日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2016.11.18
著者: ハナコ・ヨシダ、ダク・N・トラン、ビリディアナ・ベニテス、メグミ・クワバラ
出典: Frontiers in Psychology, Vol.2, 2011.
http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fpsyg.2011.00210/full
要約: ポール・ジェイコブス
バイリンガルの子どもはモノリンガルの子どもに比べて、新しい単語を覚えるのが上手なのだろうか?もし上手なのだとしたら、その要因は何なのだろうか?これらの疑問に対するヨシダ等の調査結果をまとめたものが、本研究論文である。
非言語課題※1 において、バイリンガルはモノリンガルに比べ、注意抑制能力※2 が高いことは多くの研究が既に示している。例えば、車の運転手は美しい紅葉の景色よりも、安全に運転する為、道の前方に注意を払う必要がある。
「紅葉を見たい」という欲求を無視して、前方に意識を集中させる必要があるが、バイリンガルの方が、こういった注意抑制を上手に行うことができるというわけだ。しかし、この能力は言葉の習得においても同様に働くのだろうか?
本研究の結果は“Yes”。モノリンガルに比べ、注意抑制能力が優れているバイリンガルの子どもは、新しい単語(この研究では形容詞)を覚える能力も同様に高いと結論づけている。
本研究で形容詞を選んでいる理由は、一般的にどの言語でも、形容詞を覚えることは名詞を覚えることよりも難しいからだ。小さい子どもは、名詞を最初に覚えるので、例え動詞や形容詞であっても、名詞として覚えてしまう傾向があるのである。
したがって、cupという名詞に新しい形容詞をつけ、2つの異なる言葉を正しく結びつけるには、注意抑制能力が必要になるのである。(例えば It’s a shiny cup)
本研究に参加した子どもは全員がアメリカ合衆国に住んでいる。英語のモノリンガルの子ども20名とバイリンガルの子ども(英語と中国語、英語とスペイン語、英語とロシア語、英語とウルドゥー語、英語とベトナム語)20名、合計40名の3歳児が本研究に参加した。
バイリンガルの子どもはほとんどが生まれて1年以内に英語に触れている。家の外では英語を使い、家庭では英語以外の言葉を使っている。社会経済階層に大きな違いはない。
行ったテストは4つで、結果はそれぞれ以下の通りである。
① 単語数の習得度合い
子ども達が習得している単語数を調べたが、モノリンガルの中間値が308.0、バイリンガルは308.9で、2グループ間に大きな違いはなかった。
② 既に知っている形容詞と“もの”のマッチング・テスト
このテストは、概念を理解し形容詞と物体を適切に結び付けられるかどうかを見るテストである。子ども達は『きらきら光る緑色のあひるのおもちゃ』を見せられ、「これはきらきら光るあひるです」と教えられる。
その後、子ども達は2つの異なったあひるを見せられる。一つは『きらきら光る赤いあひる』で、もう一つは『こぶで覆われている赤いあひる』である。そして、「きらきら光るあひるを取ってください」と質問され、正しく選択できれば正解というわけである。
このテストをbumpy, spotty, shiny, holyという複数の形容詞と、ducks, snakes, horses, straw,といった複数の名詞で繰り返し行った。
結果、モノリンガルの子どもは問題の69%、バイリンガルの子どもは72%の問題に正しく回答し、モノリンガルの子どもも、バイリンガルの子どもも上手にできた。
③ 新しく作った形容詞と“もの”のマッチング・テスト
本テストでは、子ども達は4つの新しく作った(本来は存在しない)形容詞(blickish、dakish、talish、waggish)を教えられた。そして、テスト②と同様の方法で新しく作った形容詞と“もの”を適切に結び付けられるかのテストを行った。
その結果、モノリンガルの子どもの成績は、バイリンガルの子どもの成績に比べ、著しく低い結果となった。バイリンガルの子どもが78%の問題に正しく答えたのに比べ、モノリンガルの子どもは49%の問題にしか正解できなかったのである。
この結果は、バイリンガルの子どもは、新しい形容詞を名詞と結びつける能力がモノリンガルの子どもより優れていることを示している。言い換えれば、バイリンガルの子どもは、新しい形容詞を、モノリンガルの子どもよりも効果的に学ぶことができるということである。
④ アテンション・ネットワーク・テスト
アテンション・ネットワーク・テストは、子どもの注意抑制レベルを測定するために行った。モノリンガルの子どもと、バイリンガルの子どもはそれぞれコンピューター・スクリーンに映っている魚のうち、空腹な魚にだけ口を触って餌をやるように指示された。
5匹の魚が右を向いて並んでいるとしよう。(→→→→→※3)
空腹な魚が真中の1匹だけの場合、子どもは真中の魚の口を触れば正解である。
だが、同じく5匹の魚のうち真中の魚だけが空腹だが、向いている方向が違う(→→←→→※4)場合はどうだろうか。残りの魚の向きに惑わされず、左を向いている魚の口を触ることができれば正解である。
テスト結果は、モノリンガルの子どもの正確性49%に対し、バイリンガルの子どもは約70%であった。応答時間では、モノリンガルの3316.74msに対し、バイリンガルは2920.39msとなった。
この結果は、小さいバイリンガルの子どもは、非言語注意抑制課題で、正確性及び応答時間の両方において、モノリンガルの子どもよりも優れているという、以前の研究結果を反映するものとなった。
まとめると、本論文では小さいバイリンガルの子どもは、感情をコントロールして新しい単語にフォーカスすることが上手なので、モノリンガルの子どもに比べ、新しい言葉の習得が上手であると結論づけている。
つまり、早期バイリンガル学習と注意抑制能力の間には関連性があり、このことが、どの言語であれ、子どもが新しい言葉を覚えるときに有利に働くので、「早くから第二言語を学ぶことで、子どもは混乱ではなく、むしろ恩恵を受けることができる」と本論文は示しているのである。
※1 非言語課題
言葉を必要としない課題のこと
※2 注意抑制能力
非言語課題とは言語を要しない課題で、また注意制御能力とは注意を払うべきことと無視すべきことを見分ける能力のこと。
※3 →→→→→
全ての魚が右を向いていることを示している
※4 →→←→→
真中の魚はだけ左を向いていることを示している