソフトウェア同士でさえ、文字フォントなどの互換性がありません。キーボードの配列もメーカーによって異なります。[1]

あらゆる分野でIT 化が進む現状を考慮すると、英語の代わりにウルドゥー語が公用語としてすぐに機能することは難しく、パキスタンにおける英語の重要性が低くなることはないと推測できます。現在も、都市部においては、母語とウルドゥー語、英語の3つを使い分けながら生活をするパキスタン人が多く、英語だけで仕事をするビジネスマンもいます。[2][4]

 

母語+ウルドゥー語+英語のトリリンガルの可能性

イギリスによる植民地支配を経て、紛争の末に異民族が集まるイスラム教徒の国として建国されたパキスタンにとっては、国語であるウルドゥー語は、国民統一のシンボルとしての役割が大きくあります。これが、8割ものパキスタン人が母語+ウルドゥー語のバイリンガルであることの理由だと考えられます。さらに今後は、植民地時代が遠い過去のこととなり、さらに経済が発展していくにつれて、英語は「植民地時代の言語」から「良い生活を送るために必要な言語」となっていくことでしょう。

政府の言語政策や義務教育の未確立など、英語を話すパキスタン人がすぐには増加しない要因はいくつかあります。しかしながら、すでに大多数が二つの言語を使って生活しており、公用語として英語にふれる機会のあるパキスタン人にとって、英語を身につけることが日本人よりもはるかに身近なことは確かです。将来的には、母語+ウルドゥー語+英語のトリリンガルが増加する可能性は十分にあると考えられます。


参考文献:

[1] Waqas A Kahn (2017). Is Urdu losing race?. Pakistan Today. https://www.pakistantoday.com.pk/2017/04/30/is-urdu-losing-the-race/(2018年1月アクセス).

[2] 萬宮健策(2014).パキスタンの大学における英語、ウルドゥー語教育の現状 −現地調査報告−. 科学研究費助成事業 基盤研究B アジア諸語を主たる対象にした言語教育法と通言語的学習達成度評価法の総合的研究(研究代表者:富盛伸夫),第9回研究会.東京外語大学大学院総合国際学研究院. http://www.tufs.ac.jp/common/fs/ilr/ASIA_kaken/_userdata//20140606mamiya.pdf(2018年1月アクセス).

[3] 外務省(2010). チャレンジ41か国語〜外務省の外国語専門家インタビュー〜. http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/staff/challenge/int37.html(2018年1月アクセス).

[4] 萬宮健策(2006). パキスタンの諸言語資源をめぐる現状と課題. アジア情報室通報, 4(4). 国立国会図書館リサーチナビ. https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin4-4-1.php(2018年1月アクセス).

[5] Aditya Agrawal (2015). Why Pakistan Is Replacing English with Urdu. Time. http://time.com/3975587/pakistan-english-urdu/(2018年1月アクセス).

[6] Farhan Uddin Raja (2016). Bilingual Education System at Primary Schools in Pakistan. ResearchGate. https://www.researchgate.net/publication/305471628_Bilingual_Education_System_at_Primary_Schools_of_Pakistan(2018年1月アクセス).

[7] Pervez Hoodbhoy (2016). Is Pakistan’s Problem Urdu?. Dawn. https://www.dawn.com/news/1243652/is-pakistans-problem-urdu(2018年1月アクセス).

[8] Zubeida Mustafa (2012). Pakistan ruined by language myth. The Guardian.  https://www.theguardian.com/education/2012/jan/10/pakistan-language-crisis(2018年1月アクセス).

[9] M Ilyas Khan (2015). Uncommon tongue: Pakistan’s confusing move to Urdu. BBC News, Islamabad. http://www.bbc.com/news/world-asia-34215293(2018年1月アクセス).

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